One second of eternity. | ナノ

On stream ―Question―
人の形をした携帯電話、アンドロイド(ガイノイド)。以前使っていた携帯の故障や興味から、流行に乗って購入してみた。そして、そのガイノイドに名前という名を付けたのは昨日のことだ。
家に来たときは白いワンピースを着用しており、箱の中に衣類は少し入っていただけだった。これは可哀想だと感じて、買い物に行くことにした俺は目の前に座っていた名前に声をかけた。
「名前、今日は買い物に行くぞ」
「何か必要なものでもあるのですか?」
「名前の服だ。あれだけでは少ないからな」
首を振ろうとした彼女に遠慮はするなと言えば、小さく頷いた。そうして緑茶を少し啜ってどこへ行こうかと呟くと、名前がスクリーンを出して、話し始めた。
「この近辺で衣服を取り扱っている店はいくつかございます。10km圏内に二カ所、15km圏内には五カ所。比較的どこも大きなショッピングセンター内にありますがどうされますか?」
考えた末、少し遠出したい気分になったので20kmほど離れた場所へ行くことにした。
「ナビゲーションは必要ですか?」
「いや、構わない」
それから、向かうために車に乗った。道中で色んな質問をしたり、自分について話したりした。その中でいくつか質問をされ、少々、返答に困ったものがあった。
「何故、普通の携帯電話ではなくガイノイドを購入したのですか?」
「アンドロイド・ガイノイドに興味があったからだ」
「では、女性型であるガイノイドにしたのは何故ですか?」
俺は口を噤んで考えた。何故かと問われれば理由はさしてないからだ。ただ、何となくと言えばいいのか、男性型のアンドロイドを隣に置くのは些か抵抗があったのか。
とはいえ、人造人間なので性別などただの容姿や性格の問題の話でしかない。根本的にはどちらとも機械だ。
「常に携帯は持って置くものだ。しかも、ガイノイドはしっかりと10年という期間がある。やはり男としては女性型がいいだろう」
今思いついただけの的確でない理由を述べれば、ひどくほっとしたような顔を彼女はした。
「私が壊れるまで持っていてくださるのですね?」
今の一人暮らしの若者に好評を博しているアンドロイド(ガイノイド)も、10年使えるとはいえ、3年〜5年で普通の携帯に戻す者がほとんどだ。彼氏や彼女ができ、結婚をして同棲生活を始める者なんかは確実に買い替える。何故なら邪魔だからだ。相手ができれば人と変わらない物など場所をとるに決まっている。もともと、一人暮らしをするのに寂しいから人造人間であるアンドロイド(ガイノイド)を側に置いてみたという者が多いだろう。しかし、それは恋人ができれば必要性がなくなるということなのだ。まあ、ただ単に大きさ的に邪魔であるだとか、気分的に気軽に使えないなどの理由で数年経ったら棄てる者もいる。そのせいか、廃棄物が山のように出ていることが問題として取り上げられている。内部の部品は再利用できるが、皮膚や肉として使われている特殊な素材はもう一度使えないのである。つくづく人間も勝手だ。不要になればすぐに棄てる。アンドロイド(ガイノイド)に心―自らの思想―のシステムを組み込んだことを忘れたのだろうか。
きっと、棄てられ解体されたアンドロイドやガイノイドは悲しみの気持ちで溢れている。
俺は決して、名前をそんな気持ちにはさせたくない。最後の1秒まで携帯電話としての役割を果たせるようにしてやりたい。
「ああ、俺は必ず最後まで名前を側に置く。嘘はつかない。だから安心しろ」
「ありがとうございます。工場に戻ってきた物たちを見て不安だったのです」
とても精密に作られたそのリアルな瞳に影が落ちた。
「…自身を作り出した人間が嫌いか?」
顔を少しあげた彼女は困ったような顔をして黙り込んだ。何故、急にそんな表情で口を閉ざしたのかがわからなかった。数分、考えていると昨日読んだ取扱説明書に書かれていたことを思い出した。アンドロイド(ガイノイド)は人間に対して"好き"や"嫌い"などの感情が持てないということだ。物に対して空は綺麗だから好き。コーヒーは苦いから嫌い。などは感じることはできるが人間そのものにはどんな感情も抱くことはできないように作られている。システムに組み込むことは技術的には可能だがしなかった。(不可能とされる特殊な感情もある。)すべきではないと開発段階で決定したからだ。
「今の質問は忘れてくれ」
「はい」
小さく頷いた彼女を横目に、俺はショッピングセンターの大きな駐車場に車を止めた。

On stream―Question―87576:03:58

(答えを出せるか、否か。)

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