リレー小説 | ナノ
心の暇

「おーい、名字さーん」
「あ、変た・・・忍足先輩」

テスト前のいつもより重いカバンを持って校舎から出ようとしていた時に声を掛けてきたのは変態メガネ基、忍足先輩だ。クッソ重いカバンを持ってて疲れてるっていうのにこの人に会うなんて、今日の占いそんなに悪かったっけ?

「今変態って言おうとしたやろ!?酷ない?!」
「何言ってるんですか。被害妄想ですか。黙れってんだこの変態」
「いつにも増して辛辣やな」

変態に変態って言って何が悪いんだ。というか、この人の相手をしている場合じゃない。早く帰らないと。
と、思ったところで気がついた。もう家に帰っても姉さんはいないんだってことに。姉さんは本当の、血の繋がった姉ではなく、昔から一緒にいた1つ年上の幼馴染だ。クールな人かと思いきや結構面倒見のいい人で、こんなめんどくさい私の面倒を見てくれたいい人。でも、姉さんは今年の夏に引っ越してしまった。あれからもう2ヶ月経っているというのに馴染みついた習慣は無慈悲で、なかなか消えてくれないらしい。

「なーに辛気臭い顔しとんの?名前ちゃんには似合わんで」
「・・・いきなり名前で呼ばないでください。キモい」

よしよしなんて言いながら頭を撫でる忍足先輩はきっと気づいてるんだろうな。分かっててこう接してくれてる。その事実が恥ずかしくて未だ頭を撫でてる先輩の手を振り払う。そうしたら先輩はいつものように仕方ないみたいな顔をして私の隣に並んだ。まさか一緒に帰るつもりでは・・・と心配になって聞いたら笑うだけで明確な返事はくれなかった。

「食べたい言うとった駅前のクレープ屋のチョコバナナクレープ奢ったるさかい、ええやろ?」
「・・・ジュースも付けてください」
「はいはい」

氷帝学園から最寄駅までは遠いわけじゃないけれど、かと言って近いわけじゃない。それでも無言で歩くには少し遠くて。つまり何が言いたいかと言うと私が今、非常に困っているということだ。そもそもどうして私はこの変態メガネ先輩と歩いているんだろうか。クレープに釣られたのは私だけど。そんなことはわかっているんだよ。

もっと突き詰めて言えば私があの、男子テニス部正レギュラーの忍足先輩と仲がいいのかさえわからない。姉さんの幼馴染で私とは一切関わりのない向日先輩とダブルスを組んでいるらしいが、それを知ったのはつい最近だ。忍足先輩とは何故か一年の頃から関わりがあった。一年で今の2年正レギュラーと同じクラスだったわけでも仲が良かったわけでもないし、3年の先輩方なんて以ての外だ。

「・・・意味わからないです」
「ん?」
「・・・なんでもないです」

ボソっと呟いたはずの言葉は運悪く忍足先輩に聞かれていたらしくわざわざいうことでもないから誤魔化した。目が悪ければ他の器官が敏感になるっていうのは本当だったんだって関心したけど、よく考えればこの人伊達メガネだった。別に目が悪いわけじゃなかった。

それ以降私は一言も話さず、忍足先輩も何をいうわけでもなく無言で歩いていた。気まずくはあるが、他の人に比べればまだましだ。隣の席のキノコ君とは二人で一緒にいることすら億劫に感じるだろう。そもそも彼と二人きりということ自体ありえないことだ。

数分後目的のクレープ屋についた。雑誌にも取り上げられるほどのお店だったから人気だろうことは難なく予想できた。けれどまさかここまで混んでいるとは思いもしなかった。私は店の外にずらりと並ぶ女子高校生や中学生、それと人目を気にせずいちゃついているカップルに目眩を覚えた。

今は大体の学校はテスト期間中だから空いていると思った事が間違いだった。店内にはジュースとクレープを食べつつ勉強している学生の姿がちらほらあり、これのせいで遅いのかと更にイラついた。

「めっちゃ人おるな。どうする?また、別の日に来るか?」
「・・・先輩が嫌でしたら、私は構いませんが」
「俺は別にええんやけど。ほな、並ぼうか」

別の日に来る事が嫌だった。先輩はいつも忙しい人だから次がいつかなんてわかったものじゃない。それは奢ってもらうのが立ち消えになるのが嫌だから、というだけで先輩と一緒にいたいとかそういうわけじゃない。決して。

早く順番回ってこないかなぁと思っていると私たちの後ろに4~5人のセーラー服を着た中学生が並んできた。つんざくような甲高い声は正直言って、耳障りだ。うるさいな、若干イラつきながら後ろの集団を見やれば一人の女の子に目がいった。周りの子とは違う雰囲気をした子。そしてそれを隠すように周りに合わせたテンションで話している。あの子自身も気づいてないんだろうけれど、少し顔が引きつっている気がしなくもない。

「煩いな、後ろ」
「そうですね。・・・見ましたか?一番左端に立っていた女の子」
「ん?あぁ、あの無理してそうな子」

心理戦が得意というだけはある。忍足先輩は一度見た彼女らの中から私が言った子だけをもう一度見た。

「似てるんです。あの子に」
「あの・・・ヴァイオリンの子?」
「はい。・・・元気にしてたらいいんですけどね」

今の環境に疲れてしまっているという顔があの子にそっくり過ぎて気になってしまう。小学生の時に仲良くしていたあの子は、今は音大附属に通っているはずだ。こちらも姉さんと同じく音信不通。・・・二人とも冷たくないか。

「その内連絡来るやろ。気長に待っとき」
「先輩がまともな事言うのキモいです。・・・言われなくたって待ってますよ」
「ほーか」

そろそろレジが見えて来た、店員のお姉さんがメニュー表を持ってきてくれてとりあえず受け取る。しかし、私は前々からチョコバナナを食べると決めていたからメニューを見る意味がないので忍足先輩に回すと俺はええわ、と断られた。そういえばこの人洋菓子系の甘いものダメだっけ。なら何でクレープ屋を選択したんだろう。チョコバナナを注文し、代金の金額を言われた時先輩が鞄から財布を取り出した。それを私が制し、自分の財布から420円払う。

「・・・やっぱり今日奢ってもらわなくていいです。自分で買います」
「え?いやいや、別にええんやで?俺が食べへんこと気にしてるんやったら何か頼もうか?」
「気にしてるとかじゃないですよ、何言ってるんですか。キモい。・・・今日奢らないでいいので、テスト終わったら・・・善哉奢ってください」
「・・・ぷっ」

会計をしながら言えば先輩は珍しく肩を揺らしながら笑っていて、私の言動に笑っているのだと思えば恥ずかしさや怒りが込み上げてきてムカついたから足を踏みつける。痛い痛いと言いながらも笑ってる忍足先輩が気持ち悪くなって、出来上がったクレープを受け取り先輩を置いて店から出る。あ、ジュース忘れた。

「ちょ、置いて行かんといて」
「うるさいです。キモいです」
「ははっ、照れ隠しやろ。わかってんねんで」
「っ・・・うるさい・・・」

別にもう一度先輩と帰りたいとかそんなんじゃない。絶対、違うんだ。


執筆者:蒼依

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