いたずら攻防戦 | ナノ

いたずら攻防戦


2-1



 詐欺師の俺を騙した名字名前という女子に、正直のところ惹かれていた。幼い顔した可愛い女子に見えるが、中身はひねくれて食えないやつ。かと思えばお茶目にいたずらしてくるところやたまに見せてくれる無邪気な笑顔は卑怯なほどに可愛い。

 詐欺師としても騙されて翻弄され続けるのは癪なので、仕返しにからかってやった。ところが俺の思惑に反して彼女の気に障ってしまった。そのため、俺らしくもなく「もう嫌われてしまったのだろうか……」と心を痛めている。

 部活中も思い浮かぶのは彼女の顔で、ついぼんやりとしてしまっていた。そのせいで真田の鉄拳を食らう羽目になり、ますます俺の機嫌は悪くなっていくのだった。

「はあ……」

 思わずため息をついた俺に声をかけて来たのは丸井だった。

「仁王がそんな心あらずって珍しいよな。こないだの女子だろぃ? どうしたんだよ」

 情けない顔しとるんじゃろうなあ。そう思うとまた嫌気がさす。だが、こんなときだからこそ偶には素直に相談してみるのもありかと考え、言ってみる。

「嫌な気にさせてしまっての、嫌われたかもしれん。避けられとる気がする」
「そもそもあの子彼氏いんだろ? ならもうこれを気に諦めたらいいんじゃね」

 さらっと現実を突きつけてきやがる。なかなかコイツも鬼だ。その膨らませたガムを割ってやりたい衝動に駆られたが耐える。

「それができたらとっくにそうしとる」
「ま、そうだよな」
「どうしたもんかのぅ……」
「いっそう直接聞いちゃえば? 案外、あっちは何にも気にしてなかったりするかもしんねえし?」

 とまあ、丸井の提案で俺は名前ちゃんに直接尋ねるに至ったのである。

「うん、ああいうのは嫌」

 と真顔で言われた時はサーっと自分の心が冷えていくのを感じた。まじでやってしもうた、と思った。
 しかし、すぐに名前ちゃんは笑い出して、弄ばれていたのだと気付く。またもや俺がやられてしまった。もしかすると本当に彼女は忙しくて昼休みに来ていなかっただけなのかもしれない。

 最近は不甲斐なく醜態ばかりの俺だが、そうしてはいられない。詐欺師の名にかけても、形成逆転をして彼女を翻弄する側に立ちたい。俺は得意の“イリュージョン”で騙すことにした。

 彼女の弱み、すなわちそれは猫に餌を与えているということだろう。と、なれば彼女が望まない状況というのは生徒会の者か風紀委員にでも見つかることだ。何度か仕掛けてみるか、そう企ててまずは柳生で会いに行くことにした。

 朝練の後、急いで着替えて俺は校舎裏に向かう。そう、柳生の姿でだ。
 名前ちゃんは餌を食べる猫を幸せそうに見つめている。グッドタイミングだ。俺が近寄れば、名前ちゃんはギョッとして猫を隠すようにさっと移動した。俺はにやけそうになる顔を抑えて眼鏡をあげた。

「今、そちらで猫に餌をやっていませんでしたか?」
「え? 何言ってるの?」

 動揺が隠しきれていない。ああ、これじゃ。やはり俺は騙す側がいい。

「では、あなたはここで何をしていたのですか?」
「私、1人になるのが好きなの。教室は騒がしくて……あ!」

 猫が名前ちゃんの後ろから出てくる。にゃーんと俺に向かって鳴いてきた。
 名前ちゃんといえば、相当焦っているのか、猫と俺の顔を交互に見やって口をパクパクさせている。クク、可愛いやつじゃのう。つい笑みが浮かびそうになる。だが、あくまで柳生のように俺は言い放つ。

「猫に餌をやってはいけないと忠告が出されていることはご存知ですよね? 生徒会の方に報告させていただきます」

 名前ちゃんは悔しそうに口を結んでいる。何か探るように俺を見たかと思えば、にやりと不敵な笑みを浮かべた。

「君って柳生くんでしょ? 私、仁王雅治と縁があるんだけど、実は弱みを知っているのよね」

 最初に俺にやった戦法か。柳生の話なんて彼女と大してしていないので嘘は明白だ。よくもまあ堂々とデタラメが出てくるもんじゃ。とはいえ、そんなところも好きになった理由の一つだが。

「に、仁王くんがですか? はあ、あの人という人は……」

 俺はやれやれというふうに俯き加減で首を振る。

「で、どうするの? それでもまだ生徒会に報告する?」

 これ以上、柳生の姿でいても彼女が動揺する姿は見られないと思いネタばらしをすることにした。ばっちりと騙されてくれて満足だ。名前ちゃんにはもう一度、驚いてもらわねば。

「ク、クク……」

 笑い出した俺に対して怪訝そうにする名前ちゃん。俺は自分の姿に戻った。途端にぽかんと口を開けてこちらを見入る彼女の顔はなんとも面白くて俺はまた笑う。

「ええのう、その顔」
「は? ちょっと待って」

 未だに信じられないという風に目をパチパチさせている名前ちゃんは本当に珍しくて気分がいい。

「に、仁王? 仁王雅治? どういうこと?」

 名前ちゃんは立ち上がって顔を近づけてきた。髪を引っ張ってみたり俺の頬をペチペチと叩く。身長差ということもあって彼女が上目遣いで体を触ってくるので俺は少しドキッとした。
 好きな女がこんなに近くにいるのに抱きしめられないのがもどかしい。だが、彼女にその気なんて全くなく訝しげに俺の体を観察している。

「どういうことなの?」

 その質問と同時に朝のチャイムが鳴った。タイムリミットだ。
 名前ちゃんは不服そうに俺から離れる。

「あとできっちり教えてもらうから」

 そう言って走り出そうとした彼女は何かに蹴躓いたのか、目の前で転んだ。すぐに腰を上げて膝とスカートの砂を払う。こちらを振り返らないのは顔を赤らめているからなのだろうか。それならぜひ見たいが、すぐに行ってしまった。

 たまに名前ちゃんはどんくさい。今のようにつまずいたり転んだりしている。そんなところにも可愛さを感じている俺は、随分と名前ちゃんに惚れているんじゃろなぁ。

(~20180807)執筆



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