その手をのばした。 | ナノ


▼ 想いは変わらず

今日は柳とデートに行く。

まあ、誘われたから行くだけであって、ただの暇潰しでしかない。
と友達に言ったが、内心ではやはりとても喜んでいて、電話で明日は空いているか?なんて聞かれたときは嬉しすぎて一瞬頬がゆるんだ。

勿論、そんな様子は知られたくないので相変わらずのキツい口調で話したし、柳もいつものように怒らずに、1時にそちらへ迎えに行くと言ってくれた。

クローゼットを開き、とにかく目に付いた服を取り出してベッドや床にまで広げて吟味した。
あれは今の季節には少し外れた色だし、あれは今日の気温だと肌寒い気がするし、でも、あの服は暑くなりそうだし…。

かれこれ30分後、選んだ服を着て鏡の前に立ち、これでよし!というように笑みを浮かべた。
いい具合に着痩せできているし、今流行りのコーディネートでバッチリ季節感も演出している。
あとは顔なんだが…。
とはいえ、顔が普通だからこそここまで服装に気を使っているので、可愛い顔であれば服なんてそんなにも迷っていないのだろう。

ふと、時計を見るとそろそろ柳が迎えにくる時間になっていた。
もう、直にくるだろうなと思いながら一階へ下りると、丁度チャイムが鳴ったので鞄を持って外に出た。

「こんにちは、今日の服も似合っているな」
「似合わない服なんて買わない」
「何より名前はセンスがいい。白色のインナーは特に俺好みだ」
「柳の好みなんて知らないし」

これも嘘。白色を柳が好きだと知っていたから着ているのだ。おかげでクローゼットの中の服は半分近く白色の物になってきた。

「ひとまず、次の電車に乗るために出発しようか」

仏頂面で頷きながら、足を踏み出した。

電車に乗って向かった場所は映画館。一昨日より公開された映画で、今、学生の間でとても話題になっているとか。

そういえば、友達も観たと言っていた。「恋愛ものでね、切ないけどきゅんきゅんする甘さもあってー…名前と柳ではあり得ないような感じ!」と話してくれた。
まあ、確かにかれこれ付き合ってから半年が経つというのに恋人らしいことをした記憶は少ない。手を繋いでも私が振り払うし、キスなんて以ての外で、もしもされそうになったら手を上げてしまいそうだ。

そんな私たちにはない"きゅんきゅんする甘さ"を観て、これを機にそういう行為をしてみたいという気持ちはなくもないが、さっき言ったとおりに無理だろう。


それから映画を観たあとに喫茶店へ行き、先程の感想をしながら軽食をとった。

「なかなか、面白かったな」
「あんなカップルがリアルにいたら気持ち悪い。すれ違ったと思ったらベタベタして」

グサリとフォークでイチゴを突き刺す。

ああ、また思ってもいないことを…。

さっきの映画は本音としてはとても良かった。友達の感想の"切ないけどきゅんきゅんする甘さ"がよく分かったし、確かに私たちではあり得ないことばかりだった。
あのヒロインのように泣き虫で、甘えるときは甘えられるような子にはなれないものか。
そんなことを考えながらでも、口から出るのはやはりひどい言葉。

「あんなことしてられるか」
「…思わないのか?」
「何を?」
「恋人らしいことをしたいと」

不愉快そうな顔で思わない。
なんて、こんな素直でない自分に嫌気が差してくる。

「俺は思っているぞ。いつだってお前に触れたいと」

そんな大胆な発言をいきなりされるとは思っていなくて目を見張る。

「…こんなとこでそんなこと言うのやめて」
「今はその気でないならいつまでだって待つ。それが10年だろうと、20年だろうと」
「一生こない」

そう言うと、またいつものように微笑んで、どうだろうな…と意味深長に彼は呟くのだった。

こんな優しい彼が好きで、好きで、キツいこと言ってしまってもやっぱり大好きで。
いつかこの想いを伝えることはできるのだろうか。
もしも、これから先ずっと好きだとしても、きっと言えない。

想いは変わらず

(胸のうちに秘めたままだろう)

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