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心の鬼

最近、妹の様子が可笑しい。そわそわと携帯を見ることが多くなったし、やけにおしゃれを気にしている。元々妹は私より流行を知っていておしゃれではあったが、ピンの色やシュシュにまで気にする子ではなかったはずだ。なにかあると踏んだ私はとりあえず最初に彼氏である手塚に相談してみることにした。

「思い違いじゃないか?あの子が名字に隠し事をするとは思えないが」
「うぅ・・・だといいんだけどね。そうだよね!あの子が隠し事するわけないよね!」

あの子が生まれて早12年。大事に、大事に育ててきたあの子は、そりゃあもう可愛くて姉の贔屓目なしにも可愛いと言えるだろう。女の子らしく育たなかった私とは反対に私と兄で女の子らしく蝶よ花よと育てた。ピアノはもちろん弾けるし、外で遊ぶことが少なかったこともあり肌は白く、綺麗に艶のかかった黒髪はその辺のモデルにだって負けはしない。
今でこそ彼氏の手塚がいて、あの子と過ごす時間が少ないけれど昔はどこに行くのも妹と一緒だった。新しい水族館が近所にできてみんなが彼氏と行く中、私は全力でおしゃれをして妹と行ったし、今でも手塚と出かける時よりも妹と出かける時の方がおしゃれをする。

手塚にああ言われたもののやはり気になることは気になる。もし、あの子に彼氏でもできて家に連れてきた日は命日になる。誰のかってもちろん私のだ。発狂するだけじゃ収まらない自信が確実にある。
待て、もし今彼氏が出来たもしくは好きな子がいると言われたらどうしたらいいんだ。世間一般の姉としては祝ってやるとこが正解だろう。しかし、それが私にできるか?

出来ない。今ここで断言しよう!私には無理だ!

けれど妹の様子が可笑しい原因を知りたいこともまた事実。彼氏や好きな人といった色恋のことではなくテストや勉強のことで悩んでいたらどうする?もしかしたら友人関係で悩んでいるかもしれない。そこは姉である私が助けてやるべきじゃないのか?
思い切って私は妹に聞いてみた。今世紀最大の勇気を持って真剣に聞いてみた。

「ね、ねぇ。最近に何か悩み事とかあるの?お姉ぇちゃん、聞くよ?」
「え?!あ、あたしそんなにわかりやすい?・・・そ、そうよね。お姉ちゃんには手塚さんがいるし・・・。あ、あのね・・・」



「というのが昨日の話なのであるよ、手塚君」
「あ、あぁ・・・」
「私はね、君の言葉を信じてあの子に聞いたよ。するとどうだ?!あの子は立海の奴が好きだと言い出したんだ!!立海だよ?!一体どこで接点があった!!」

いや、接点ならあったかもしれない。手塚の応援によくあの子と一緒に行っていたし、もちろん全国大会だって見に行った。そうなれば立海の野郎と接触する機会は少なからずあっただろう。けれど、私があの子から目を離したのはトイレの時か、あの子が飲み物を買ってくるといった時だけだ。そんな少ない時間に出会い挙句メアド交換をし、さらには今でもたまに遊ぶなんて仲にまでできる軟派野郎がいるなんて思いもしなかった。

「しかし、だな。テニス部の奴とは限らないだろう?」
「違う。名前も言ったんだよ。そりゃあもうめちゃくちゃ可愛い笑顔でね。本当に可愛かったんだよ?写真をとって待受にしたいくらい」
「・・・あ、あぁ・・・そうか」

手塚がちょっと引いたみたいな顔してるけど今更だし何も思わないよ!たしかに妹は目にいれても痛くないくらい可愛いけど、手塚への好きとはもちろん違うし、私がこんなに妹を好きだって手塚は付き合う前から知ってるしね!むしろ付き合う前の方が自重していなかった気がするよ。

まぁ私たちの話はどうでもいいんだよ。今は妹だ。いや、妹に手を出した野郎だ。
本当は今すぐにでも立海に乗り込んでやりたい気分なんだけど、流石に生徒会長の前で授業をサボるなんてしないよ。それに案外手塚と二人の空間って気に入ってるんだ。

「で、その軟派野郎なんだけど。立海の仁王ってやつなんだよね。あの詐欺師」
「ほう、仁王か。珍しいな、奴は随分と奥手だと幸村が話していた気がするんだが」
「そう!幸村君や真田の言う様に仁王はヘタレだと思っていたさ。あぁ、思っていたとも!だけどそれは勘違いだったんだ。あの姿さえもペテンだったんだよ!!あの野郎!!」

コート上の詐欺師、仁王雅治は見た目に反して恋愛に奥手なところ有りと、うちのデータマンと立海の参謀から聞いていたのにどういうことだ。さすが詐欺師といったところだなと手塚は感心しているけど違うだろう。どこが奥手なんだよ!!会場でいきなりあったような子に声かけるなんて!!いや、これは私の勝手な想像であるがそれ以外での接点がわからない。住んでいるところだって東京と神奈川だ。隣といってもおいそれと行けるような距離ではない。妹はつい半年前まで小学生だったのだからなおさら接点なんてありはしないだろう。

「そういえば手塚!!手塚って立海の誰かの連絡先知らないの?できれば詐欺師とか詐欺師とか詐欺師とか」
「い、いや。仁王のは知らないが・・・真田なら知っている」
「本当!?よし、電話貸して!」
「お、おい!名字!」

ガサガサと手塚のポケットを漁る。すると右のズボンのポケットから最近買い換えたと言っていたスマホが出てきた。私が持っているものと大した差はないのでロックもかけていない画面とテキパキと操作し、電話帳から真田弦一郎の名を探す。登録件数の少ない手塚らしい携帯で、探していたものは直ぐに見つかった。向こうの時間割がどうかは知らないが昼休みの時間なんてどこも同じだろう。電話特有の呼び出し音が暫らく鳴る。たっぷり鳴ったあとやっと取られた電話に私は大声で叫んだ。

「おっそい!!!あんたも手塚と同じ生真面目な優等生ってことは知っていたけど遅すぎる!!」
「名字か?どうして手塚の番号から」
「そんなことどうでもいいのよ!!あんたんとこのペテン師どうにかしてくれない?うちの妹たぶらかしてんじゃないって言ってくれる?あ、というより今一緒にいてるんでしょう?!代わって。ていうか代われ」
「あ、あぁ・・・」

真田が返事したかと思えば小さな声で、まーくん嫌ナリ!なんて声が聞こえる。こんな時だけヘタレ発動するな。発動するなら妹の前でしてくれ。そうすれば手なんて出さないだろう。是非ともそうしていただきたい。

「・・・代わったナリ・・・」
「ふふふ、仁王雅治?逃げたいって事は自覚はあるようですね?さぁ、吐け。うちの可愛い可愛い妹に何をした。あんたが奥手だって事はペテンか?え?」
「・・・何もしてないぜよ。ただ・・・タオルくれたダニ」
「は?タオル?」

それから五分間私は仁王の話を聞いていた。手塚曰く、いつ倒れてもおかしくない顔をしていたそうだ。当たり前だろう。妹と仁王の馴れ初めのような話を聞かされたら倒れたくもなる。昨日のあの子からの話だけで倒れそうだったんだ。二日続けて聞かされてみろ、自分で聞いたこととはいえ気が狂いそうだ。

「はぁ・・・あの子も大人になっていくのかな・・・」
「お前も本当に嫌なわけではないだろう?」

そうだ、本当に仁王とあの子の恋路が嫌なわけじゃない。妹に大切な人ができたことは喜ばしいことではあるし、先ほどの電話から仁王に邪な考えがあるわけじゃないことくらいは読み取れた。
それに、本気で仁王とあの子の仲を認めていないのであれば私は何を使ってでも連絡手段を絶っただろう。

「・・・うん。・・・私が手塚に思ってきたような気持ちをあの子も仁王に抱くんだろうね。淋しいような、嬉しいような。本当、わからないよ」
「・・・そうだな」

机に突っ伏した私の頭を優しく撫でる手塚の手。表情は見えないけれどやっぱり無表情なんだろうな。こういう時くらいそれらしい表情すればいいのに。でも、そんなところもやっぱり好きだ。

いつかの日かあの子もこの幸せを感じる日が来ればいいな。なんて、思ってみる。

けど・・・

「やっぱやだ。あんな奴認めてやるもんか」
「名字・・・」


執筆者:蒼依

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