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「お待たせ。ごめんね、遅れちゃって」
「いや、時間通りだ」
「そっか、なら良かった」
 今日が楽しみで、昨晩に早く寝られず寝坊してしまったことは恥ずかしいので秘密だ。
 それから、二人はデパートをぶらついたり、喫茶店でお茶を飲みながら話をしたりした。柳は小さな歩幅に合わして歩いたり、定期的に体調を気遣ったりして、すごく優しく苗字と接した。その優しさに彼女はとても嬉しく思っており、自分もできるだけ柳に負担をかけないようにとした。
「今日ね、すごく楽しかったよ!柳は?」
「ああ、俺も楽しく過ごせたぞ」
 その言葉に苗字はとても安心して、自然と笑みが浮かんだのだった。そして、その日も柳は家まで送ってくれた。家に入ると、珍しくお母さんが「お帰り」と言葉をかけてくれたために、今日のことを話せば嬉しそうに聞いてくれた。
「でね、柳はテニス部に入っていてレギュラーなんだって。見てみたいなあ…」
「また練習見に行ったらいいじゃない」
「でも、柳の学校へ行くには電車乗らなくちゃいけないよ」
 母はかなりの心配性なので、きっと一人で電車に乗ることは許してくれないだろう。中学三年生とはいえ、年は17歳なのだが。
「行っていい?」
 一か八かで聞いてみる。すると、嬉しい言葉が返ってきた。
「それなら、柳くんに頼んで連れて行ってもらいなさい」
 彼女はぱっと表情を明るくさせ、うんと大きく頷いたのだった。


 そうして、二週間後。苗字は柳に連れられて苗字は柳が通っている立海大附属中学校に来ていた。テニスコートまで案内し、近くのベンチに座らせてもらうと、奥から癖のある青い髪の中性的な顔をした人がやって来た。
(あ…確か部長の幸村さん?)
 柳から何度か話を聞いていたので名前は知っていた。
「君が、蓮二が言っていた子だね」
「え、あ、苗字です」
「俺は幸村精市、と言っても柳から聞いていると思うけど」
 くすりと笑いながら幸村は言った。苗字も返答するようににこりと笑み浮かべた。それから、幸村以外の部員とも何度か挨拶を交わしたり、少し話したりもした。最後にテニスコートに来た子から吃驚することを言われ、戸惑ったのは彼女の記憶に深く残っている。
「柳先輩、おはようございます!」
 元気よく挨拶をしたのはこれまた癖のある髪の子だ。
「ああ。おはよう、赤也」
「ど、どうも…(この子は可愛い後輩、切原くんだったかな)」
 苗字は以前に柳から聞いていた特徴から名前を思い出しながらもぺこりとお辞儀をした。すると、切原が目をぱちくりとさせて苗字に指をさしながら言った。。
「その人、柳先輩の彼女っスか?」
「へっ!?いやいやいや、友達!」
 まさかそんな関係に見えたとは思わなくて、彼女は両手と首を左右にぶんぶんと振って友達だと訴えた。
「フッ、そんなに否定することないだろう」
「え、だって、友達だし」
 苗字がそう答えれば切原が爆笑し初め、柳に何かをコソコソと話していた。彼女が首を傾げると柳は気にするなと言って頭を撫でた。そんな場面を横目に切原はニヤニヤと笑みを浮かべながら部室へ行ったのである。

*****

 二人があの雨の日に出会ってから半年が経った。
 毎日メールか電話をし、二週間に一度は必ず会っていた。それに、体調を崩して、母が家にいられないときは看病のためにいつも柳は来てくれたし、調子が良いときは柳の家で夕食をご馳走してもらっていた。
 そんな二人はすっかり仲が良く、立海では"柳には他校の彼女がいる"という噂が立つほどである。柳は否定をせず、あえて苗字にもそのような噂があることを言わなかった。
 そして、苗字もそうであった。"あの苗字には彼氏がいるらしい"と。彼氏は可哀想や彼氏がなかなか格好良いなども言われたが、何も言わなかった。
二人が否定しなかった理由は、互いに好意があることを知っていたから。
 苗字も柳も"好き"という気持ちがあることは分かっていたし、相手が自分に"好き"という感情を抱いていることにも気付いていた。だから、今更だという思いや恥ずかしい気持ちがあって、わざわざ"好き"と言えなかった。

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