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▼ 敬具

また悲しくなるだけだというのに、無性に読みたい衝動に駆られて名前は昔の手紙を読んでいた。名前は何かがあれば何年後かの自分によく手紙を出していて、それに綴られた内容は主に恋のことだった。

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17歳の苗字名前へ
14歳の名前だよ。17歳の私は元気にしてる?
私は元気と言えば体力的には元気。だけど、精神というか、心はあまり晴れていないの。…春だというのにね。いわゆる恋の病?実は今、好きな人がいて、すごく優しくて、頼りになって、顔もいいんだよ。名前はね、覚えてるだろうけど、柳蓮二っていう人で、そっちの私は関わってるのかな?関係が進歩してると良いなあ、なんて。一年の時に生徒会で一緒に活動するようになって、気付けば恋してたんだ。メアドすらまだ聞けてないんだけど、交換したんかな?…でも、まあ、私、がんばるよ!それより、そっちの私は高3だよね?受験生かー…内部進学だろうけどがんばれ〜。もし、外部進学なら場所によっては勉強しないとね!応援してるよ。じゃあ、この辺で…。バイバーイ。
14歳の苗字名前より

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22歳の苗字名前へ
17歳の私です。お元気ですか?
私は元気かな…(?)17歳だけど高3だよ。今年は受験があってさー、詳しい話はまた後にするね。
さっき、14歳の私からの手紙を読んだよ。そっちに手紙残っているかな?それに、柳蓮二って人が好きって書いててさ、実はまだ好きなんだよね。でも、別に彼氏いるの。少し話がさかのぼるけど、高1からテニス部のマネージャーしてるんだ。生徒会以外でも関わりたくて。それでね、過ごしていくうちに、前よりもっと柳先輩が好きになった。でも、2年のときに柳先輩が付き合ってるって噂が流れて…。ただの噂じゃん。って思うかもしれないけど女の人と歩いてるとこ見ちゃったの。綺麗な人だったなあー。やっぱり、ああいう人が並ぶべきなんだと思う。それでさ、私、すごくショックでこれでもかってほど泣いた。私の体にはこんなにも水分あるのかって感心しちゃうほど。泣いて、泣いて、泣いて。で、少ししてから柳生先輩に告白されたんだ。そりゃあ、柳生先輩はすごく優しくて、気配り上手で、良い人だけど、恋愛対象には出来なかった。でも、何故かその時に「もう少し考えさせてください」って言っちゃって…。で、数日後に仁王先輩に呼ばれて、「頼む。柳生と付き合ってはくれんか?あんな悲しそうにする柳生はもう見れんぜよ」って言われた。仁王先輩ってちょっとキツそうなイメージ(というかそんな感じ?)あったのに、すごい真剣に頼んでくるから、初めは驚いた。そんなに柳生先輩を気にかけてるんだなあ、とか根はすごく優しい人なんだ…とか。それでさ、柳生先輩にはすごく申し訳ないけど、いい加減に柳先輩への気持ちを諦めなきゃって思ってたし、もしかしたら付き合ったら忘れられるかなって考えて、付き合うことオッケーしたの。……諦められてないけど…。で、まあ、柳先輩や柳生先輩は大学へ行って、私は3年になった。それが今の状況。彼氏っていうのは柳生先輩。私って最低な女だよね。好きな人いるくせに、一年くらい何も言わずに付き合ってるんだから。それでね、大学受験のことなんだけど外部進学するかすごく迷ってる。というのは、柳先輩が外部進学したからなんだけど…。諦める気、明らかにないよね…でも、同じ所行きたいなあって。今からがんばって勉強すれば、多分行ける。でも行けたとしても柳先輩と関われるかはわからないし、まだ彼女がいるかもしれない。ってか、受験したら本当に最低で嫌な女だよね。そっちの私はどう行動取ったか過ぎたことだしわかるのか…。
私にとって良い選択してるかな。…そうだといいな。あ、大学卒業して社会人一年目だよね?就職、ちゃんとしてるかなー。まあ、お互いがんばろうね。それじゃあ。
17歳の苗字名前より

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学生の頃を思い出して、さらに涙は流れた。結局聞けなかったメアド。伝えられなかった想い。諦め切れていないことに気付いたこと。自分では、大学を卒業する頃には柳への気持ちに終止符を打った気でいた。もう、好きではないと言い切れていた。
「うっ…うぅぅ…どうしてっ…?」
こんなことならば、手紙を送らなければ良かった。久々に立海の付近へ行って思い出なんかに浸ったせいだ。軽い気持ちで手紙を書いていた自分が恨めしい。少しでも良い返事を期待していた自分が嫌だ。


あれから数日後に手紙の返事を出した。複雑な気持ちが入り交じったせいか、少しばかりおかしなことを書いてしまったかもしれないと今更ながら後悔した。

そうして月日は流れ、冬となった。クリスマスも間近となり、街へ出れば、色んな色や形のイルミネーションが輝いていた。既にツリーを飾っているところもあり、すれ違った親子が「今年は何がほしいのかな?」「大きいぬいぐるみさんがほしい!」と微笑ましい会話をしていた。何年後かにはプレゼントする立場になっているのだろうかと考えながら彼氏の顔を思い浮かべたが、結婚はできそうにない。高校からずっと付き合ってはいるが、未だに本心から"好き"と言えていないのだ。
それから、帰宅した名前は郵便受けを確認した。すると、何ヶ月かぶりにみる手紙。前ほど、気分が舞い上がらないのは気持ちが薄れたせいではないだろう。部屋に入って、まず暖をとろうとストーブをつけた。凍えた手では、手紙も上手く取り出せそうにはない。ホットココアを作り、一息ついてから手紙を再度手にとった。
どうしたわけか、読むのが怖くて開けなかった。手が震え、まるでこれは読むべきではないと体が頭に伝えているようだった。おかしなことだが、本当にそうではないかと思うほど体が震え始め、寒さが原因ではないとわかっていたのにストーブの設定温度を少し上げた。
「…ふぅ……」
深呼吸をし、名前は勇気を振り絞って手紙を開いた。
読み始めて数分後、はらりと名前の手から手紙が落ちた。そして、後を追うように涙がぽとり。次第に名前の瞳からはボロボロと流れ、名前自身も崩れ落ちた。
「先、輩っ…!……そ、んな…うそ…嘘でしょう…っ!?」
もう一度、涙で濡れて滲んだ文字を読み返す。やはり、そこに書かれていたのは、先程読んだものと変わらない。
"実は、来年に結婚することになったんだ。招待状は改めて送ろうと思うが、良ければ来てほしい。"
結婚なんてしないで、などと言える立場でないことは百も承知。だが、これで本当に私の恋は叶わなくなってしまった。そう思うと悲しくて、辛くて、心が死んでしまいそうだった。中学の頃からずっと好きでいても、それがどれほど気持ちが大きくても、叶わないものは叶わなくて。

恋なんてしたくなかった。好きなんて気持ちもいらない。いっそう、気持ちも記憶も、全部捨ててしまいたい。


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いつかの私へ。

今日、柳先輩の結婚式に行ってきた。花嫁さんはとても綺麗な人で、高校の時に隣にいた人にそっくりだったから同じ人だと思う。やっぱり、柳先輩みたいな人はああいう人がお似合いなんだなあ。柳先輩もすごくかっこよかった。式中、泣きそうになったけど堪えた。
あ、そうそう。柳生先輩と別れたよ。冬に手紙で結婚を伝えられた数日後に。あのまま付き合ってたら柳先輩への気持ちも諦めるどころか引きずりそうだったから…。柳生先輩にはすごく悪いことしていた。ちゃんと説明して謝った。最後まで優しすぎる人だった。あの人をあんな形でフった私は本当に最悪だと思う。でも、一から、今度は叶う恋が出来ると良いな。
敬具


ゆっくりと、筆を置いた。読み返すと拝啓を書いていないのに敬具だけを書いていることに気付いたが、それはそれで良いかと思った。敬具は結語、文章などの結びの言葉だ。私のこの恋にも結びを入れなければ。

そう、これで私の長い恋も終わり。


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あとがき
実際、手紙は生年月日を書かなければならないのですが、あえて入れませんでした。というか、手紙の書き方は一応調べたのですが、間違えていそうです。それならばスルーしてください(笑)
湊かなえさんの「往復書簡」(多分こんな題名)を読み始めたら、手紙を送った話が書きたくなったのです。そして、色んなシチュを書こうと悲恋を書きましたが、やはり私には無理です。
・・・最後まで柳さん出てこなかったな・・・・。

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