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▼ All Data?

「…やっぱり、データ?」

名前がそう呟いたのは、ある日の夜のこと。


悩みといえば悩みなのか、ただ気にかけていることがあるというのは微妙なあたりだが、名前には疑問に思っていることがある。彼女には一つ上の学年に、最近できた彼氏がいて、名は柳蓮二という。テニス部のレギュラーであり、達人[マスター]や参謀などの異名も持っている彼はデータに基づいてテニスをしており、普段からもデータを取りながら生活をしているらしい。そんな柳蓮二は所謂データマンなわけで、何をするにもデータが付きまとってくる。そう、恋人関係であってもそれは変わらない。そこで、名前にはある疑問が浮かんだ。“嫉妬”についてである。名前たちは学年が違うのでこういうシチュエーションはあまり見受けられないのだが、柳の前で名前が違う男と仲良さげに話していたとする。その場合、柳はどう思うのか?ということで、“恋人として相手を妬ましい”と思うのか”他の男と話すときの名前は…”とデータを取るのか、どちらなのだろうかと考えている。勿論、前者の方が彼女である名前にとっては嬉しいのだが、あの柳蓮二の思考だ。データを取っていてもおかしくはない。

「柳先輩だし…やっぱり、データ?」

そして、ここで先程の呟きを零したのである。とりあえず、考えていても答えは出せそうにないので、実行してみることにしたが、どのようにして男と話す姿を見せるのか、名前は全く考えないまま眠りについた。

*****

翌日、学校に行ってから作戦をしっかりと立てていないことに気づいた。名前がどうすればいいのだろう?と考えていると、隣の席である切原が来た。

「切原、おはよう」
「ふぁ〜、おはよう…」

欠伸をしながら眠そうに返事をした切原。彼とは去年から同じクラスで、何の腐れ縁なのか席が隣になることも多く、必然的に仲良くなった。柳と付き合っているのも彼が繋がりで、切原の"柳先輩自慢"を始めたのがきっかけだった。最初のうちは何となく聞いていただけなのだが、段々と柳に興味が湧いて好きになったのだ。

「ねぇ、ちょっと聞いてくれない?」
「いいぜー。あっ、柳先輩のことだろ?」

ニヤニヤという笑みを浮かべてからかうように言う切原に対して名前が真顔で頷けば、反応がつまらなかったのか、口を尖らせて何だよ?と言った。

「つい最近、思ったんだけど…」

説明をすれば、なるほどなーと言って、切原は名前と一緒に頭を悩ませてくれた。そして、2人で話し合いをした結果、"名前と赤也の仲良し大作戦"というものを立てた。作戦の名前から予想できるように、仲良しというところをアピールをするのである。詳細を言うと、今日の放課後に名前がテニス部の練習を見に行くという口実を作って、二人で部室まで行く。そして、仲良さそうな雰囲気を作りつつ柳の前で話すのだ。

「よし、作戦完了」
「ばっちりじゃね?」
「だね!よーし、頑張ろうー。何がって感じだけど」

名前が自分にそう突っ込めば、「確かにな」と切原が笑った。すると、何か閃いたような顔をしてこちらへ乗り出してきた。

「苗字、俺のこと名前で呼べよ。俺も名前って呼ぶし」
「名前呼びで仲良さげ度アップってわけね。オッケー!」

*****

「何か緊張してきた…」

とうとう授業が終わった名前たちは、二人並んでテニスコートへと向かっていた。

「何でだよ?大丈夫だってー!苗字……じゃなくて、名前」
「柳先輩の前で間違えたら、作戦が即バレそうだね」
「お前も気をつけろよ?」
「た、多分…。えーっと、赤也…?」

聞くな、と笑いながら突っ込みを入れた切原に対して名前は少し不安げに微笑んだ。それから、テニスコートに着いて少し話していると、部室から柳が出てきた。

「あ、柳先輩」
「苗字か、珍しいな」
「見学に来たんですよ。…あ、赤也は今から着替えるの?」

切原にそう声を掛ければ、柳の眉は微動だがピクリと反応した気がした。

「ああ、名前はその辺にいとけよ、んじゃ」
「じゃあ、また」

名前は部室に向かう切原に手を振った後、柳の方をちらりと見れば、ノートを手にして何かを――いや、きっと、今の会話のデータを書き込んでいた。やはり、柳はデータの方らしい。眉が少し動いたとはいえ、それが切原との間柄に何かを感じたとは言えない。

「はぁ…」

名前は思わず溜息を零した。自分から告白したので、柳の気持ちは知らない。だが、付き合うことに了承はしたので、嫌われていることもなければ、多少なりとも気はあるものだろう。しかし、こうも同級生の男子と名前で呼び合ってまで会話をしたのに真横で顔色も変えずにデータを取られれば気落ちするのも当然だ。

「苗字が、嫉妬されないのを悲しく思っている確率78%」
「えっと…別にそういうわけでは…」
「溜息をつきたいのはこちらだ。目の前で彼氏ではない男と名前で呼び合う彼女の姿を見て、嫉妬しない男がいると思うか?」

普段は開かれない柳の目が、今はしっかりと開かれ、名前をじっと見つめた。そうして動けずにいると、ぎゅっと前から抱きしめられた。

「いくら俺でも、嫉妬くらいはする。それに今まで言えていなかったが、俺は苗字…いや、名前が好きなのだ」

急な告白に名前は耳まで真っ赤にした。まるで、全身の血が沸騰したように脈は速く波打ち、体が熱くなった。

「…蓮二先輩のこと、私も好きです!」
「ああ、これから、そのように名前で呼んでくれないか?」
「はい…!」

名前がぎゅっと抱きしめる腕に力を込めれば、柳はいつになく綺麗な笑みを浮かべたのだった。


(ちょ、あんな状況じゃ部室から出れない…つーか今思ったら、俺…柳先輩に殺されるかもしんねえ…)

*****
あとがき
これ8月19日から書き出していうえに、あと数行というところで今まで放置していました(笑)
短編小説10本くらい未完成のままなんですよね…←
いつか書く…はず
(~20120915)執筆

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