湿気の匂いが鼻を擽る。もう少し早く総督邸に引き返せば良かったと後々になって後悔した。少し前まではどんよりとした空で、そろそろ帰ろうとした直後にこの様だ。額から滴る水を拭ってもう一度天を仰いだ。まだ、雨は止みそうにない。困ったな…。雨宿りをしてかなりの時間が経ってしまった。きっと今頃じゃあ、皆が心配しているかもしれない。大袈裟かもしれないけど、一番うるさくなるある一人を除いては別の話だった。早く帰らなきゃ…。その場から離れようとすると誰かがこちらに向かって走ってくるのが見えた。

「フェリチータ!」

雨の中、走りだそうとした私を止める瞳はいつにも増して揺らぎ、近くに来ると額に汗が滲んでいた。

『セラ…!そんなに慌てて何かあったの?』

小首を傾げ顔を覗くとセラは薄く笑み「迎えに来た」と呼吸を整えてから私にそう言った。セラはガラス工房の帰りで雨宿りをしていた私を見かけこちらに向かっていたものの、いきなり飛び出そうとしている私を見て慌てて走って来てくれた。

『ごめんなさい…降る前には帰ろうと思ったのだけど…』

「いや、雨に濡れる君も綺麗だとは思うが風邪を引いたりしたら大変だろう。それに…」

セラは私の身体を引き寄せ、私は傘の中に入り込む。いきなり縮む距離に顔が熱くなりながらセラを見つめてしまう。

「それに…こうやって傘の中で君との距離を独り占めできる。」

優しく微笑むセラに鼓動が早くなってしまい、目を逸らしてしまった。セラはいつも気障なセリフを言うものだから時折心臓がいくつあっても足りないのではないかと思ってしまう。セラは…他の女の子にもそうなのかな…。ふと疑問を浮かべ心に靄がかかる。横目でセラを盗み見ては想像すると胸の痛みが増してしまった。どうしたのだろう…。そんな私に気づいたのかセラは「気分が優れないのか?」と私の顔を覗いてきた。

『ううん…別に大したことじゃない。セラはいつも私に気障な発言をするから他の人にもそうなのかなって思って…』

そう言うとセラは立ち止まり少し考える仕草をしてから口を開いた。

「俺は自分の発言にあまり意識したことはない。思ったことを口にしているだけだからな。だから…」

「だから、さっきも言ったがこうやって君との距離を独占できて尚且つ帰途に着くということは悪くない。むしろ、今日の俺はついてると思う。」

にっこりと微笑むセラの顔は初めて見る表情で少しだけ頬が赤く見えたのは、急に晴れた夕日の陽せいなのかどうかは私にはわからなかった。そのわけを知るのはもっと先のお話。








君との距離を独り占め





-数年後-
(今思えば俺はお前に気恥ずかしいことを言ってたな…)
(ふふ、でもセラらしいよ。今でもたまに気障な発言するから身が持たない。)
(俺はお前がどんどん綺麗になって身が持たない。)
(セラって本当にずるい。)
(そんなことはないと思うが…)
(今更思えばあの時、私もセラの距離を独占できたってことなんだよね。ちょっと嬉しい。)
(…君も相当厄介な女性だと思う)
(?)



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夜中のテンションでセラを書かせていただきました。後悔はしてない。
遺言:セラフェリ増えろ!ヽ('∀'*)ノ

2014.03.16



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