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▼ 拝啓

※悲恋。柳さんが全くと言っていいほど出てきません。この話は「敬具」に続きます。
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拝啓

すがすがしい秋晴れの今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

私は相変わらず元気にやっています。
卒業、就職をしてから、早二年が過ぎてしまいました。今の仕事にもようやく慣れたようで、とても仕事にやりがいを感じているところです。

先日、帰省したときに母校である立海大附属中学校の近くに行きました。中学、高校時代の頃を思い出し、久しぶりにご挨拶でもと、お世話になった方たちにこうして手紙を送っているのですが、私のことを覚えてらっしゃるでしょうか。きっと、柳先輩のことですから覚えてくれているのでしょうが、念のため書いておきます。生徒会に所属して、一緒に活動させていただいていた者です。因みに、総務でした。さらに、高校からはテニス部のマネージャーもしていました。あの時はお世話になりました。意見を出し合った海原祭の会議、皆で汗を流した日々、優勝を成し遂げて喜びあったこと、それらを思い出してしみじみと懐かしく、そして青春だったと感じています。

柳先輩は外部進学をして有名な国立大学に通っていたので、就職先も良いところなのでしょうね。今だから言えることなのですが、柳先輩が外部の大学を受験すると聞いて、それはもう驚きました。行くところによっては私もその大学に受験しようかな、などと思っていました。しかし、大学の名を聞いて諦めましたね。私が必死に勉強したところで行けるようなところではありません。

そんな柳先輩に手紙を書くということで、少しばかり緊張しているのです。文が稚拙に見えることでしょうし、手紙の書き方もこの年になってしっかりと理解していないもので。間違いがございましても、あたたかい目で見てください。

秋たけなわの好季節、ご健康に留意され、ますますご活躍されますことを心よりお祈り申し上げます。
敬具

苗字名前
柳蓮二様

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拝復

秋の夜長、虫の音が心地よい季節となり、苗字様におかれましては健やかにお過ごしのことと存じます。

私、などと書くと文頭のように堅苦しくなりそうなので、ここからは昔に会話をしていたような話し言葉で書かせていただく。あと、返事をくれるのなら、もっと軽い感じで書いてもいいのだぞ。俺たちは学生時代の先輩と後輩という間柄なのだから。

遅くなったが、俺も元気にやっている。ただ、少しばかり忙しくなってきたので、返事は遅くなりそうだ。すまない。

立海か、懐かしいな。知っている通り俺は外部の大学に受験したので、余計に懐かしく感じる。大学についての話は後にして、苗字のことはもちろん覚えているぞ。放課後の書類整理をよく手伝って残ってくれていただろう?あの時は俺も世話になった。部活も、苗字のお陰でとても楽しく過ごせていたからな。それに、海原祭とはこれまた懐かしい。学校行事もだが、部活もとても思い出深いな。マネージャーは大変だっただろうが苗字はとても頑張っていたよ。

大学のことだが、確かに有名な国立大学に通っていた。しかし、そこまで良いところに就職したわけじゃないぞ。昔はアナウンサーになりたいなどと思っていたが、やはり違う方向へ進んでしまった。今でも天気予報の資格も取れないことはないが、就いている仕事がなかなかやりがいがあって楽しいからな。
話を戻すが、外部進学をすることに苗字が驚き、同じ所を受験しようかと考えていたということに驚きだよ。苗字の成績なら、頑張って勉強していれば入れていたと俺は思うぞ。

文の書き方は稚拙でも間違ってもいないだろうから安心すると良い。俺とて絶対に合っていると言い難いのだが、それは手紙を書くのが久方ぶりだからだ。職業柄のせいか重要なこともメールでのやりとりが多くてな。

朝晩日毎に冷え込んできた。体調を崩さないよう温かくして休むといい。
敬具

柳蓮二
苗字名前様

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郵便受けの中を確認すれば一通の手紙。名前を見た途端に名前は胸が高鳴るのを感じた。それを手にとり、決して古くはないが新しいとも言えない(さらには綺麗でもなければ汚くもない)アパートの階段を駆け上った。
「はぁ、はぁ…柳、先輩からだ…」
勢いよく上ったせいか、少しばかり息切れしていた。20代ともあろう若き女が情けない。
しかし、名前の頭はそれどころではなかった。恋心を抱いていた、いや、今でも諦められないんじゃないかと思うくらい心に残っている人から手紙の返事が来たのだから。
リビングまで足を進めた私はソファに座った。そして、手紙を取り出し読み始めた。
「…………」
読み終えた後にほうっと溜め息を零せば、一筋の涙が伝った。
「柳…せんぱ…いっ」
私はまだあなたのことが好きです。だって、手紙を読んだだけでこんなにも声を聞きたい、会いたいと思っているのですから。やはり、諦められてなかったようです。しっかりと決心したつもりだったのに。
"俺たちは学生時代の先輩と後輩という間柄なのだから。"
なんて寂しいこと言わないでください。たとえ、それが事実だったとしても。私たちがそのような関係でしかなかったとしても。

好きでした…いいえ、好きです。

溢れ出た涙を止める方法などわからない。

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