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▼ Cast a spell of love.

私は、細かい作業が苦手で、何をやっても雑になる。所謂、手先が不器用というやつで、何においてもそれは当てはまる。
作業を始めるときは「頑張って丁寧にやるぞー!」と意気込んでやるのだが、途中からつい大雑把になってしまうのだ。現に目の前の出来上がったお菓子もぐちゃぐちゃだ。

「ああーもう、やだー!」

自分の不器用さにはすっかり閉口頓首だ。今すぐに放り出したい気持ちだが、そういうわけにもいかなかった。何故なら明日はバレンタインデー。前々から彼氏である日吉に渡すと決めて材料を買ったり、図書館でお菓子の本を借りたりと色々してきたのだ。それに、折角のイベントなのであげたい気持ちも山々ある。まあ、この見た目が悲惨なお菓子も気持ちはたくさん詰まっている自信があるのでそれは受け取ってほしい。

とは言っても、私からのお菓子など日吉は楽しみにしていないであろうが。彼女であるというのに寂しい話だ。だが、事実、日吉はそういう男。クリスマスにあげた手編みマフラー(勿論のこと不格好な物)だってあまり喜んだ素振りは見せてくれなかった。むしろ、マフラーを見たときに訝しげな顔で「何だ、これは?マフラーなわけないよな?」と確認を入れられたほどだ。

「はぁー…」

思わずため息が零れる。何で付き合ってんだろう、と偶に思うが、やっぱり何だかんだで日吉のことが好きなのだ。一見つんけんした態度ばっかりだというのに、根は優しいなんて卑怯だとつくづく思う。まあ、そんなギャップに私は惹かれたのかもしれない。

それはともかく、私は目の前の菓子をどうにかして綺麗に見立てることに専念しなければ。今から作り直している時間などないので、せめてラッピングとメッセージカードだけでも丁寧に仕上げよう。

しかしながら、そんな意気込みも30分後にはいつもの如く崩れ去っていた。

*****

到頭、バレンタインである2月14日は訪れた。土曜日なので学校はない。それに、受験生とはいえ氷帝は内部進学のため余程成績が悪くない限り問題はないし、テストがあるが私も日吉も担任の先生に大丈夫と言われているので焦って今から勉強する必要はないのだ。
そのためこの時期になっても、悠々と過ごしているわけだが、今日に限っては落ち着いていられなかった。
久しぶりに日吉の家に行くというのもあるが、お菓子をあげたときの日吉の反応が気になって仕方ない。

ふぅ、と深呼吸しながらチャイムを鳴らすと、いつものつんけんした表情で出迎えられた。彼女に会ったのだからもう少し嬉しそうな笑みを浮かべてくれたらいいのに、と言いたいところだが無理な話と分かっているので言わない。

そうして日吉の自室に通された。和風な雰囲気のそこは落ち着くが、緊張もするのでよくわからない気持ちだった。

「お茶とってくるから待っとけ」

「う、うん、ありがとう」

無愛想な割に礼儀はしっかりしている。流石は家が道場なだけあるなあ、と来る度にいつも感じる。

10分もしないうちに日吉は戻ってきた。お互いに何も口をきかずに黙ってお茶を飲んでいて、私はどのタイミングでどう渡そうかと悩んでいた。
そして、沈黙を破ったのは意外にも日吉で、紙袋――日吉に渡すつもりの手作りのお菓子について問われた。

「何だよ、その紙袋」

「こ、ここれはね、えーっとね…」

まさか紙袋について問われると思っていなかった私は、さらに意表を突かれ、慌てた。
「お、お菓子だよ…!」と上手く回らない呂律で答えると、可笑しかったのかクツクツと肩を揺らして笑われた。

「な、何で笑うのよ!」

「慌て過ぎなんだよ」

「だって……」

「だって?」

楽しむようににやりと笑いながら聞き返す日吉をきっと睨みつつも紙袋を差し出す。

「見た目は相変わらずだけど、味に問題はないよ」

「本当なのか?」

「味まで駄目だったら、店で買ったのあげますー」

「まあ、それもそうだな」

そう言いながら歪んだリボンを解いた日吉の手が、箱も空けようとした。どくり、と心臓が脈打つ。
毒を吐かれる覚悟をしておかないと。と思った直後、微かに日吉の笑い声が。何故、今日はこんなに笑われているんだ。

「次は何が可笑しいの?」

「いや、本当にいつも通り、相変わらずの出来だからな」

「もう!とにかく食べてみてよ。見た目より味が大事なの」

すると、お菓子を一つ手にとってパクリと口に含んだ。じっと、日吉が話し出すまで凝視する。

「…まあ、うまい」

「まあ、って…」

「見た目は最悪だからな」

分かりきっていること何度も言うな!と思いながらむっとするが、「うまい」と言われただけで嬉しかったので、それに関してはもう何も触れなかった。


それからはいつも通り、やめてと言っても何度もされるホラーの話をされたり、日吉が出してくれた和菓子を食べたりして過ごした。
そして帰り際。日吉の口からは絶対に聞けないであろう言葉が出てきて、私は唖然とした。

「これ、一応礼は言っとく」

「………え?…う、うん…」

驚きのあまり、歯切れの悪い返事をした。
そして、しっかりした返答がもらえないと分かっていながらも、ずっと伝えたいと思ったことを日吉に言った。

「あ、あのね、見た目はいつも最悪だけど、思いはたくさん込めてるんだよ?」

口にすると無性に恥ずかしさが込み上げてきて、私は少し目をそらした。すると、またもや予想だにしなかった言葉が日吉の口から出てきた。

「苗字のそういうとこ、嫌いじゃない」

「え、あ、ありがとう…っ!じゃ、じゃあ、私そろそろ、」

帰るね。と言おうとしたが、日吉の「今日は送ってやる」という言葉によって遮られた。私は、首を横に振って構わないと言ったが、日吉は全く話を聞かず、乱暴に私の手を握って歩き出した。

「黙って送られろよ」

日吉の顔はあまり見えないものの、赤くなっているような気がした。今日はやけに優しい日吉にドキドキする私は耳まで赤くなっているのだろう。


今日は私にとってはとてもいい日になった。まるで、私がお菓子に込めた"想い"が魔法をかけたように、バレンタインという日をキラキラと輝かせ、私たちの間にもドキドキさせるものを与えてくれた。


きっと、想いは恋の魔法の源。
なんて日吉が聞いたら馬鹿にされるんだろうな。
それでも、私たちはお互いに恋の魔法にかけられているのだと思う。

Cast a spell of love.

(日吉、好きだよ)
(い、いきなりなんだよ)
(なんとなく。照れてるの?)
(んなわけねえだろ)
(嘘だー顔赤っ…!?…ちょ、いきなり顔近づけないで)
(フン…苗字のほうが赤いぞ?)


*****
あとがき
赤也といい恥ずかしいのを書いてしまった。Cast a spell of love.って英語が正しいのか不安です。何よりも日吉くんのキャラと口調が崩壊していないか心配です(笑)

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