リレー小説 | ナノ
心の関

私には好きな子がいる。いや、うん……多分好きなのだろう、そんな子がいる。その子は一つ下で、でもしっかりしてて、金髪より少しくすんだ優しい色した髪でおかっぱでサラサラで、目つきは悪いけどすっごく真っ直ぐな目の持ち主で、口はもの凄く悪くて捻くれ者で可愛くないけど、何だかんだ優しくて、一直線に燃える良い子です。

こんなにあげられる時点で私はきっとその子のことが好きだと思う。そうとしか思えない。てか、指摘されるまで気づかなかったけど……よりにもよってあの忍足に……だ。

「解せん……滅びればいいよ、忍足。禿ろ、あの子に嫌われろ」

「ヒドない!?初登場でその物言いは酷すぎひん!!それから、最後のは絶対ないわ」


あぁ、そうですか。どうでもいいけど……そんな気持ちを込めておもっきり無視してやった。誰か〜誰か忍足を星へ帰してあげてくださ〜〜い、胡散臭星に帰してあげてくださーい。
本当に何で忍足と同じクラスで席が隣なんだろうか……それならあの幼馴染一直線な向日君とでよかった。それなら幾分かマシだった。いや、もう三年連続跡部君とでもよかった気がする……例え私の精神と体をボロボロにされても、だ。


「とりあえずや、アイツのこと好きなんやろ?」

「けど、好きな子いるもん……」


そうなのだ。問題はここにある。何を隠そう私の好きな人 には好きな人がいるらしい……誰かは知んないけど。三年生で私や跡部君と同じ生徒会の女子らしく、跡部君と仲もいいらしい。誰だよそのクソ羨ましい状況の女子は、名を名乗ってくれやがれ。

「ふーん、諦めんの?」

「さぁー……」

「俺なんかどんだけ邪険に扱われてm「はい黙れ〜」」


忍足の惚気が始まった時点で私達の会話は終わったも同然だ。いつもの流れで終了した会話の余韻を残しながら私は時計を見た。あぁ、そろそろ時間だろうか……最近変えたスマホをポケットから取り出した、画面には緑のラベルの白の枠内に"放課後4時集合"とシンプルな文字が映る。便利なもので、跡部君はこういったアプリを使 いこなしている。そのお蔭で私たち生徒会は迅速な対応や何やかんやが出来ているのである。流石は跡部君。流行の最先端を行き過ぎて皆が追い付けない男、と言ったところだろうか。

頬付を付いて、一人物思いに耽る。はてさて、私が彼を好きになったのはいつだったろうか……
確か私が二年生に上がって、跡部君に報道委員の担当を申し付かって、委員会に初めて参加した日だったろうか? 初めて見た彼は今よりも随分と幼く、小学生の名残があった気がする。少し大きめの制服に腕を通して、ふてぶてしい感じで自己紹介をしていたのが他の後輩よりも印象的だ。接点はこれと言ってなかったが、出会ったら挨拶をして、図書室でよく喋り、たまに帰りを共にするぐらいで……結構 あるな。まぁ何はともあれ、私はいつの間にかその子を好きになってたわけだ。不器用で人付き合いが苦手な素直じゃない私とは真逆な後輩を。いや、人付き合いは私も苦手だけど。

そして、だ。本題はここからだ。3年に上がって彼にも後輩が出来て3カ月とちょっとが過ぎたくらいの出来事だった。彼本人から好きな子が出来たという衝撃の告白を受けたのだ。絶対に彼から色恋沙汰の話を聞くことはないと思っていたのにその時の私は相当ショックだった(後でそのショックが彼に抱く恋心の所為だと知ったが……)そっからは早かった。出会う度にこっちは気が気じゃないし、知ってるのかって思うほどその話をしてくる。結構肉食じゃね? って思ったのは内緒だ。色々行動はしてる。その子 が誰か知んないけど"跡部君のことが好きっぽい"とか嘘吐いたり。他の子に取られたくはないので報道部の担当は私と他男子でやったり……あれ、私も肉食じゃね?


そうこう考えているうちに昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。忍足はまだ惚気足りないようだ。爆ぜろ。


―――

「名字さん」

「へ?あ、日吉君」


何故こういう時に合うのだろうか。私は信教でも仏教でもないので跡部君を恨む事にした。放課後、予定時間より少し早く生徒会室に向かう私に下の踊り場から声をかけてきたのは私の想い人―日吉若君だ。いつもは私を見下げてる日吉君の切れ長の目が私を見上 げてる。あ、なんか不思議な感じ。サラサラの髪の隙間から覗く瞳は廊下の窓から差す光りで影をつくられ、感情は読み取れない。

「今から部活?」

「はい、名字さんは生徒会ですか?」

肯定の意を示すと日吉君の顔に少しだけ影が差した。私が居るところまで来ると足を止めて無言で私を見た。……止めてほしい、顔が綺麗すぎてやってられません!! この美人!! その目で見ないでほしい……です。切実に。顔に赤みがさすのが分かる。何か話さなくてはっと思った私は彼の地雷を全力で踏み潰してしまったらしい。

「そ、そう言えばね、跡部君がね、えっと「名字さん」は、はい!?」

日吉君の声が私の言葉を 制した。

「俺、好きな人に告白しようと思ってるんですよ。今から」

「え、あ、そうなの……」

「ですから、その前にお世話になった名字さんに好きな人教えとこうと思いまして」

要らない丁寧さです。なんてもんは口には出しませんよえぇ、涙だって我慢しますよ。その丁寧さも君を好きな所の一つですから。まぁ、君の幸せなんて願ってあげらんないけど。

「その人は三年生で、生徒会に所属してて、跡部さんと仲が良くて、あぁ、忍足さんとも仲がいいです。あと、優しくて、明るくて、素直じゃなくて、頭が少し弱そうで「日吉君っ」跡部さんのことが好きらしいですけど……」

そう話しているときの日吉君の顔が優しすぎて私が居た堪れなくなる。止めてほしくて言葉を挟んでも聞いてくれずに話し続ける。やっぱり日吉君は意地が悪い。まぁ、わざとじゃないとは思ってるけど。それでも、やっぱり辛くて辛くて、目の前の後輩が好きなんだと思い知らされる。

「で、でも、日吉君その子跡部君のこと好きなんでしょ? フラれちゃうよ?? 告白なんかしない方がっ」

「いいですか? 俺はそうは思いませんけど、あなたが言う通り結構アツい人間に属されるみたいなんで」


そうだよ。いくら嘘を吐いたって、君の行動を止めようとしたって、最終的には日吉君次第だから、私にはどうしようもない。じゃあ、あれか、今までの行動も無駄になっちゃうんですか。忍足……無理だったよ。お前みたいに上手くいかなかったわ。失恋が決まったわけですか、この瞬間に。無言の時間が数分続いた。いや、数秒だったかもしれないけど、私には長かった。自分の気持ちを押さえつけるのでいっぱいだった。

「……それに俺、その人が跡部さんのこと好きじゃないって知ってるんで」

「っ、ご、めん……」

嘘もばれるしで散々じゃないか。嫌われ……るよね。ホント、もう少し優しい人が良かったな、日吉君の好きな子みたいに。深いため息が隣から聞こえて肩を震わした。ヤダ、やっぱり嫌われたくない。良い先輩でもいい、それでもいいから……この関係を崩したくない。

「じゃ、じゃあ告白頑張って」

走って逃げようと脚に力を込めて、日吉君に背を向けた瞬間腕を掴まれた。何を想って掴んだのか、頭が追い付かないです。日吉君放してください切実に、今から泣きに行くんですから。

「好きです」
「は!?え、ちょっ」

「頑張って、て言ったのあなたですよ。返事か何かないんですか??」
「ちょっ、ゴメン、頭追いつかないっ」

"好き"とは恋愛の方でいいのだろうか。友愛の方じゃなくて……どっちなんだろうか。いや、でも日吉君の好きな人は生徒会の三年生で、跡部君と仲が良くてっ

「私……?」
「だから言ってるじゃないですか、ほらやっぱり頭が弱い」

後ろからクスクスと静かな笑い声が聞こえる。滅多にない笑い声に彼の表情が気になって後ろを向いた。心臓が高鳴る。目を細めて笑う日吉君の頬には薄く赤みが差している。可愛い……素直にそう思うと同時に、自分の顔までまた赤くなるのが手に取るように分かった。

「何となく、あなたに嫌われてない事は分かってましたし。少しですけど、好かれてる自信もあったんで」

「じゃあ、な、なんであ、跡部君のこと信じて、く、くれたの……?」

口元を抑えながらまだ笑っている日吉君は非常に愉快そうである。あぁ、止めてくれ私が恥ずかしくて死にそうだ。

「あぁ、必死に隠すあなたが面白くてつい」

「そ、それじゃあ、私だけ……馬鹿みたい……」

あぁ、なんだ。知らなかったのは私だけか、本物の馬鹿だ。忍足に馬鹿って言えない、ヤダなそれ、心外だわ。ふざけてみても動揺はまだ抑えられず、日吉君の本心が聞けて安心したからか涙がボロボロと頬を伝い始めた。泣いてる理由が分からなくて私がオロオロしてしまう。そしたら少し乱暴に日吉君がジャージの袖で涙を拭いてくれた。

「泣かないでくださいよ。どうしたらいいか困ります……」

違うんだよ日吉君。多分これ嬉し泣きです。だから、ほんとお願いします……これ以上優しくしないでいただきたいっ!! 涙止まんなくなるから、お願いします。とめどな く溢れる涙に私の顔はそうとう酷いだろうとか頭の隅で思いつつ、拭いてくれてる日吉君の匂いが微かに鼻をくすぐって心地よい。忍足みたいになってるけど、マジで安らぎます。

「わ、たし……嘘吐くよ?」
「知ってます」
「結構がつがつしてるし……」
「それも、知ってます」
「頭弱いよ」
「よく知ってますよ」
「可愛くもないし優しくもない」
「それは違うと思います」

いつの間にか私は日吉君の腕の中にすっぽり収まってしまっていて、涙もひいていた。後、日吉君結構酷いし、結構恥ずかしいこと言えるんだね。私多分真っ赤っかだよ……

「後、カラオケ好きだしっ!」
「それは俺 が善処します。だから先輩もミステリースポットに慣れてください」
「ぜ、善処しますっ」
「他に何かありますか? 大抵のことはまとめて好きなつもりですよ、俺」

「えっと、えっとね……」

「私、日吉君のこと好き!」
「はい」
「多分日吉君が知ってるより、好き」
「はい」
「すっごく大好き!」
「分かってますよ」

上を見上げたら彼は、困ったように……でも、凄く嬉しそうに目を細めていた。それになんだかこっちまで嬉しくなって私も笑った。

「付き合ってください、名字さん」

「うん、喜んで」

君の匂い包まれて、凄く暖かい 気持ちで、気持ちを我慢しなくていいってこんなに嬉しいんだね日吉君。私今が凄く幸せだよ。でも、そんな時に空気が読めないのが"彼"であり、私のスマホだ。

「うわ、もうこんな時間だ。跡部君怒ってる……っ」

メールの文章を見て私は一瞬で現実に引き戻される。まぁ、さっきまでのも現実なんだけど、こっちは嬉しくなさすぎる現実だ。

「じゃ、じゃあ日吉君私行くねっ」

軽くさっきと似たような光景になりつつある中でそれを変えたのは日吉君だった。腕を掴むところまでは一緒だったのだが、そこから私の口を塞ぐのはさっきはなかった行動だ。触れるだけのそんなモノだったのに、私の顔は茹蛸よりも茹蛸になっている と思う。蛸に勝つぐらいの赤さって……想像はしないでおいた。否、できなかった……少しだけ見えた日吉君の顔がさっきまでとは比べものにならないぐらい真っ赤っかだったから。

「いくら自分の事が好きって分かっていても、跡部さんと仲良くし過ぎは……俺だって嫌なんですから」

「……う、うん……」

今まで全然甘くなかった私達には甘すぎる空気が二人の間を流れる。甘い、甘すぎる……真っ赤な二人でそれに耐えていると忍足の日吉君を呼ぶ声が少し遠くで聞こえた。それと同時に小さな舌打ちも聞こえたけど、私気にしないよ!! だって、私空気読める子だもん!!

「はぁ……あ、そうだ名字さん今日一緒に帰りましょう。 早く終わるんで部活、校門で待ってますから。それじゃあまた後で」

ジャージの裾を翻して1階に消えていく日吉君の背中を見送って、私はその場に立ち尽くした。あぁ、また泣いてしまいそうだ。いや、それじゃあ日吉君をまた困らせてしまう。そうだな、まずはさっきから鳴りやまないメールの主に嬉しい報告でもしに行って、ニヤニヤしながら職務を果たそう。そして、帰り道で"若君"って呼ぼう。どんな顔をしてくれるんだろう……また、照れた顔を見せてくれるだろうか。あの後輩らしい顔を……

「取りあえずは……生徒会室へ行こうか……な」


これからの日常に想いを馳せながら私は廊下を全速力で駆けていくのでした。




(跡部君!! 聞いて、日吉君と両想いだった!!)
(煩い黙れ、遅い、色々遅い、そして俺様に感謝しろバーカ)


執筆者:ヨコシマヤ

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