リレー小説 | ナノ
心の糸

クリスマスの部屋は寒い。街中の様に愛で溢れちゃいない。スーパーで買ってきたチューハイとおつまみ、「売り残れた」と友人の彼氏のアルバイト先から安価で買い取ったケーキが無残に広がるテーブル。そこに居るのはこの部屋の住人である私一人だ。そんな私はほろ酔いの中、古い記憶を呼び返していた。


転勤族であった私は、父の仕事に振り回され慌ただしい少女時代を過ごしていた。点々といろんな学校を巡り、一番長い時でも1年居たか居ないかだ。短い時なんか、1ヶ月でその場を去った気がする。しかも毎回、綺麗に玉砕してだ。

初めて玉砕したのは小学4年生。2歳年下の生意気な少年だったことを覚えている。今思えばませた餓鬼だったな自分。その子は、私が告白を決めた日にアメリカに帰ると言って帰って行った。後から聞けばもともと、少し滞在していただけだったそうだ。夏休みのほんの短い期間。私はその次の日にその土地を去った。

次に訪れたのは、遠い沖縄だった。それだけは覚えている。流石に忘れはしない。小学6年生の秋の話だ。フワフワした茶色の柔らかい髪が印象的な男の子だった。一番最初に話しかけてくれたんだっけか?大好きだって言おうとした瞬間に「わん好きな子ができたんさ……」と、逆に告白された。ちゃんとアドバイスをしたのち、1週間後に引っ越すことが決まった。

次の恋は中1だ。こっから年刻みになるので悪しからず。中一の時に恋した少年は……あれ、どんな子だっけな……あぁ、思い出した。近所に住むことになった赤髪の奇抜な髪型の男の子だ。あれは忘れるはずもない。素直になれない女の子とよく一緒にいた男の子。私が彼を好きになった時に初めて気づいた。彼はもうその女の子が好きだったこと、その女の子も彼が好きだったこと。私は彼等に大好きな友達だ、と告げてお別れした。

中学2年生で越して来たのは海の傍の古い学校だった。そこに居た無駄なイケメンな少年の幼馴染の少年の弟君に恋をした。遠い関係だと思うが、素敵な子だったのだ。優しく、温かく、魅力的な男の子。額にある傷だけは今でもしっかりと覚えている。意地っ張りだったが、可愛いかった。しかしながら残念なことに……きっと彼はお兄さんが好きだったんだろう。私はそういうの気にしないよ、どんなに禁断愛であろうが……だ。私がそう泣きながら告げれば訳が分からないという顔をしていた。そしてサヨナラだと、寒空の下マフラーに埋もれながら言った。聞こえてなかったかもしれないが。

そして中3、あれは酷かった。あの終わり方はないなって今でも思うくらいに。銀髪の……思い出したら反吐が出そうな人と、私は晴れて結ばれそうだった。今回も玉砕するんだろうと思っていた私には嬉しすぎる結果だ。しかし、浮かれすぎていたのだ。色々潰された。可愛い顔した女の子に、精神的にズタボロにされて帰ってきた。しかしながら、まぁ中一だった彼女には悪気はなかったんだろうと責めることはなかった。仲良くなろうと手を差し出した少女の手を握り返さなかったのもまた事実ではあるが。次の日の学校で「君のこと好きだよ、友達として!」と言ったことは今でも私の後悔ファイルに名を連ねている。
そうそう、中3の冬から高校の夏の終わりにかけては同じ中学、高校に居た。どっかの大学の付属の学校だ。次の恋もその学校でした。すらりと背の高い、あの銀髪少年と同じ部活の少年。私も懲りないものだと自分でも思った。でも、次はひっそりと静かな恋だったのだ。その当時の私の友達も恋をしていて、ひっそり組だった。お互いの恋心を口にしたことはなかったが、今までに様々な恋を見てきた私としてはすぐに気づいた。彼女は恋をしていると。だから高を括っていた、きっと彼も振り返ってくれると。そしたら何のこたぁない。私の好きな彼はその彼女に他の好きな人がいても好きで、男らしくて……雨の日の一部始終を見ていたらひっそりと泣いてしまった…………感動して。


そんなこんなで高校2年生と3年生の頃にはもう恋愛に疲れて私は男子とは友達関係になっていた。その方が楽だったからだ。1年の間に3回ぐらい転校するのだから余計に。自宅のベットに沈みながら思い出す。恋愛なんてくだらない。ここ数年の私の考えはこうだ。報われた試しがないから、私の中の恋愛というものは酷く残酷で甘美で他人事だ。過去の自分でさえも私にとってはくだらない存在なのだ。少女漫画とまでは行かなくても素敵な恋愛を私は夢見ていた。一度でいいから甘い言葉を囁かれ、囁く。そんな恋愛が私はしたかったのだ。もうあの時から相当な時間が流れ、私は大学の4回生になっていた。

「あぁ、ねむっ」

欠伸が連続して出続けるのは今日のバイトの所為だ。大学生になってから始めたバイトは大学傍の花屋さんだ。そこのバイト仲間の幸村君がまたイケメンで……って、話がそれた。今日はクリスマスということもあり、客が多かったのだ、男の。大概花束で。本当にリア充爆ぜろ。と、呟けば幸村君に笑われた。彼も絶賛リア充中だ。爆ぜ……最後までは口に出来なかった。そんなこんなで私は眠いのだ。あぁ、眠い。夢に落ちかけていた時、幸村君の彼女さんが演奏しているヴァイオリン曲が流れ出した。因みに彼女はちょっとだけ有名なヴァイオリニストだ。そんな事を考えている場合じゃないとすぐに音の出どころであるスマホを手に取り、画面も確認せずに電話に出た。

「もしもーし、名字さん元気?」
「ん?もしもし〜白石君ですかね〜?」

小さな機械の向こうからクスクスと笑い声が聞こえる。白石君は同じ大学の学生である。彼は大阪出身だが、薬学及び医学について学ぶため東京の大学まで出てきたんだと。

「酔っとるやろ名字さん」
「んなことないです〜ちょっと飲んだだけです〜」

興味なさげな返事に私は口をへの字にする。えらい自由人だなこいつ。人の眠りを妨げておいて何だその物言いはっ!と文句をたらせば、気持ちの入っていない謝罪を貰った。要らねぇよそんな謝罪。

「クリスマスやのに一人やねんろ〜寂しいやっちゃなぁ〜」
「煩いよ白石君。てか、そう言う君も独り身でしょうに……」

ベットから起き上がりテーブルの前に腰を下ろす。飲みかけだったチューハイをもう一度口にする。少しだけ瞼が下がる目で壁の上の方にかけられた時計を見た。11:48。もうすぐクリスマス本番、そんな時間になんの用だろうと一人部屋の中で首を傾げた。

「俺は今から独り身じゃなくなる予定やからええねん」
「何ですかそれは……賢いのに残念な人」

「なぁ、名字さん俺と付き合おっか」
「はぁ?」

私の言葉にもう一度繰り返していう白石君。いやいや、聞こえてないとかじゃないから。覚醒していなかった脳には刺激的すぎて一瞬で覚醒した。だが、その言葉は覚醒しても刺激的だったようで、私は言葉を失った。そして出てきた言葉はなんとも幼稚なものだった。

「無理無理無理!だって私白石君のこと友達としか見たことないもん!!」
「ん、知っとる。よー知っとる。せやから今日まで悩んでん」

この電子機器の向こうに居る彼の表情が分かってしまうくらい、彼は優しい声でそう言った。その言葉に私は口を金魚の様にパクパクするしかなくなった。

「興味なさそうやし、でもしゃーないやろ〜ずーーっと悩んでも好きなもんは好きやもん……答え聞かせてくれへん?」
「え、いや、私告白されたの生まれてこの方今この瞬間が初めてで、な、なんて答えるべき?」

そう聞いたら何で俺に聞くねん、と軽く怒られてしまった。私は涙目だ。ただ、今酷く胸が高鳴っていてこんなのは高1以来だな、いやそれよりも早いかもしれない。私の心は乱れに乱れている。冷静に考えられないくらいには。

「じゃあ、今どんな気持ち?」
「えっと、凄く鼓動が速くて、顔が熱くて、泣きそうで、白石君のこと考えたら恥ずかしくなってます。はい」

暫くの無言の後、彼は安心したように息を吐いた。

「さよか、ほなら俺少しは男として意識されとるっちゅーこっちゃな」
「た、ぶん?」

私はいつの間にか傍にあったハート形のクッションをギューっと抱きしめていた。誰も居ないのに何故こんなに恥ずかしいのか……白石君が歯が浮くようなセリフ言うからだ。
その時

ピーンポーン……

家のチャイムが鳴り響いた。壁の時計はもう12時を迎える手前だ。こんな時間に誰だよと不審に思いながら、白石君に断りを入れ玄関に向かった。返答と共にチェーンをかけたドアを開ける。

「メリークリスマス、名字さん」
「は、え、は?」

「てか開けてくれたんは嬉しいけど、女の子がそんな不用心にこんな時間に部屋のドア開けたアカンで?俺やったからよかったけど〜」

ドアの前には鼻のてっぺんとほっぺが寒さで赤く染まってる、さっきまで電話してた彼がマフラーに顔を埋めて立っていた。すぐさまチェーンを外し、ドアを完全に開ける。大した防寒対策をしてない私には外の寒さは身に凍みる。そりゃそうだ外は雪だ。てか、実家に帰ってるんじゃなかったのか白石君……。

「今は会いたくなかった……んですが」
「え〜、俺は会いたくて会いたくて震えててんけど?」

そう言った白石君は2回続けてくしゃみをし「寒い」と小さい言葉で漏らした。冗談じゃなくて本当に震えてるから。私は呆れて溜息しか出てこない。本当に私に告った男なのだろうか彼は……

「はぁ、仕方ないから泊まってく?」
「うわ、さっきまでの初心な反応とは大違い!大胆や「何もしないのが条件だけど?」はい」

「そや、酒買って来たから一緒に飲も!」
「それが目的……?別にいいけど。あ、ケーキもあるよ?」

食べる〜と、ヘニャリと笑う彼に、寒いからと部屋に入るように急かす。綺麗に靴を並べて入って行く彼の背中を見ながら鍵を閉める。
別に、もう大丈夫なわけじゃない。未だに私の心情はごちゃごちゃとしている。だけど、彼の言葉を聞いた時に嫌な感じはしなかったから、少しお酒の力でも借りてもうちょっと親しくなってみようかなぁ〜と、思っているだけで。

「ん?どうかしたん??」
「うーん、何もないでーす!」

振り返り首を傾げる彼の背中を押してリビングに入る。


私が恋愛にまた溺れて行くのはもう少し先の未来。おい、過去の私どもよ。幸せは案外自分から歩み寄って来てくれるものかもしれないよ……と、私は一人こんがらがった心の隅で笑いかけるのです。


執筆者:ヨコシマヤ

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