リレー小説 | ナノ
心の緒

他の人の事だとやたら鋭いくせに、自分の事になると鈍い。そんな人に恋した私はどうすれば良いですか。


「今年こそ彼氏が欲しい!」

「名前ちゃん、声出とる出とる」


年が明けて間もない午前一時。人混みをかき分けて進んだ先でお賽銭を放り込み、適当に手を叩いてペコリと一礼。今年の抱負(というより願望)を口に出すと、一緒に来ていた小春ちゃんに笑われた。

だって声に出した方が神様だって聞こえやすいでしょうよ。ドヤ顔でそう言うと、相変わらずやねぇ、とまた笑われた。
さて、後ろに人もいるからそろそろはけよう。私と小春ちゃんは緩んできたマフラーを巻き直して道を引き返した。

にしてもさすが真夜中……超寒い。年明けすぐの初詣って思いのほか身体に優しくないな。足先から頭のてっぺんまで完全防備の私を見てか、隣の友達が少し申し訳なさそうな声色で話してくる。


「ごめんなぁ名前ちゃん、寒いの苦手言うとったよね? あたしってばすっかり忘れてしもてて……」

「え? あ、ええんよ全然! 思ってたより寒ないし!」

「ホンマに? やせ我慢したらアカンで、女の子が体冷やすんはようないからね」

大丈夫大丈夫、と笑いつつ本心では何度もくそ寒いと連呼している。よりによって雪なんて降りやがってこん畜生。私は冬が嫌いなんだよ。
でも、こうして寒いなかわざわざ出てきた甲斐があった。何故なら小春ちゃんとこうしてお参りが出来るから。

小春ちゃんと仲良くなりたいがために必死で覚えた関西弁も充分に役立っている。いや、生まれも育ちも大阪だけどね。親が標準語だから中途半端だったわけよ。

そんなことはさておき、今の私はこの通り満足感を得ている。とりあえず私は小春ちゃんの事が大好きだ。皆はオカマだとかホモだとか言って彼(彼女?)を笑うけど、それって世界中の結構な人たちを敵に回してるよね。いつかそれを後悔するが良いさ。

だって現に小春ちゃんは素敵な人だ。男女分け隔てなく明るく接するし、どっちの気持ちもわかってる。素晴らしいじゃないか。私も何回相談に乗ってもらったことか。

それに男らしいときはマジで男らしいんだから。私が男子にからかわれた時は本気でかばってくれて、あとちょっとカツアゲまがいなことしてたかな。うん、あれはかっこよかった。あの時は完全に男出てたね小春ちゃん。
あと喋ってるととにかく楽しいし、お茶目だし、テニス上手いし、それから……


「ほいっ、おしるこ!」

「えっ、いつのまに!?」

「なんや名前ちゃんがだんまりやったからその間に。温かいうちに食べんと、体も温まらんよ」

「ほぁぁ…小春ちゃんおおきに! あざっす!」


ほれ見ろ男前な行動きたよこれ! 私のやせ我慢を見抜いてさりげなくおしるこを取ってきてくれた!
それから焚き火をやってる所を見つけたらしく、そこで暖をとろうと提案してくれた。何から何まで手際が良くて助かるわ。

おしるこの入った容器で手を暖めながらそこに向かう途中、私はふと問いかけた。というのも、さっき小春ちゃんが放ったお賽銭が結構な額だったから。
お賽銭なんてせいぜい五円十円、高くても百円くらいだと思う。でも彼(この際そう呼ぶことにする)は五百円も入れていた。まさかボンボンか。


「あれはね〜…ちょっと願いごと欲張ったからやね」

「何お願いしたん?」

「今年もユウくんとラブラブで居られますように〜って。それから……ちょ、どないしたん?」

「え、何が?」


急に険しい顔で聞かれたから思わず聞き返してしまった。するとどうやら今の私がとんでもない顔をしたのだという。苦虫を大量に噛み潰したような感じだったって。

まぁまぁそれは仕方ないさ。ホントに小春ちゃんてば鈍いんだから。それより次は何なのか続けて、と言うと、おしるこを持っていない方の手を握ってブンブンと振ってきた。


「今年も名前ちゃんと仲良しで居られますように〜ってね!」

「も〜何それ、私もそれにしとけば良かった〜!」

「何言うてんの、彼氏作るんやろ? どうなんよ、狙うとる子の様子は」

「どうもこうも……なーんも進展せぇへんよ」


気づけば小春ちゃんの恋愛相談室が開かれていた。年明け早々からお世話になります。
私は彼と仲良くなってからと言うもの、何度も恋愛相談に乗ってもらっていた。こっちからアピールしてるのに全然気づいてくれない、しかも既に恋人がいる。どうしたものかと頻繁に愚痴るのだ。

その度に小春ちゃんは「なんて鈍感な男や!」とか「あたしが話つけてきたろか?」とか優しいことを言ってくれる。まぁそれは丁重に遠慮してるんだけども。
だけど小春ちゃんの言う通りホントに鈍感な奴だ。いつまで経っても友達としか思ってないんだから。いくら彼でも、その男が誰なのかまではわかっていない。

もしそれがわかったら心底驚くことだろう。彼のことだから、まさかその人だと言うことすら想像してないだろうしね。あ〜あ、片想いってマジつら。

今年こそは進展させたいなぁ。だけどもし私とその人の関係が実ってしまったら、恋人を手放すことになる。別にその恋人はどうでも良いんだけど、心残りがあるまま引っ付くのもあれだしなぁ。
そんなことをおしるこ片手にぼやいていると、またまた反対の手をがしっと掴まれた。


「わかった! ほんならここで待っとって!」

「え?」

「さっきパワーストーン売ってる所見かけたんよ! あたしが買ってきたげるからじっとしといてや!」

「ちょっ、ま、小春ちゃん!?」


すると小春ちゃんは鍛えられた俊足を駆使して消えていった。あんな人混みの中にダッシュで突っ込むとは……。
それに今のは私の恋愛成就の為にパワーストーンを買ってきてくれるということだろうか。泣けるわぁ、ホントいい友達持った。

ここは心優しい小春ちゃんに甘えて、ゆっくり待たせて貰おう。私は焚き火の前でおしるこを飲みながら彼が帰ってくるのを待っていた。
それから数分ほど経ったか、私の背後に足音が近づいてきて肩をトントンと叩いた。小春ちゃんだと思って振り向いたらそうではなくて、しかもよりによって一番会いたくない奴がそこにいた。


「あぁ……なんだ一氏くんですか」

「ちょっ、いきなりテンション低すぎん!? しかも敬語て!」


私の肩を叩いたのはまさかまさかの一氏ユウジで。ったく、新年早々なんでお前の面なんぞ拝まなきゃならないんだよ。このおしるこを顔面にぶっかけてベタベタにしてやろうか。

私が不機嫌丸出しで舌打ちすると、そんな顔せんといてや〜、とまたもや肩を叩いてきた。気安く触んなモノマネマスクが。私は冬よりもお前が嫌いなんだよ。


「なぁ名字、お前なんでそないに俺のこと嫌っとるん?」

「逆に何でキミはそんなに馴れ馴れしいんですかね」

「何でって、お前は小春の親友やろ? せやったら彼氏である俺もやな……」

「仲良くしろとおっしゃいますかそうですか、お断りしますどっか行ってください」


一息に拒絶の言葉を吐き捨てれば後ろから呻くような声がする。言葉はナイフだとかよく言うけど、いっそ具現化して物理的に刺さってしまえば良い。小春ちゃんが私の中で人類の頂点にあたるのなら、こいつは底辺にいる。私にしてみればそれくらいの違いがあった。雲泥の差だ。

ところで小春は、とか聞かれたから適当な方向を指差してあっちだとデマを吹いてやった。ったく、お前が小春ちゃんと初詣に行くのは朝からじゃなかったのか。だから私はこんな真夜中に出てきたのに。

年明けから一時間しか経ってないのに嫌なもの見たな、今年は厄年だったっけ。ムカムカとした気持ちをおしること共に飲み干したと同時、小春ちゃんが帰ってきた。


「お待たせ、思ったより混んでて遅なってしもた」

「全然大丈夫やで! ところで小春ちゃん、誰かと会わんかった?」

「えー? 会うてへんけど……何で?」


そうか、念のため確認したけど一氏とは会ってないか。良かった良かった。私が何でもないと嘘をつくと、そればかりは見抜けなかったのか何事もないように笑った。

続いて彼が持っていた薄いピンクの数珠のようなものが腕にかけられた。なるほど、パワーストーンのブレスレットか。なかなか可愛いデザインで凄く小春ちゃんらしい。
何から何まで悪いわ、と言うと、これまた笑って気にせんといてと言われた。


「あたし本気で応援しとるんやからね! 名前ちゃんも早よ相手落として、ラブラブになりいや!」

「あはは、せやね、頑張るわ!」


にしてもこれ綺麗やね〜と言いながら、ブレスレットを見るふりをしつつ顔を伏せた。帽子の中からダランと垂れてきた髪が私の顔を覆い隠す。きっと今の私は、さっき彼が見たとんでもない顔よりも更にとんでもない顔をしているだろう。

こんだけ想ってるのに、肝心な所は全然伝わんないんだから。頭がいい人って大事な部分が抜けてるよね。
あんなモノマネマスクより私を選んだ方が絶対良いのになぁ。ねえ、小春ちゃん。


執筆者:巡歌

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