「あの…お米さん。俺と、…結婚してくれませんですか…?」

相変わらず高校時代からの演劇部員が抜け出せないせいか、彼は崩れすぎた敬語を私に言った。顔を赤らめて言うものだから私もつられて頬に熱を感じる。プロポーズなんてましてや結婚すらもできないと当時諦めていた少し前の自分につい笑ってしまう。鏡台に映る私は今日の花とも言える姿をしないにやけ顔をしている。こんな顔を友也くんに見せてはいけないと唇をきゅっと結ぶ。彼は私を見てなんと言葉にするだろうか。そして普段着慣れないタキシード姿の友也くんはどんな姿をしているのだろうか。

『私、本当に友也くんと結婚しちゃうんだ…』

友也くんとは高校を卒業してからお付き合いをしていて、売れっ子アイドルの彼とのお付き合いはどうなのかと一人で葛藤するものがあった。お返事もそういえばかなり遅く返しちゃったんだっけ…?当時のことを思い浮かべて、緊張した表情筋はすぐに緩みまた表情が崩れる。これが世に言う花嫁の思い出の走馬灯なのだろうか。友也くんとの思い出が次から次へと浮かんでは私の心にダメージを与える。外の空気でも吸おうと立ち上がったとき、扉から控えめのノックが聞こえ返事をした。


「お米さん。俺です。準備できまし…」


少し開いた扉の隙間から友也くんの顔がひょっこりと現れるかと思えばそのまま硬直し言いかけた言葉が止まっている様子だった。そして私も口を半開きにしては体が固まる。時計の秒針が4周したところで私たちは顔を伏せた。髪の毛をいつも弄らない友也くんが珍しく前髪をあげて、衣装でも見たことがない白いスーツを身に纏っている。いや、結婚式なんだしタキシードは当たり前なのだけど…!でもでも劇中とかでも王子様の服を着た友也くんを見たことあるし…ででもこ、こんなに格好よかったっけ…?タキシードに悶える私の心情なんか知らずに、友也くんは自分の口元に手をあて目をそらしながら無言で中へと入った。


「びっくりした……部屋を間違えたかと思ったけど、お米さんなんですよね?」

『今すごく失礼なこと言われた気がする。』

「あはは…嘘ですよ。こんな綺麗な人俺が貰っちゃうんですよね。もっと近づいていいですか?」


どうぞ、と両手を広げて手招く。友也くんは困った顔をしながら近づき急に至近距離になる。まじまじと友也くんのタキシード姿を拝んでいるとあまり見ないでくださいと両手で壁を作られた。自分だって私のことジロジロ見ていましたよね?!拗ねた顔をしてみせると頭に重さが伝わり優しく友也くんが私の髪の毛を撫でてくれる。高校時代は身長も高い方ではなかったけど、日に日に伸びて今は私が見上げるほどまで彼の身長は成長した。思わずあの頃の友也くんを思い出してはくすりと笑みが零れる。


『友也くん。少しだけ時間があるから2人だけの結婚式をここで挙げてみない?』

「えっ?ここでですか?」

『うん!ちょっとやってみたかったんだ。』


そう言うと友也くんはため息をついてすぐ済ませますよ?と呆れた顔から真剣な表情をする。思わずさすが演劇部…と口から漏れ、人差し指を唇にあてられる。


「お米さん。ちゃんとした誓いの言葉は神父の前でしますけど、今はあなただけに誓わせてください。俺があなたを幸せにしてみせますよ。だから、覚悟してくださいね。」


はい。と返事をすると触れるだけのキスを唇に落とされる。思わず涙が溢れてしまい、また表情が緩んでしまう。友也くんを見つめると、泣くの早いですと溢れる涙を拭う彼もまた幸せそうな表情をしていた。



君が幸せになる姿が見たいので



挙式本番では元演劇部の部長が神父役をするというハプニングがあり、まさか元部長率いるサーカス団が来るともおもわず、まさか何事もなく済む挙式はまるで元夢ノ咲学園の風景を思い出させるようなほどのお祭りとなり見事挙式は忘れられないものとなった。




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考えれば考えるほど真白友也と結婚したいんだなぁ。

お題提供:コランダム様

2016.5.23
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