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▼ 口付け

「キスをして」
私がそう言うと、彼―柳蓮二はふわりと微笑んで唇をそっと重ねてきた。それは甘すぎない、プチシュークリームのようなキスだった。
それでも物足りない私はせがむように、離れようとした蓮二の服を引っ張った。そのまま触れようとした唇はすれ違い、彼の唇は私の耳元にやってきた。ふっと息を吹きかけられる。
「んっ」
 こそばゆくて、逃げようとすれば腰に腕を回されて無理だった。見上げた先には先ほどとは違う微笑を浮かべた蓮二がいた。
「お前から誘ったのに逃げるのは反則だと思わないか?」
 蓮二が、唇が触れそうなくらい近くまで顔を寄せるから、彼の吐息が頬にかかって何だか恥ずかしかった。
 そのまま蓮二は私を押し倒し、額に口付けを落とした。鼻、頬、首、腕、指、腰、足。あらゆる場所が彼の唇によって濡れた。私の唇を除いて。
「してほしいか?」
 わかっているのにこうやってわざわざ聞くところが彼らしい。そして意地悪でいやらしいと思う。それでも、そうやって焦らされることにさえもドキドキと胸が高鳴って、興奮している私は、相当彼に惚れこんでいるというか、心酔しているようだった。
「蓮二がしてほしいんじゃない?」
 不意打ちに、彼の唇を奪った。少し驚いた様子の蓮二の顔は、何だか可愛かった。それなのに、一瞬にして男の表情に変わる彼に対して、もうちょっと見ていたかったとか、格好良いだとか、何かを思う暇もなく次の瞬間には私の唇は塞がっていた。
 私の心にも巻き付くように舌に彼が絡みつく。さっき食べたラム酒が入ったチョコレートの匂いが漂った。甘かった。
「名前」
 ようやく離してくれた後、蓮二はひっそりと私の名前を呼んだ。それでもすぐ近くにいるからはっきりと聞こえた。
「お前はキスをするとき、必ず目を瞑る」
「意識はしていないのよ」
「いや、そのときの名前のまつげが好きなんだ。開けてほしいわけではない」
「そんなところ、いつも見ていたの?」
 ふっと笑っただけで蓮二は何も答えなかった。
 彼は、いつも変なところばかり見ている。料理をしているときの瞳が好きだとか、俯せに寝ているときのふくらはぎが好きだとか、そんなところ。私には理解できない。
「まつげなんて見ても面白くないわ」
「別に面白さを求めて見ているわけではない。綺麗なんだ。すっとのびたささやかなそれが、俺が舌を入れた瞬間、震えるそれが」
 蓮二の指がそっと私のまつげに触れた。反射的に目を閉じる。まつげに触れられるたびにぴくりとまぶたが動いた。
「ふっ」
 思わず漏れる彼の笑みは楽しげだった。
 その後もされるがままに、彼がまつげから指を離すのを待っていると、突然まぶたにキスをされた。ゆっくりと目を開ける。瞳をこちらに向けた蓮二と目が合った。
「愛している」
 私も、そう言葉にする前にまた私の唇は彼のものとなっていた。

口付け

(お前の全てを愛したい)

***
あとがき
突然甘いお話を書きたくなってWord開いたらいつのまにか書き終わっていた。しかしこれは甘いのでしょうか。とりあえず柳さんの趣味が変になってしまいました。
(20150317)執筆

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