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▼ mind++

「お、俺のリストバンドがねえー!」

朝のチャイムが鳴る少し前のこと。朝練を終え、自分のクラスであるD組に入った切原赤也は叫んだ。常に両手首につけられている重りの入った黒のリストバンドがなかったからだ。訳があって片方だけが外されていたのだが、絶対にあると思っていた机の上には何もなく、ただ落書きのニコニコマークが苛立ちを起こさせるほどににっこりと笑っているだけであった。

「なあ、俺のリストバンド知らねえ?」

隣で熱心に読書をしている女子、苗字名前に声をかけたが夢中になりすぎて聞こえていないのか、本から目を離す気配は一向になかった。もう一度、肩を叩きながら話かけて、ようやくこちらを向いたかと思えば開口一番に変なことを言い出した。

「犯人はあなたよ!しらばくれるのもいい加減にしなさい。すべてはお見通し。証拠だってあるのだから!」
「…………」

またか、と言いたげな顔で教室にいた生徒たちが二人を一瞥し、赤也は無言で名前を見つめたあとにはっとしたように彼女の肩を揺らして言った。

「推理小説はどうでもいいから、リストバンド!!」
「どうでもいいことないわ。殺された若主人。愛人であったメイド。主人の双子の弟。真実と嘘が交錯し、時間と天気が手掛かりとなる殺人事件が今解き明かされたのよ!メイドが犯人かと思いきや、実は兄の演技で弟が殺されていたなんて…!」

台詞からもわかる通り、先ほどまで読んでいた本は推理小説で、名前は大のミステリー好きだ。ドラマから小説まで見るのは推理ものばかり。いつも頭の中では犯行が罷り通り、謎が解かれ、犯人が捕まってはこのように本の世界から抜け出せずに"それらしい"台詞を言っている。推理好きということさえ除けば普通の明るい女子だ。まあ、それがなければ彼女の特徴など無きに等しいのだが。

「分かったからよ…あっ!事件だ。これは事件なんだ」
「な、事件ですって…!?」
「ああ…机の上に置いたはずのリストバンドが消えたんだ」
「その程度?」
「おい!その程度じゃねえんだって!見つからなかったら幸村部長や真田副部長に怒られるから、マジで!!」

失くしたと言うには納得がいかないのは、机に置いた記憶が赤也にはあるからだった。先輩たちに言えば、絶対に失くしたとされるのは目に見えていた。本当にそうでないのにそれを理由に怒られるのは癪に障る。だから、必ず見つけ出したい。

「まあ、置いたのにないというのは、誰かに盗まれた可能性も有り得るのだから事件といえば事件ね」
「だろ!?だからさ、一緒に探してくれ!」
「名探偵、苗字名前におまかせよ」

両手を腰に置いて、仁王立ちした名前。ただ、変人を見るような目でクラス中から見られていることを彼女は気づいていないだろう。今はただ名探偵という言葉に自分で酔いしれているに違いない。

「探偵かどうかはおいといて頼むぜ!」
「歴とした探偵よ。私が真実を導いてあげ「探偵ごっこもほどほどにして、黙って座れよー」
「ごっこじゃないですよ、先生!」
「はいはい、HR始めるぞー」

先生の割り込みにより最後まで言えなかったことやごっこ扱いされたのが悔しいのか、口をへの字に曲げて朝の連絡を聞いていた名前であった。


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