「平和ですねぇ。」

空を仰いで流れていく雲を見つめる。
箒を右手で持ち直して掃くことを止めた。
天竺からもう長い月日が流れていた。
悟空は天界へ、悟浄は都へ、八戒は故郷へ、玉龍は自分探しの旅へ。
皆それぞれの道を歩んで行った。別れは辛い、けれど人はそれぞれなにかに向かって歩むものだ。それが人の人生だから。
遠くから子供たちの声がふと聞こえて我に帰る。そろそろ昼食を作らなくてはならない時間だ。
そう考えていても体は未だに止まったままで何故か空から目が離せなかった。
どうしたというのだろう、不思議な感覚だった。体がふわふわしていて目がとてもちかちかする。首を少しだけ傾げながら流れる雲を目で追う。

「…い。」

ふとどこかで声が聞こえた。
あたりを見回しても誰の姿もなくまた私は首を傾げた。

「おい。」

次ははっきりとした声だった。私は少しだけ鳥肌が立ち嫌な予感がした。
どこかで聞いた声、だけどそれ以上思い出すことができない。はて、誰でしょうか?

「…起きてないのか。おい。」

起きて、ない?この人は何を言っているのだろう。起きてるも何も、起きてなかったら現に私はここで掃除をしながら、と言っても休憩中だけれど、こんな事をしているはずがない。訳が分からないまま私はもう一度キョロキョロと周りを見渡した。

「……仕方がない。」

その声と同時に視界がぐらりと歪みそして眩しい光が視界に広がった。
夢から覚める独特な感覚に思わず体の重みを感じる。

「ん…」

目を開ける前に唇に変な感覚がした、不思議な香りが鼻をくすぐり何だかもう一眠りつけそうなトロリとした甘い味。そうこれは…確か…
目を開けば見知った人物が私の唇に口づけをしていた。

「っ!?」

目を見開いてガバッとその人を押しのけて起き上がった。それと同時にごつんと鈍い音がする。

「〜〜っ!!」

もう何がなんだかわからない状況で頭が追い付かない。
目をこすってから額を押さえてうずくまっている人物を見る。

「…貴様、よくもこの俺様に……。不意打ちとは、やるな……」

「何を…言っているんですか!というか、なんで…私にあんな事を…!!」

キッと睨みつけて痛さで出た涙を拭う。なんだか顔が妙に暑かった。

「いや、前回地上界に来た時にある興味深い書物を手にしてな。ある王国の王子が眠りについた姫に接吻をすると目が覚めるという話があったのだ。」

「は…?」

何を言い出すと思ったら…馬鹿を通り越して本当に何なのだろうか。
人の唇を奪っといて…謝罪の言葉もなく、と言うよりこの人は謝罪という物を私にしないだろう。

「ふ…まぁいい。俺様の口づけをされた貴様はもっと感謝するべきだ。むしろ光栄だと思え。」

少しだけ恥ずかしくなった自分が馬鹿みたいだと今更ながら思う。

「それであなたは何しに来たというのですか?」

経典の力はもう解放して全て終わったと思うのですが…。
それでも紅孩児は自慢気のように怪しい笑みを私に向けた。

「久しぶりに貴様を俺様のお茶会に招待しようと思ってな。新しい茶葉が入ったのだ。」

「……。」

なんでしょうか、怒るというのも疲れてしまいました。とても面倒だ。

「それにまだまだ貴様の事は知らない。俺様はもっとその力、貴様を知りたいのだ。」

ぐいっと顎に手をやられた。私はまたキッと睨むと紅孩児は楽しそうに笑った。

「今日は敵味方関係なく話そう。俺様もあまり余計な体力を使いたくはないのだ。」

ふ、と不適な笑みを浮かべてから手を離されたかと思うと腕を捕まれ外に出ようとする。
着替えたい…。寝巻のままでお茶会とはなんだか恥ずかしい。それに敵同士とは言え相手は冥界の王子。この恰好は失礼だ。

「…あの、紅孩児。お茶会に誘ってくれるのはいいのですが…さすがに寝巻のままあなたの用意してくれたお茶を飲むのも失礼かと…」

恐る恐る紅孩児の顔を見ながらそう言うとふと紅孩児は立ち止まり「それもそうだな。」と言って腕を離した。
ここで逃げればきっとこの人とのお茶会はなくなるであろう。けれど何故か内心喜ぶ私がいた。それになんだか心臓も微かに慌ただしい。どうしたのだろうか。
一旦部屋に戻り服に着替えて身嗜みをきちんとする。
外に出て庭に出るともう紅孩児は何処から持ってきたのかわからない机や椅子を置いてお茶を出して待っていた。

「遅かったな。まぁ良い、座れ。」

私は黙って椅子に座る。前にもこんな事をしたような…。

「…………。」

「…………。」

気まずい沈黙、静寂な中に唯一音がするのはお茶を啜る音だけ。それは奇妙に響き余計に沈黙を増しはじめた。

「あの…紅孩児?」

「ん?何だ?」

我慢ができず口を開くと紅孩児はお茶を啜りながら流し目でこちらを見た。
一瞬どきりと心臓が高鳴ったけれどそれは気のせいだと言い聞かせた。

「あ…えっと…、こ、このお茶美味しいですね!」

私は何を言っているのでしょうか…。何とも言えない恥ずかしさと動揺さに思わず首を振ってちらりと紅孩児を見た。どうせ自慢げに鼻で笑われるのがオチだろう。と、思った瞬間目を疑った。目を見開いて仄かに分からないくらいの頬を赤く染めていたのだ。
お茶を褒めただけなのに……。

「…わからない。」

「え?」

じっと深紅の瞳が私を見つめるそれと同時に慌しくなる心臓、顔が暑い。
すると紅孩児は容器を机に置いて私の左手を掴んだ。
ドキッとまた心臓が高鳴る、一体どうしたのだというのだろうか。

「紅孩…児?」

「何故この俺様が貴様に惹かれているのかがわからない。」

「……っ!」

惹かれ、る?それはなんだか告白のように聞こえるのですが…!
それでも私の気など知らず紅孩児は私を見つめる。奇妙な緊張感の中息ができない。
ああ、どうすればいいのだろう。

「あの経典の件からずっと貴様の事を考えていた。俺様はあの日から乱れたままだ。」

「は、はぁ…。」

「この気持ちは一体何なのだろうな。」

紅孩児はふと視線を下げて一瞬だけ悲しそうな目をした。こっちが何なのかを知りたい。
これは告白、として受け取って良いのか。反応に…困りますね。

「あの紅孩…」

「玄奘、冥界に来い。」

「は?」

いきなり名前を呼ばれたかと思えば冥界に来いとは一体何のつもりだろうか。
まさかまた私を利用して天界を滅ぼそうと…!!

「そして冥界の花嫁となれ。」

「お断りします。」

何かと思えば、前にもこんな事を言われた気がする。
何だかドッと疲れが出てきた。額に浮かぶ汗のような物は冷や汗かそれとも太陽の暑さで浮かんだ汗なのか。

「貴様は前にも俺様の提案を断ったな。理由を聞こうか。」

「理由も何も私とあなたは敵同士です。さらっと私がはい。なんて言う訳がないでしょう。それにいつあなた方が再び私を利用して経典の力を使おうと企むかわからない。」

そう今日だってもしかしたら紅孩児は私をその為に会いに来たのかもしれない。
けれど私には戦う等の力もなければ守ってくれる人達もいない。
今の私は無力に等しいだろう。仮にこの人は冥界の王子、余りにも膨大な力を秘められているもしかしたら私が眠っている間にも殺されていたのかもしれない。そう思うだけで恐怖を覚え背筋がすっと立った。

「ふ…ふふ…はははは!」

紅孩児は私との気持ちとは裏腹に笑い始めた。おかしい事を言っただろうか?
呆然としていると握られた手が離された。

「実に面白い女だ。益々興味深くなる。」

褒められているのだろうか、それとも馬鹿にされているのだろうか。
不愉快に思いながら少しだけ安堵のため息をついた。

「まぁいい。別に今すぐとまでは答えを出さなくて良い。」

パチンと指を鳴らし下位の妖怪が出てくるとテキパキと机や椅子を片付けた。
すると紅孩児は私に近づき私の手を再び掴んだ。それは先程とは違い優しさにが残るようなものだった。どきりと心臓が高鳴る。

「今からこの俺様を貴様の好む場所へと案内しろ。」

「は…?」

「まずはお互いのことを知らないとだな。最初は貴様からにしてやっても良いだろう。」

何をいきなり…もう疲れた…早く帰りたい。と言う言葉が頭の中をぐるぐると回る。
すると小さな頭痛がしこめかみを押さえた。

「俺様は貴様を知りたいのだ。今日が終わればすぐに帰そう。約束する。」

「……わかりました。」

半分はやけくそで半分は本心で答えた。嫌がっている私と私も紅孩児を知りたいという気持ち。
嫌いにはなれない。敵同士だけれどもっと一緒にいたいという自分がいた。
そう答えてから紅孩児は微笑み、私も微笑み返した。きっと何かが変わるはずだ。もしかしたら交じ合わなかった道も交じ合うかもしれない。
いや、できれば同じであってと心で願うのだった。





















思っても無いフラグ


少しずつ直していけばいい。きっとこれも運命なのだから。





(そういえば紅孩児。)
(なんだ。)
(先程の口付けは余り女子にする物ではないですよ?)
(ん?何故だ?)
(…何故って…いいですか?本来なら接吻は恋仲の二人が行う物です。私達は悪魔で敵同士。余りそのようなことをするなど…)
(俺様と貴様は恋仲だろう?)
(は?いつから私達は恋仲なのですか。)
(先程からだろう。)
(はぁ…もう何を言っても無駄なのでしょうね。)
(諦めの早い奴だな。)
(誰がこう思わせていると…!)
(ふ…俺様だな。)
(そんな誇らしげに言わないでください。)
(まぁ、いい。貴様は嫌なのか。)
(嫌も何も…私はあなたのことを今一理解していません。)
(ならばこれから知っていけば良い。俺様も貴様の事は理解できていないからな。)
(では、友人から始めましょう。その方が成立しそうです。)
(ふ…面白い。良いだろう。)
(では、この手を離してください。友人ならば手など繋ぎません。)
(それはできないな。)
(何故ですか。)
(俺様は貴様と繋ぎたいからだ。)
(……!!)
(どうした、顔が赤いぞ。死ぬのか。)
(死にません!!!…少し、頭が痛いだけです。)
(…?)
いつになったら自分の気持ちに気づくのか、それはまた別のお話。



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お久しぶりです。長ったらしい小学生でも思いつくような文章にお付き合い頂きありがとうございます!!
只今、S.Y.Kという西遊記を題材にした乙女ゲームをしていてふとこの敵の王子様に一瞬で心を奪われ小説を打ちたい衝動に駆られて今に至るということです。
10000打企画も書かなくてはならないのに…お前は何をやっているんだと…お思いでしょう…ごめんなさい。
だけれど私は紅孩児を救いたかったのです!!((黙r
攻略ルート無いし、あるっちゃあるけど未遂だし…!!
攻略対象外に恋するって私なんていうか…奥の手すぎるorz
ごめんなさい、今受験生でどーのこーのですが一応は考えて打っているのでもうしばしお待ちください!!
では、また会いましょう!!ありがとうございました!!(((逃げるなww

お題お借りしました⇒【雲の空耳と独り言+α

2012.05.15
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