リレー小説 | ナノ
心の海

「アーユークワハラ?」

「Oh...Yes,I'm Kuwahara.」

「オーウ! ユーアーミスタークワハラァ! フウゥー!ファイアー!」

「Fire...いや待て何なんだお前は」


アイアムジャッカル桑原。立海大附属中に通う、自分で言うのもなんだがテニスが生き甲斐の少年だ。

出落ち並に、初っ端から変な片言の英語をぶっ放してきたのは腐れ縁の名前。
昔っからハイテンションなのが通常運転で、いつもそれに巻き込まれて一番酷い目に遭うのは何故か俺だ。関わらないように隅っこにいても勝手に引っ張られ、何かと面倒ごとに付き合わされる。

特に丸井や赤也と絡むようになってからはさらに酷い。三対一で俺をリンチにしてくる始末だ。

「飯奢るぜ、ジャッカルが!」
「ジュース買って来るっスよ、ジャッカル先輩が!」
「宿題やってくれるって、ジャッカルが!」

「俺かよ!!」

そろそろ俺の胃がもたない。
肺じゃなくて四つの胃を持つ男になりたい。いや流石にそれは気持ち悪いか。



「ねぇちりめんじゃこ」
「ちりめんがついたな、やめてくれ」
「ねぇジャッカルと豆の木」
「豆の木は植えないからやめてくれ」

屋上庭園で俺と名前と丸井と柳生と赤也で昼飯を食べていた。名前がテニス部のメンバーに混じって一緒に昼を食べることは最近ではもう当たり前で、誰も気にしない。寧ろ丸井と赤也は楽しみにしているくらいだ。
ただ、名前は真田がいるときには断固として来ない。理由は怖いからだそうだ。俺もお前がいない方が真田もうるさくないと思うから賛成だが。

「……んで、なんだ?」
「あのねぇ柳生くんがね、あの子とついに付き合い始めたんだってさ!」
「なんだって?!」

名前からの衝撃の告白に、俺は柳生へとバッと視線を動かした。柳生は眼鏡をくいと上げて、「そうです」と得意気に口元をゆるりと曲げた。すかさず赤也が噛み付く。

「あの子って誰っスか名字先輩!」
「ふふーん、秘密なのだ」
「ケチーなんだよ教えろよい、ジャッカル!」
「結局俺かよ!」

柳生の彼女の名前は『あの子』ということで話を通す。赤也と丸井が口を揃えてブーイングしたが、ここは柳生のためにも、『あの子』の為にも黙っておくべきだろう。ちなみに、彼女と名前は同じクラスで結構仲が良いようた。


「桑原くんは彼女、作らないのですか?」
「俺か?」

そういえば、と唐突に柳生が俺に話をフッてきた。
よくよく思えば、俺と真田と仁王以外の立海レギュラー陣には何かしら色恋沙汰が絡んでいる気がする。何か悔しいが、仕方ない。

「俺、ジャッカルに彼女できたとこ想像できねーわ」
「俺もっス」
「私もだ」
「私もです」
「おいお前ら」

勝手なこと口々に言いやがって。泣くぞ。俺だってグラマーな彼女が欲しいよ。でも常識的に考えてそんなのいないだろ? な?

出来れば俺の海みたいな広い心を呑み込んでくれる彼女が良い。海のような心を持つ俺でも、こいつらの集中攻撃は耐えるに耐えられない。

ご飯を口に突っ込んで咀嚼した後、名前が口を開いた。

「まージャッカルにもいつか素敵なひとが出来るよー」
「名前……すげぇ棒読みだけど、嬉しいぞ」
「出来ないかもしれないけどね!」
「ひでぇ!」

うまい具合に漫才のようになって、全員で笑う。こう賑やかなのも悪くない。
と、名前にポンと肩を叩かれる。

「まぁそのときは私が貰ってあげるから、安心して」

そうして、にこり。名前はそれだけ言うと、また輪の中に入っていった。

なんてこったい。

不敵な笑みを浮かべて、殺し文句を言ってきたこいつが男前過ぎる。この、らしくない胸の高鳴りはなんなんだ。とりあえず他の面子にはばれていないのが幸いか。

「……安心しました」

小声でぼそっと、呟いてから俺も輪の中に戻った。


やべぇ、惚れました!


執筆者:茄子川弥生

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