揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

私には最終手段が残っています。


 お昼休みに入った。友達はみんな教室に戻っているそうなのでそちら向かおうとしたら柳くんがこっちにやってくるのが見えて、つい条件反射で逃げてしまった。やっぱり気付いてんじゃん!
 私はひとまず体育館に入った。この際、靴はもう外に放置だ。どうせここに入ったことは知られている。
 私は滑る足でどうにか体育館の中を走った。ここで昼食はとってはいけないから今は人っ子1人いない。静かな広い空間の中で私の足音がいやに響いた。

「どうしよ……」

 きょろきょろと見渡す。用具庫はバレそうだし見つかったときに逃げられない。ってことでステージに上がって舞台袖で隠れるという選択をとる。ここからならたとえ来られても逃げやすそうだしね。私はカーテンの裏に隠れて開かれた扉のあたりを観察した。
 すると、柳くんが体育館へと入って来るのが見えた。私は固唾を呑む。

逃がさないぞ、苗字……

 微かに聞こえて来た声。こえええ。柳くんこえーよ!!
 こりゃ大変だ。とはいえ、今や友達の手にも渡ってしまった写真を完全にこの世界から消去することは彼にだって無理だろう。友達もドライブに上げてくれているかもしれないからね。
 そのため、見つかってカメラから写真を消されることはもはや問題ではない。写真の“アテ”があることをバレないため、そして捕まってこっぴどく怒られたくないためにも私は逃げる努力をするのだ。
 出来るだけ小さく息を吐いて心を落ち着かせた。

「…………ふぅ」

 柳くんは一度、用具庫の方に行った。用具庫はステージとは逆側、一番奥にある。今ここで飛び出して走れば私は逃げきれるだろうか?いや、私の脚力じゃ無理だろうな。
 私はそう判断してまだここにいることにする。しかし、あちらに私がいないと分かればいずれこちらにやって来るのだ。私はそろーっと舞台袖の奥に回った。階段を上がり二階の観客席へと行こうとしたが、扉が閉まっている。どうしようかと悩んでいる暇はない。そのうちに柳くんはこちらに歩を進めているに違いないのだから。
 私はやむなくカーテンの裏に隠れることにした。なるべく動かないようじっとする。
 ガタッ。柳くんがステージへと上がる音が聞こえる。背中に冷や汗が流れるのが自分でもわかった。

「ここに隠れているのはわかっている。苗字ごときではこの柳蓮二からは逃げられないぞ。大人しく姿を現わすんだな」

 私の体はいっそう硬直した。柳くんが近くを通るのを感じる。私は息を飲むのさえ我慢した。

「上か……?」

 柳くんはそのまま階段を上っていった。

 チャンスは今しかない!

 そう思って私はカーテンから抜け出し、ステージの下に飛び降りた。柳くんが階段を駆け下りる音がする。私は全力で走った。扉まであと少し。しかし、私の前にある人物が立ちはだかった。

「うわあっ!」

 私は驚いて尻餅をついた。

「おいたが過ぎるのぅ、お前さん」

 私はその人物に捕まった。後ろから柳くんの声が降ってくる。

「フッ、まさか仁王が待ち伏せているとは思わなかっただろう、苗字」

 柳くんは勝ち誇った笑みで私を見下ろす。

「もしかしてわざと私をステージから逃がしたの?」
「どうだろうな」

 2人して悪どい笑みを浮かべている。悔しいけど、この2人には確実に勝てない……卑怯だ……。まさかこの2人が手を組んでいるなんて。

「2対1なんてずるーい」
「俺たちの写真を撮るお前が悪い」
「そうじゃ」

 仁王くんは私の腕を離して、首にかかるカメラに手を伸ばした。

「消させてもらうナリ」

 私は渋々と見せかけてカメラを渡す。仁王くんがポチポチとカメラをいじっている姿を私は名残惜しそうに眺める。ああ、画質のいい仁王くん×柳くんの画像が……消えていく……。

「それとだ、苗字。スマホを出せ」
「どうしてよ」
「そちらでも撮影してデータを残しているだろう。あとはドライブにも送信しているはずだ」
「お前さん案外抜かりないんじゃのう」

 案外ってねえ。そりゃ私はコート横で眠りこける間抜けそうなやつですけど。
 とにもかくにも、ここで易々と渡してはやはり“アテ”があるのだとバレてしまうので、私は諦めない様子を見せる。

「…………嫌だ」
「出すんだ」
「渡さないもーん!」

 私は立ち上がって走り出そうとした。しかし、柳くんに足を引っ掛けられて転んだ。

「いたっ」
「この状況で逃げられるとでも思っているのか?」

 そのまま柳くんは私の上にのしかかってきた。両手を拘束される。相変わらずでかすぎて威圧感半端ねえええええ。

「どいてよ、離して」
「写真を消してからならな」
「嫌だってば」
「消せ」

 言い合いしている私たちを見て仁王くんは呑気に「参謀、大胆じゃのぅ」とか言っている。そんなことより助けてよ!流石にこの状況はどうかと思うよ!?

「ポケットか?」
「ちょっと!」

 ポケットをまさぐられる。柳くんは右ポケットに入ったスマホに触れた途端、ニヤリと口角を上げた。

「どうせパスワードわからないくせに」
「知っているぞ」
「ええっ!?嘘でしょ」
「事実だ。見てみろ」

 柳くんはスマホをいじったあと、私にディスプレイを見せてくる。ロック画面は解除され、ホーム画面が表示されていた。

「ま、まじか……」

 壁紙にしている『ハイスクールガールズ!3』の黒髪ツインテールの子があざとく舌を出してこちらに笑いかけている。ほんとプライバシーなんてかけらもない……個人情報保護法はどうなっているんですかね。

 それからスマホとドライブの写真を両方とも消されてしまうのだった。

「あーあ、せっかく撮ったのになあ……」

 私はしょげた顔でスマホを見つめる。まあ、私には友達からもらうという最終手段が残っているんだけどね。
 私は最後まで気を抜かず、落胆した様子でその場を後にした。

(~20180515)執筆

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