レガーロ島での初めてのお茶会。私の我が儘でフェルとお茶会を開くことになった。フェル手作りのリモーネパイ…フェルが淹れてくれた紅茶…。私は今世界一、いや宇宙一幸せ者なのかもしれない。この感動をすぐに詩にでもして世界中に愛の革命を起こしたい。口元を緩めて世界の轟きを想像すると近くで舌打ちが聞こえてした方へ向く。

「一人でニヤニヤしてるとかお前は変態だな。」

フェルが淹れてくれた紅茶を啜りながらそっぽを向くアッシュという野郎。フェルがいなくて何故かアッシュと二人きり。本来ならこんな人と同じ空間にいたくないのに…。
フェルは私とアッシュは仲良くなるべきだとわざわざ二人きりにしたらしい。これと言って話もなければ今の雰囲気に吐き気を覚える。

そういえば先日屋敷の案内をフェルにしてもらい一通りファミリー全員を紹介してもらった。普通に良い人ばかりで(怪しい人もいるけど)安心はした。けれど、興味はない。どんなに良い人だったとしてもフェルに近づく奴は全員敵。私のライバル。油断はしてられない。こんな狼だらけの館にこんな愛らしい女神をここに居させるモンドさんとスミレさんの気が知れない。果たしてここは本当に安全なのだろうか。

そんな事を考えながらアッシュを睨む。私がフェルに会う度にいつだっておまけで付いてくる。いつも私の邪魔をしてくるアッシュに私は苛立たしさを覚えていた。

『フェルと二人きりが良かった。』

むっと頬を膨らませるとガタッと机がおもいきり揺れる。流し目でアッシュの方へ向けば今すぐにでも戦闘に入るかのような雰囲気。
まったくこれだから野蛮な奴は…。はぁとため息をついて愛用の日本刀に手をかける。
父から貰った日本刀をこれまで一度も使ったことはないけれど、愛する人の事を考えればこんな害獣倒すのも容易い。私も立ち上がり日本刀を構える。持ち方も姿勢なんて見よう見真似だ。
えっと…取り敢えず振り回せば良いのよね?
ピリピリと目線がぶつかり合う。アッシュは何だか楽しそうに笑っていた。

「ちょ、ちょっと!二人とも喧嘩は止めてください!」

戦闘を切り出したのはフェルの従者のルカさん。昔はよくフェルの取り合いで喧嘩をしていたものだが、今では良き理解者だ。ルカさんとのフェルトークは時間も忘れてしまうくらいのもの。今回のお茶会もルカさんとフェルトークをする予定だった。

『だってルカさん!アッシュが…私を邪魔者扱いしてきて』

その言葉に反論しようとするアッシュにルカさんは立ちはだかる。その後ろでルカさんにバレないようアッシュに舌を出した。それに反応したアッシュは私に殴りかかろうとする。それをルカさんが身体を張って止める。まったく、子どもには付き合ってられないわ。ため息をついて席に戻るとフェルが戻ってきた。

「ルカたちは何してるの?」

苦笑を浮かべるとフェルの呆れたため息。まぁ全ての元凶はアッシュだから。と付け足せば案の定アッシュに蹴りが飛んだ。
今のは…私が蹴られたかったかもしれない。フェルに蹴られて怪我をすれば看病をしてくれるというチャンスを逃したことに気付き後悔に浸って頭を抱えた。
はっ…もしかして…アッシュ、最初からそれを狙っていて…!アッシュの策略に嵌まってしまった自分が情けない…!!アッシュにフェルを取られてしまう。

『フェルに看病してもらうのはこの私なんだから!!』

アッシュにそう言えば再び喧嘩が始まった。
15分してやっとのことで乱闘が収まりかけて始まったお茶会。フェルが作ってくれたリモーネパイを口に入れて幸せの象徴とする目眩を覚える。なんて幸せな時間なのだろうか。

『こんなに美味しいリモーネパイを毎日食べたら幸せ太りをしちゃうかも。』

にっこりと微笑めばフェルは顔を少しだけ赤らめてありがとう。と微笑み返す。本当に死んでしまいそうだ。

「…毎日食ったら豚になるの間違いじゃねぇの。」

舌打ちをして私を睨むアッシュに私も対抗して睨む。まったく本当に何故ここにいて私の邪魔をするのだろう。フェルは渡さないとあの時言ったのに懲りない奴。

「まぁまぁ。でももみじの気持ち私も凄くわかりますよ。お嬢様のリモーネパイは宇宙一の代物です!!」

ぐっと手を拳にするルカさんに私の胸にじーんと何かが染みる。私は反射的にその手を握り笑顔で『ですよね!』と答えた。フェルトークをする唯一の仲間に改めて感動を覚えて思わず涙ぐむ。ルカさんは白いハンカチを渡してくれた。

「なんだ…こいつら…。おい、イチゴ頭。こんな奴等といたらバカがうつる。一緒に抜けねぇか。」

その会話に反射的に身体が動きアッシュに指を指す。それに驚いたアッシュはきょとんとした顔でルカさんも私と一緒になって立ち上がっていた。

「『抜け駆けしないで!!(ください!!)』」

それと同時にフェルとアッシュはため息をついたのはほんの一瞬で、私はルカさんとフェルトークに夢中になってしまい冷たくなっていく紅茶に気づくこともなく今日が終わった。










暴走ティーパーティー








静かなお茶会なんて不用意!!