月夜の晩。神々しい月光は多少の鬱と感傷的な気分を呼ぶ。仕事疲れで身に付けたため息を吐きながら、俺はなんとなく月光に吸い寄せられるかのようにベランダに立っていた。
夏とはいえ夜は涼しく風がひんやりとしている。明日はまた仕事があるため、そろそろ中に入ろうとした。が、下からがさがさと奇妙なというより不自然な音が聞こえ、俺は聞かないふりをしたかったが、このまま放置する勇気を持ち合わせていなく、おそるおそる下を覗いてみてしまった。

『あ…』

しまった。とでも言うような表情をしながらこちらに気づき、目が合う。瞬きを数回してから冷静に物事を考えようと、いつも使わない頭をフル活用した。人が普通入らない庭というか、草が生い茂るこんなところに人が入るはずがない。っつーことは、空き巣か…?幸い、ポケットには携帯がある今警察に電話するなら今だ。携帯を取りだし110を押そうとする。なんだかよくわからんが、悪く思うなよ…。

『ちょ、ちょっと!警察に電話しないでください!侵入者じゃないですから!』

全力で否定している辺りからして物凄く怪しすぎる。つーか、侵入者って一言も言ってないのにも関わらず自ら言うとは自覚があんのか、もしくはただのアホか。

「じゃあ、侵入者じゃなかったからなんなんだよ。」

そうだ。こいつの状況は今反論しても言い難いものばかりだ。どこぞのお嬢さんが、夜な夜なこんな所にいるとは…あぁもしかしてあれか?

「…なるほど、夜這いか」

『なんでそうなるんですか?!』

なるほど、こいつは最近流行りのなんとか系女子って奴か。また随分と積極的だな…。勝手に自己解釈をし、自己解決に至るのは多分早く部屋に戻って寝たいからなんだろう。そろそろ良い子は寝なきゃな。

「じゃあな、精々頑張って男口説けよ」

そう言って部屋に戻り、床につく。重い瞼を閉じながら少しだけあの女が脳裏に浮かぶ。どこかであった気がするんだが…。気のせいだと首を振りいい加減に睡魔を叩き起こし、そのまま意識を手放した。それから40分くらいのことだった。インターホンの騒音で目を覚ましたのは。時計を見れば、夜中の2時43分。近所迷惑で、尚且つこんな迷惑な訪問は初めてだ。きっとどっかの家庭の酔っ払いが間違えてインターホンでも鳴らしているのだろうと考えてはみたものの、ずっとチャイムが鳴るわけで…仕方なく半切れ状態で出ることにした。

「うっせーんだよ!誰だ!!」

扉を開け、声は少し控えめで叫ぶ俺に逆らってベリー系のような甘い香りが鼻をくすぐり、目の前に立っている人物がにっこりとほほ笑んだのと同時に背筋が凍った。

『今晩は、隆文くん。結婚してください。』

息を吸うのと同じくらい、当たり前のようにそいつは軽々とそして重々しく口にした。よくよく考えればわかることだったじゃないか。先ほどの夜這い女が、こうして今俺の目の前に立ってほほ笑んでいることを。見覚えのある顔だと思った。幸か不幸か、扉のチェーンを付けるのを忘れてそいつは驚愕している俺を押し倒し、そのまま俺の上に覆いかぶさった。

『これで逃げられないね!』

これで逃げられねぇな、なまえ。俺はポケットに入っていた携帯を強く握りしめた。


今夜の君は逃げられない。









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主人公をストーカーにしたかっただけなんです。
こういう主人公が変態設定とか本当基地外で俺得設定なのですが、皆様からしては不愉快なものになりかねないという…申し訳ないです。でも変態阿呆大好きなんです!←すみません…ww

2013.08.25