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▼ もしも柳さんも5歳児の姿になってしまったら。

起きると、目の前に可愛い小さな女の子がいた。と言っても五歳くらいなので同じくらいだが、誰だろうか。柳さんはもうリビングへ行ってしまったのかとキョロキョロ見渡していると声をかけられた。
「名前ちゃん」
そういえば、どことなく柳さんにに似ている気がする。糸目…じゃなくて閉じている目や雰囲気がまさに柳さん。というか子蓮二?の方が近いかもしれない。あの、小学五年生の時のおかっぱ髪をした姿にそっくりだ。
「え、えっと…君は誰?」
「柳蓮二だ。この姿では信じてもらえないかもしれないが」
「………え?」
似ているとかでなく、柳さん本人だった。いや、しかし何故そんな小さくなっているのだろう。
「…自分でもこの姿になったわけがわからないのだ」
珍しく慌てていた。そんな滅多に見られない姿が可愛らしいな…と思いつつ、どうしてだろうねと呟くと、大きな溜息をついていた。
「まず、母に見つかる前にどうにかしないといけないな」
「蓮二さんであって蓮二さんじゃないもんね」
「ああ、今の俺は……しっ!」
人差し指を口の前に立てて、静かに、というような仕草をした。
「…母さんが来る」
今の状況でこう思うのはどうかと思うが、柳さん…いや、この際、子蓮二でもいいかもしれないが、子蓮二ならぬ柳さんがむちゃくちゃ可愛い。だって、人差し指立てて、しっ!だよ?しかものあのおかっぱの柳さんだよ?……いやいやいやそうじゃなくて、今はそんなことを思っていないで、今はどうするかを真剣に悩んでいる柳さんのフォローにもならないフォローをしないと。
「えっと、ああ、とりあえず何処かに…!」
机を指した瞬間、ガラリと部屋の戸が開かれた。私と柳さんは一斉にそちらを見ると、勿論のこと由佳さんが立っていて、その時の柳さんの顔といったら、それはもう目を見開いて慌てた様子だった。可愛い顔をしてどこか勿体無いと感じたのだが柳さんが知ったらどう思うのだろう。
「あれ、蓮二は何処行ったの?」
「え…あ、起きたらいなくて…」
「試合間近だし、敵情視察にでも言ったのかしら」
ばっと柳さんの方を見張る。やはりデータ取るために他の学校へ行っているのか。いや、しかし敵情視察って…ねえ。
「そこの子は名前ちゃんの友達?」
やはり柳さんについて問われる。どうすればよいものかと考えながらも、恐る恐る首を縦に振ったが、友達と言うことで良かったのだろうかと私は苦笑を浮かべた。
「可愛い子ね。蓮二の小さいときにそっくり」
いや、彼はその本人である柳蓮二です。というかその前にまず、何故いるかとかいつ来たのかとか聞かないの!?まあ、聞かれても答えられないのだが。
「じゃあ、二人とも寝巻きから着替えよっか」
二人ともという言葉にぴくりと反応した柳さんを見ると、眉間の皺をこれでもかというほど深くさせていた。まるで、悪い予想が立ってしまったかのような。
「服取ってくるから待っていてね」
「い、いや…」
柳さんが何か言い出そうとしたのが聞こえなかったのか、そのまま戸を閉めてパタパタと階段を下りていった。
「由佳さん…普通は聞くべきこと聞かないんだね…」
そもそも寝巻きでいることにすら突っ込まない由佳さんは、実は真相を知っているのではないかという気さえしてくる。
「…信じたくないが、母さんは名前ちゃんの服を二着取りに行った可能性が高い」
「え?でも…女の子…」
「ああ…。髪型のせいだな…」
確かにこの容姿では女の子に間違えられても仕方ないのかもしれない。斯く言う私も柳さんだと言われる前は女の子だと思っていたのだから。
「諦める他無いのだろうか」
「いっそう、俺は蓮二だって言ったら?」
「いや、あまり言いたくないのでな」
「でも、女の子の服着るよりは…」
「何とかして回避できれば良いが」
そうして由佳さんは予想通り私の―女の子用の―服を二着持ってきたのだった。実に嫌そうにそれを見つめる柳さんとは対照的に由佳さんはニコニコと笑い続けているのである。やはり、この人気付いてるんじゃあ…と思ったのも束の間、その考えは次の発言で消し去られた。
「私ね、実は子供は女の子二人が良かったのよね。蓮二には悪いのだけど…。だから、今、すごく嬉しくて」
いや、目の前にいる子は男です。そしてあなたの息子の柳蓮二です。
「蓮二には秘密ね」
もう、いっそう柳蓮二って言ってしまったら駄目なのか!?そう心で叫びながら柳さんに視線をやると首を振った。心読まれているとかはさて置き、何故言うのを拒むのだ?まさか、この柳蓮二、幼児の姿になってしまったなどと知られるのさえもプライドが傷付く。とでも思っているのだろうか。
「早速、着替え…あら、電話」
プルルルルと家の電話が鳴り響いた。こんな朝早くから珍しい。現在時刻は8時5分で、緊急でない限り普段はこの時間に電話はこない。
そして、現在時刻のことで今思ったのだが、こんなにも早くに息子が敵情視察に行ったのではないかと考える由佳さんも由佳さんではないか?今日はやけに由佳さんに疑問を持つ日だな…そんなことを考えながら部屋を出ていく由佳さんの背中を見つめた。
******
結局、着替えた柳さんと(本当、正直に言えばいいものも…)朝食を食べてからリビングにいた。今は、日課の朝刊を読んでいるようで、見た目相応に過ごす気はなさそうである。私はといえばそんな姿を見ながら、柳さんがどうしてそこまで真実を打ち明けることを拒むのかを考えていた。柳さんがそうしたいのならそうしておくつもりだが、私が思うに言った方がいい気がするのだ。友達と言っているわけなので、夕方には必然的にこの家を出ることになるし、何より女の子用の服を着なくても良いし。

それからはいつものように過ごしていた。昼食も食べ終え、次は何をしようかと考えているときだった。玄関の戸が開かれる音と聞き慣れない女の人の声が聞こえてきた。しかし、「ただいま」と言ってこちらへ向かってくるので家の住人のはずだが誰であろうか。すると、横から信じられないといった声色で柳さんが呟いた。
「姉さんが帰ってきただと…」
「…えぇっ!?」
あの柳さんのお姉さん!?一人暮らしと聞いていたので、会えないと思っていたが会えるなんて!これは嬉しすぎる!などとテンションが急上昇している一方で、柳さんがわなわなと身を震わせ、しまったとも捉えられる表情でリビングの戸を睨んでいた。そんなにお姉さんが家に帰ってくるのが嫌なのか?と思ったと同時にお姉さんは姿を現した。
「あれ?お母さんは?」
な、な、なんという美人!?と、思わず声に出そうなほど驚いた。艶のある黒髪は腰までのばされ、柳さんとよく似た整った顔は色白で唇は程良く赤く、ぷっくりとしていた。これぞまさに立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と言うべきだろう。さすがは柳さんの姉というか、あの由佳さんの娘さんというか、とにかく、この柳家が美男美女すぎてむしろ恨めしく感じてくる。
「君が名前ちゃん?」
考えていると、気付かぬうちにお姉さんが近くに来ていたようで、声を掛けられた。
「え、あ、はい!」
「ふふふ、お母さんから聞いていたとおり可愛い子。私は柚佳よ」
「ゆ、ゆずかさん!」
柳さんのことなんかそっちのけで柚佳さんに夢中だった。この人やばい。近くで見たら美人すぎて惚れそう。
「ところで、隣のお友達はなんていう名前?」
「…え、あ…あ、れ、蓮…」
「ん?れんちゃん?」
「い、いや…」
口を濁すと柚佳さんに首を傾げられ、どうしようかと悩む。柳さん、何か考えがあるなら頼むから黙っていないで発言してくれ!すると、柳さんが少し口を開いた。
「…れん「あ〜もしかして、れんなちゃんかな!そうね!」
勝手に納得してしまった柚佳さんに何も言えなくなってしまった柳さんは諦めたのかその後、名前も性別の話も出さなくなってしまった。私のフォロー力が不足していてすみません。と心の中で謝罪した。
そうして柚佳さんがお母さんに挨拶しに行った後にリビングに戻っきて、何をして遊ぶか話していた。
「うーん…そうだ!3人でお飯事しよっか」
うん!と元気良く頷くと、柚佳さんに衝撃的すぎて疑問を抱く(むしろ、何処から突っ込めばいいのか分からないとも言える)ような役割分担を聞かされた。勿論のこと私はキョトンとし、え?と聞き返した。
「妻って言うのはお嫁さんのことで、名前ちゃんの役。れんなちゃんは夫だから、旦那さんだね。で、私が二人の家に居候している名前ちゃんの姉役」
いや、決して最初の説明で"妻"と"夫"という単語が分からなかったわけじゃない。それより、柚佳さんのポジションが一番疑問なのだが、居候している姉って夫婦が同棲している中に姉が割り込んでいるってことだよね?え?どういった経路でそうなったの?というか、なんかドロドロとしていません?今から昼ドラのお飯事でも繰り広げるのでしょうか。いや、実際にあるならお飯事なんて呼べるほど生易しいものではないだろう。
「さて、始めようか」
そう言ったのは意外にも乗り気の様子の柳さんだった。きっと、小さくなってから、役とはいえ初めて男扱いされたので喜んでいるのだ。
「ただいま、名前」
早速始まったようで、柳さん(夫)が帰ってきたという典型的なシーンから入った。それよりも名前を呼び捨てにされたことに思考がいきそうになるが、慌てて返事をする。
「お、おかえりなさい!」
「…今日はカレーか」
「え?……あ!ああ、うん!カレーだよ」
柳さんがとてもナチュラルに言うものだからお飯事だということを忘れそうになる。
「今日は夏バテ予防のために夏野菜カレーにしたのよね、名前」
「今日は天気が良い分、気温も高かったから丁度いい」
「そういえば、今日はいつもより遅かったわね」
「ああ、部下がミスをしてしまってな」
え、何でそんなにリアルな会話なの!?お飯事ってこんなに日常的すぎる会話で進む遊びだったっけ?と、そんな突っ込みをしつつ自分も会話に入る。
「…そ、そうなんだ、お疲れ様。じゃあ、ご飯にしよっか」
「ああ、そうしよう」
それからもリアリティが溢れすぎているお飯事は続いた。まあ、よくよく考えてみれば、実際には中学三年生が2人と大学生がしているお飯事なので、知識や経験の差から幼児がやるものと比べてリアルになってしまうのは当然のことかもしれない。
******
「あ、そろそろ行かないと」
そう柚佳さんが言ったのは三時を回った頃だった。何だかんだで柚佳さんと一緒に遊ぶのは楽しかったし、何より美人だと言うことが一番印象深かった。
「柚佳さん、また来てね、そして一緒に遊ぼう」
「うん、じゃあ、二人ともバイバイ」
手を振り返すと柚佳さんは立ち上がり、戸まで歩いて足を止めた。そして、あ、そうだ。と口にした。表情は見えないが、何か笑みを含んだような声色だったため、自然と微笑んでる姿が脳に浮かんだ。
「れんなちゃん…いや蓮二、頑張ってはおかしいけれど頑張って」
かっと目を大きく開かせた柳さんは驚きを隠せないといった様子だった。今まで気付いていただなんて、流石です。お姉さん。なんて心で呟きつつも、部屋を出ていく柚佳さんの背中を見つめた。
「…食わされたというのか」
相変わらず眉間に皺を寄せている柳さん。はは、と苦笑いすると、大変だと呟いた。
「え?」
「小さい身体は不便だ。幼少期には何も感じなかったが、こうも大きくなってからなると面倒だな」
確かにと口にしたいのは山々で、その気持ちも十分に理解できる。私も小さい身体となって面倒だと思う。だか、言ってしまえないのは柳さんにバレてしまうから。
「か、身体……そうかな?」
そう言うと、頷いて小さい身体がいかに不便かを長々と語ってくれた。納得できるものばかりで思わずそうだよね!と同意しそうになった。
「まあ、有り得ないだろうが、大きくなってから小さい身体になってしまったらわかるだろう」
その言葉に対して、それが驚くことに有り得ているので嫌と言うほど理解しています!だなんて心で叫ぶ。

それからは横になった。柳さんは慣れない身体で疲れていたのかすぐに眠りについていた。
「…本当…女の子みたいだなあ…寝顔可愛い……ふぁ〜…」
柳さんの寝顔を見ていると、自分も眠くなってきて大きな欠伸をした。瞼が重くて、目を瞑れば次第に意識は落ちていった。
目を覚ましたときに元の姿に戻った柳さんが半裸で横に寝ていることと、お得意ノートに『実験について。貞治から貰った液体は十歳になるはずが、五歳になってしまったので失敗。五歳の時の服が無かったことと、姉が帰ってきたことは予想外の出来事だった。だが、名前ちゃんについて得られた情報はいつもよりも多かったのが救いだ。』と書かれていたことは私は知らない。
******
あとがき
五千文字で収まらなかった…。でも、だいぶ省いたんだけどなあ…。柳さんが転けるシーンとか慣れない身体で苦戦するシーンを書きたかったです。
まあ、とりあえず美人なお姉さんを出したかったという(笑)
きっと一枚上手なんだろうなあと思います。
(~20121208)執筆

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