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▼ 4

 一年。
 それが、私の生きていられる時間。長くても一年半だそうだ。
 柳の家に行く道中で倒れ、病院に搬送されて診察を受けた。そして、告げられたのは以前にかかっていた病名と余命だった。もう、治ることはないらしく、高校受験もできなくなった。これからは病院生活になるだろう。再発する可能性があることは知っていたが、柳と出会って幸せや充実していると感じるようになってからはすっかり頭の隅っこに置かれていた。
 何故、何故、という思いが巡った。
 柳に病気のことを言うと、急に抱きしめて、何も言わずにただ頭を撫でてくれた。それがひどく心に染みて、大泣きしてしまった。余命を告げられたときにたくさん泣いたのに涙は枯れることなくたくさん出た。
 柳は週に一度は必ずと言っていいほど見舞いに来てくれた。来ると、いつも頭を撫でて優しく挨拶をしてくれた。

*****

 それから一年と四ヶ月が過ぎた。
「苗字、こんにちは」
 柳は普段と変わらない笑顔で優しく挨拶をして頭を撫でてくれた。
「こんにちは。…部活、なくなったの?」
「ああ、雨が降っているからな」
「そっか…」
 外へ目を向ければ、しとしとと静かに春雨が降っており、どこか物寂しくなった。ふと、柳に視線を向ければ懐かしむように外を見つめていた。
「……覚えているか?俺と会った日のことを」
 彼女は視線を外して目を瞑った。すると、たくさんの記憶が脳裏を駆け巡った。小さな時の記憶から最近の記憶まで。中でも柳と出会ってからの記憶は鮮明で、それはまるで走馬灯のようだった。
「……今日の、花はね、アスターなんだって。その、花ことば、知ってる?」
 いつも花言葉を教えてくれる看護師さんが、朝にその花について話してくれたのだ。
「偶然だろうか。今朝、精市が教えてくれた…"信じる心"や"追憶"と」
「ふふ、正解。ぐうぜんかな。でもね、まだあるんだよ」
「なんだ?」
 さようなら――そう呟けばいつもは閉じているように見える目が大きく開かれた。
「たぶん、わたしは、今日で死ぬ…」
 はあ、はあ、と重たい肩を上下しながら言う。苦しくて横になれば彼はひどく悲しい顔をしながら私を見た。
「…何を言い出すかと思えば…苗字、冗談はよせ…」
 その声は震えていた。
「冗談で、こんなこと、いわないよ…。それでね、お母さんにいっておいて、ほしいの……ありがとうって。こんな、わたしを、ここまで育ててくれて、すごく感謝してるって。お母さん…ありがとう…。だいすきな、おかあさん…ありが、とう……って…」
 彼女の表情が段々と悲痛に変わる。彼は小さな声でああ、と返事をしながら小さな体を抱きしめた。
「……苗字…」
「ねぇ、ずっといいたかった、ことばがあるの…。好き、だよ…蓮二…」
 言いたくても恥ずかしくて今更言えなかった言葉。最期の最期に、言えて良かった…。
 少女はゆっくりと目を閉じた。
「名前…俺も好きだ。ずっと好きだった。いや、これからもずっと…!だから、死ぬな…名前!」
「ありがと…蓮二。だいすき…だよ……れん、じ…」
 ピーと無機質な音が病室に響く。それと同時に彼の頬に一筋の涙が零れた。
「名前…!もう一度、俺の名前を呼んでくれ…」
 そして、好き、とその口から聞かせてくれ――
「愛しているんだ…名前…」
 その後、彼女の口が開かれることはなく、どれだけ声をかけても目を開ける気配はなかった。ただ彼女の体は、無機質な音ともに冷たくなっていく一方。


 雨が降っているというのに、妙な外の静けさが病室に響く音をいやに強調させたのだった。


*****
あとがき
うわ、到頭やってしまった。…死ネタ…。そして、シリアスや悲恋はあまり好きでないとか言っていたくせにシリアスが少し好きになってしまった自分です…。←

この話は、短編なのに長い話を読んだ気分になる短編…というのを目指しました。
どういうこっちゃですね(笑)
(~20121110)執筆

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