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亡き祖国にて@
寝床を共にしていたシルビアに「ツッコミ」をいれられて、普段よりもすんなり目覚めることができた。
ロビーで既に待っていたイレブンとロウさまに昨晩見た夢についての話を聞くと、どうやらあの内容に心当たりがあるらしい。私はといえば、心当たりも何も無ければ、正直に言うと朝の用意でバタバタしてしまって夢の内容を半分ほど忘れてしまっていたので、特に行き先に対する意見も無く。五人旅の次の目的地はユグノア城跡に決まった。

ネルセンの宿屋のまわりは、人の集まる場所が無いせいか、魔物による被害は少ないように思える。今まで飽きれるほど見てきた退廃の野、はそこには広がっていなかった。それでも、前に比べてだいぶ瘴気の強い魔物が出現するようになっている。
目指すは、バンデルフォン地方西からユグノア地方へ入る通路。できるだけ早く向かうために、麦畑を横切りながら進んでいれば、麦の背丈に隠れた魔物と衝突してしまうこともしばしばある。

新調した剣の切れ味も試してみたかったところだと、こちらに向かってきたトロルに向かって剣を構えた。
トロルの腹には脂肪がたんまりと詰まっているから、無闇に斬っても臓物まで届かないと見た。金棒を振り下ろしてくる前に、後ろ側に回って足の腱を切る。そしてそのまま、膝をついたトロルの首元に刃を定めると、素早く振り下ろした。巨体はあっという間に闇に溶け、消えていった。

「うん、切れ味抜群」

使い古して切れ味の悪かった城の剣とは大違いだ。イシの村で購入した新しい双剣は、世界中を旅していた商人から高値で買い取ったものであり、斬れ味も良ければ手に馴染む。ユグノア城にたどり着くまでは魔力をできるだけ温存しておきたいから、ここからの魔物は出来るだけ剣で相手をしたいと思っていたところだ……なんとか使いこなすことができて良かったと思う。

世界崩壊前に比べて、魔物は強くなり、人間が視界に入った途端すぐに追いかけてくるようにもなった。前はユグノア城に着くまでリタリフォンの上でうたた寝ができるほど魔物も大人しかったのに、今は倒しても倒してもキリがない。更に、馬での移動ができない故に、一度追いかけられると逃げ切ることが難しい。魔物の目に気をつけながら静かに進むものの、全ての魔物から逃げ切ることもできず、まだユグノア地方に入っていないのにも関わらず私たちは疲れ切っていた。

「イレブンの剣捌き、初めて見たけど綺麗で鋭いね。小さい頃から剣の修行とかしてたの?」
「いや、剣を握ったのは成人してからなんだ。デルカダールに行く前に、村にある神の岩で成人の儀式をやった時に初めて」

慣れたように魔物をスパッと斬るイレブンの腕前は、それこそ同年代のうちの兵士達よりも頭二つも三つも飛び抜けている。手本のように綺麗な太刀筋は、全くもって初心者だとは思えない。

「それでここまで上達できるなんて……」
「名前も、剣の扱いが上手だよ」
「私はお城で鍛錬してたからね」
「それを加味しても凄いと思う、しかも魔法も使えるんでしょ?」
「そうだけど、私は……」

自分でこう言うのもなんだが、たいして鍛錬もしていないのに、昔から剣の扱いと魔法には人一倍長けている。それはもう、人には特異不得意があるという理由で自分を納得させていたが、それにしても不思議なこと。もしかしたらイレブンも、そんな感じなのかもしれないなと思った。

バンデルフォン王国跡を抜け、西側の細道をずっと進む。ユグノア地方に着く頃には、もう西の空が赤みがかっていた。イレブンとグレイグさまが良いところを知っているということで、川のほとりにある誰も居ない小屋にお邪魔して夜を越した後、朝早くにそこを立ってユグノア城へ向かった。

「やっと見えた、ユグノア城」
「……」

ここに来るのは二回目。ロウさまは勿論、イレブンもシルビアもここには良い思い出など一つもないだろう。そして、私の隣で明らかに難しい顔をしているグレイグさまも同じく。

「気持ちは判りますが、そんな陰気臭い顔しないでくださいよ」
「……すまない」
「もう……」

十六年前にユグノアで起きたことは、何度かグレイグさまの口から聞いたことがあったが、大樹崩壊の際に真実に気づいた彼から聞いた話ほど己を責めるように語っていたものはない。
偉大なる王国の騎士は皆の憧れであった。エレノア王妃の護衛隊長から王妃の信頼を得て、騎士から成り上がった異例の国王であったアーウィン王は、グレイグさまも大変尊敬していた。王に化けた者の言葉を鵜呑みにして、目の前で倒れていたアーウィン王を見殺しにしたこと……あの時は焦って周りが見えていなかったとはいえ、その後も王の言うことが正しいと思い込んで、自分でよくよく調べたりもしなかったこと……吐き出すように、私に教えてくれたこと思い出した。

そんな淀んだ雰囲気のまま、私たちはユグノア城跡に足を踏み入れた。崩れた城下町の所どころで地面が焼けて未だ赤く燃えている。城下町跡にいる強そうなドラゴン系の魔物に見つからないように、気配を消しながら建物の間を移動する。
やがて、城に続く瓦礫の山にたどり着いた。また此処を登らねばならなのか、しかも今度は徒歩で。仕方ないと腕を捲って気合いを入れていれば、イレブンに肩を叩かれた。彼が指差した先には、古びた井戸と可愛らしいスライムが居る。

「ああ……井戸からあちら側に行けたのね」
「寧ろおぬしらは一体どうやって登ってきたのじゃ」
「瓦礫の上を馬で駆け上がって来たんです、落ちるかと思いましたよ」

井戸の中の道は、城へと続く道中にある別の井戸と繋がっているらしい。「だからあの時は馬で登って来ていたのかと」グレイグさま以外の三人は納得していた。井戸は勿論馬で通り抜けることは出来ないし、かといって別な入口も無い。まさかあの瓦礫の上を馬に乗って飛び越えてくるなんて想像すらしないだろう。私も想像していなかった……あの時までは。

ようやっと出口の井戸から垂れ下がった綱をのぼり終える。ロウさまのことを気づかって、休みつつ、階段を上って焼けた地面を飛び越えるように進む。ここでも、あちこちで火の手があがっていた。魔物が全然いないことが、せめてもの救いだが……。

「この場所は元々崩壊しておったが……さらにひどい有様になってしまったのう」

ロウさまが独り言のようにぽつりと呟いたこの場にいる全員、誰も言葉を返せなかった。多分、ロウさまもここに来ないと上手く吐き出すことができないのだろう。旅先ではあまり暗い話をしない、いつもの穏やかな顔からは想像できないほど悲しく淀んだ表情がそれを物語っている。

ここらの地理に詳しいロウさまに続いて奥へと進む。そして、祭壇へと続く道にある焦げ茶色の大きな扉の手前、他の場所よりも瓦礫まみれになっているそこで立ち止まった。ロウさまに「瓦礫をどかして欲しい」と頼まれ、なんとか四人で瓦礫を端のほうに運ぶ。魔法で全部粉々にしようかと提案したが、それでは他のものも壊れてしまうと言われて結局は地道な力仕事をすることになった。大きな瓦礫はグレイグさまたちに任せて、中くらいのものを持ち上げる。運動不足なのか、腰が酷く痛む

「よっ、と……」
「名前ちゃん、意外と力持ちなのね」
「このくらいは全然」

演練の時なんて、これよりも重いものを武器庫から練習場に運んでいたから、こういった力作業には慣れている。こうして瓦礫をどかしていくと、奥のほうに暗い空間が見えた。瓦礫を運ぶ時の音がその中に反響している……どうやら空洞があるようだ。さらに瓦礫をどかしていくと、それが何かの入り口だと言うことが判った。

「階段があるわね」
「ロウさま、これは……?」
「これは地下通路への入り口。ユグノアに何か危機が訪れた時に城の外へ逃げるための道じゃ」

ロウさま曰く、この地下通路の先に、あの夢の光景に関連する手掛かりがあるらしい。彼を除く私たち四人は、こんな道があったということに驚きながらも、どこか深刻そうな表情をして進むロウさまの後ろを黙って着いていった。