リレー小説 | ナノ
心の綱

 引っ越して二ヵ月が経った。こっちの学校は大分慣れ、友達もできて普通の日々を送っている。それでも、やはり寂しいものは寂しくて、前の賑やかさが欲しいと思った。生意気な後輩と猫の話をしたり、購買のパンを一つ分けてもらったり、仏頂面の男子にちょっかい出して眼鏡を取ってみたり、全然興味ないけどサボテンの豆知識を聞いたり、変なノートに落書きをしたり、ガールフレンドができた男子を冷かしてみたり、触覚みたいな前髪をしたやつの毛を引っ張ったりする。そんな当たり前だった騒がしすぎる日常が、懐かしく感じることが悲しい。今が楽しくないわけではない。ただ、二ヵ月だけの付き合いだけだと、気を遣ったり冗談を言い合えなかったりするのだ。私にはうるさすぎるくらいが丁度良いのに、ここが静かすぎるのだ。

 そんな騒がしくも楽しい連中とは、引っ越してからもメールをして繋がりを保っている。きっとこれを断ち切れば私とあいつらの心は離れていき、いつしか忘れてしまう。言わば、メールは私たちを繋げてくれている綱みたいなもの。
 だが、時が経ってしまえば、彼らはもう私にメールを送ってくれないのだろうかと不安になることがある。今は“これからもメールしてね”なんて言ったら“もちろん!”と返ってくるが、先のことなんて分からない。距離があると、段々と疎遠していく気がしてならないのだ。

今日もいくつものメールが来た。“学食で名字さんの好物あったんすよ”とか“寝坊して10周追加された”とか“新しいサボテン買ったんだ”とかどうでもいいことだらけで、でも私にとってはすごく嬉しいメール。

 そうだ。メールもいいけど、手紙を書こう。そう思って、近くの雑貨屋でレターセットを買って手紙を書いた。思い付くことをつらつらと綴ってみた。文章構成とかは全く考えずに。

拝啓

皆さまへ
手紙の書き方わからないんだけど、拝啓って最初につけるやつだよね?まあ、いっか。
とりあえず、お元気ですか?私はそれなりに元気だけど、みんなといる時の方がパワフル元気だったと思う。
みんながいつもメールしてくれているから、毎日楽しいよ。これからもくだらないことばっかり送ってください。笑
今回、手紙を書いたのは特に理由はないんだけどね、何となく書いてみた。メールの文より、手紙の文の方が人の字だからあたたかみっていうか思いがこもっている気がして私は好き。まあ、面倒っちゃ面倒なんだけどね。みんなは忙しいかもしれないから、手紙で返事くれなくてもいいよ。
それより、こないだ氷帝で女の子が自殺したらしいね?吃驚したよ。東京の学校じゃん!って。こっちでもニュースやってたから見てたんだけど、もちろんそっちでもやってたよね。同じ県内だしこっち以上に話題になってそう。みんなは事故っても何が起こっても、意地で死なさそうだけど死なないでね。



 それからも、色々書いた。送られてくるメールみたいにどうでもいいことだったり、あっちにいたときの思い出話だったり。手紙には、東京では見られないような大自然の写真を九枚入れた。

 クローゼットを開け、私は目についたコートを急いで羽織り、マフラーをぐるっと雑に巻いて家を飛び出た。早くこれが届いてほしい。そう思いながら冷たい風を切って走った。
 ポストの前に着き、息を整えながら空を見上げた。冬の空らしい、深い青色をした空が目に映る。その色があいつらを思い出させて、私の胸が締め付けられた。目を瞑れば、脳裏でユニフォームが揺らいだ。

 ふう、と溜息を吐いて目を開ける。そして、ゆっくりとポストに手紙を入れた。一秒でも早く彼らに届き、この手紙を読んでもらいたい。そんなことを考えながら、何故か私は手を合わせて祈っていた。意味もないのに、ただポストの前で合掌した。周りから見たら少しおかしな人に見えたかもしれない。


 返事は思いの外すぐにきた。最初にメールで“手紙ありがとう。またみんなで返事送るよ”と報告を受けた。みんなが私のために手紙を書いてくれると思うと楽しみで仕方がなかった。毎日、胸を高鳴らせながら家の郵便受けを確認する。それが一週間ほど続いてから私は待ちに待った手紙を開いた。
 一人一人、私に返事を書いてくれていた。私もそうすれば良かったと後悔したが、これの返事はちゃんと個人に書けばいいだけの話か。いつだって送れるのだから。
 
 それから数分後、私の目からは涙が流れていた。もう、泣かせるんじゃないよ…大石。あんたってやつは何でそんなに良い人すぎるの。親切なの。こんなにもあんたのことを好きにさせたの。ずっと押さえていたのに紙一枚でこの厄介な想いをぶり返させやがって。ムカつくけど、やっぱり好き。

 私はすぐに返事を書いた。一人一人に書いたから、足りなくなって新しいものを買った。そして、写真をもっと入れてほしいと言われたから、たくさん入れた。心配かけないようにと、友達と撮った笑顔の写真もつけて。きっと、これであいつに本当に無理はしていないかなんて言われないだろう。

 それから、月日が過ぎて私は高校生となった。私が心配していたように、私たちのつながりは段々薄れて、手紙はおろかメールすらもあまりしていない。手塚はドイツに行ったと聞いたし、タカさんは修行で忙しいらしい。リョーマについて詳しくは知らないが、桃城や海堂は三年生になったから色々とあるんだと思う。不二や乾はおそらく高等部にそのまま上がったが、大石は将来の夢のために違うところへ進学した。

 みんなそれぞれの道を歩んでいく。それは大人になるにつれて仕方のないことだと分かっていたが、こんなにも早くバラバラになっていくなんて思いもしなかった。みんな自分のことで頭がいっぱいで私のことなんか忘れていく。かくいう私も少しずつ、頭の中から彼らとの記憶が薄れていっている。たとえ大好きだった思い出も、関わらなければ消えていくのは無理もないことなんだろう。
 手紙やメールという、私たちの心や記憶を繋いでいた綱は切れかかっていて、今にもぷつりと絶たれそうだった。

 それでもやはり、まだ記憶が鮮明に残っている部分はいくつかあって、それは全て大石に関するものだった。憎いほどあいつが心に残っていて私はつらい。連絡したらきっと、勉強の邪魔をしてしまう。私とは違ってレベルの高い学校へと進学したから。


 携帯の着信メロディーが鳴り響いたのは、それから少し経った日のこと。切れかけた綱は、彼の手によって結ばれたのだった。

(あの時、もし電話がこなければ)


執筆者:風華
自分でもよく分からない話。何がしたかったんだろう。台詞ないし、大石も全く出てないし、色々と申し訳ありませんでした。満足してないですが期限遅れているのでね…。


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