リレー小説 | ナノ
心の花

 すっかりと木の葉が落ちて、町全体の建物や大通りに並ぶ枯れ木が雪化粧をする季節。花を見ることが少なくなった時節ではあるが、とある学校では噂話という花を咲かせていた。
「あの子、別れたんだって」「え?こないだ付き合ったばっかだよ」「まあ、いつものことじゃん。男たらしだし」「確かにねー」
 こそこそとするわけもなく“あの子”がその場にいないことをいいことに、べらべらと話す女子生徒たち。しかし、まさか聞かれていないと思っていた彼女たちの思惑に反してあの子、否、私の耳にはしっかりと入っていた。

 そして、そんな彼女らの悪口をも含んだ噂話など気にする様子など全く見せずに、私は教室のドアを開けて颯爽と席に着いた。
 あんなの言わせておけばいい。どうせ嫉妬しているんだから。などと思いながら、ふと廊下に目をやれば、会いたくない人物と目が合った。その彼は少し不機嫌な顔をしてこちらを見るなり、私の元へときた。

「名前さん!またあなたという人は!」

 思わず耳をふさぎたくなる。だが、そんなことをすれば余計に煩くなるのは分かっているので、大人しく目の前の彼、幼馴染である柳生比呂士を見た。

「これで何度目ですか?私はあなたの将来が心配ですよ…。もしも、今のようなことを繰り返せば…はあ…」

 一人で私の今後を想像して溜息を吐く。一度ではない。私が彼氏と別れるたびに彼はこうして説教をしては私に呆れている。まあ、説教を受けなければならないようなことをしている私も私なのだが、こちらにも言い分というものはある。

 私は、好きになった人を長く好きでいられない。好きという気持ちは本気で、恋をしている間に恋愛感情があったことは確かなのに、付き合ってしまうとすぐに冷めてしまう。“それは本当の恋じゃないのでは?”と問われたことがあるが、それはないと断言できる。つい昨日まで付き合っていた彼だって、好きで好きでたまらなかったはずなのだ。それなのに、気付けばもう好きでなかった。
 “好きでなくとも、長く付き合ってみては?”と、思われるかもしれないが、好きでないのに付き合っているのは騙している気になって嫌だから、恋愛感情がないと分かればすぐに別れる。
 私だって長い恋をしたいと思っているのだ。すぐに散ってしまうこの恋をどうにかして咲かせ続かせ、長い付き合いをしてみたいと。

「だーかーらーね、」
「すぐに冷めるというのは、耳に胼胝ができるほど聞かされましたよ。言い訳はよしたまえ」
「なっ!言い訳って何よ。立派な理由だってば」
「いいですか?あなたは確かにモテますし、別れてもすぐに彼氏ができるかもしれませんが、そうポンポンと作るものではないのですよ」

 “モテる”その言葉に否定はしない。何故なら、それだけ努力しているから。良いぐらいの体型維持するために、無理なダイエットではなく、ヘルシーな三食をきちんとバランス良く摂り、睡眠前のストレッチだって毎日怠たらずにする。肌荒れしないためにも十時にはきちんと寝る。そして、オシャレだって雑誌を見て流行の最先端をチェックして、学校の制服も規則をギリギリ守ったラインで着こなしている。性格だって、男女問わず明るく優しく振る舞い、“良い人”であり続けている。中には嫉妬する女子もいるが、そんなの知ったこっちゃない。
 それだけの努力をしてまでモテようとするのは、やはり理由があるから。

「比呂士。私は探しているの。私の恋を散らさずに咲かせ続けてくれる人を!」
「…はあ…」

 盛大に溜息をついた紳士…いや、こんなの紳士と呼べたもんじゃないか。ともかく、そんな彼がまたしても呆れ顔をしながら口を開いた。

「どうして、こうも分かってくれないのでしょうねえ…」
「比呂士の言い分なんて私にはわかりませ〜ん」

違いますよ、と言いながら私の腕を掴んだ比呂士の表情はさっきと打って変わって楽しげで、薄く笑みを浮かべていた。何が違うのだろうか。それより、珍しい顔もするものだと思っていると、「来てください」と一言。彼はいきなり腕を引っ張って歩き始めた。

「ちょ、どこ行くの」
「資料室です」
「な、なんで、昼休みもうすぐ終わる、」

 予告もなしに女子の腕を引っ張って、理由も話さずにどこかに連れていくなど紳士にあるまじき行動ではないですかね!なんて考えている内に目的の資料室についたようで、何故か空きっぱなしのそこに連れ込まれた。そして、入るや否や扉を閉めて、どんっと押さえつけられる。

「ひ、比呂士っ!?」

 彼氏にならともかく、比呂士にこんなことをされたのは初めてで思わず驚きの色を見せる。その一方で、ドキドキと胸がなっていた。緊張である。
 幼馴染とはいえ、ここまで距離が近づくことなんて今までなかったから。

「名前さん、私とお付き合いしてみませんか?」

 え、という声が漏れたと同時に、柳生は目前まで顔を寄せた。そして、先ほど以上に面白がるような微笑を浮かべ、言った。

「私は、あなたに好きでいてもらう自信がありますよ。…いえ、そうさせてみましょう」

 レンズの奥の彼の瞳が、私を射抜いた。


執筆者:風華
紳士アデュー。比呂士という名の別人になってしまった。柳生が好きな方すみません。


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