小咄 | ナノ
「いいんじゃないか」
ロナードが隣でそう笑うから、俺もそう思った。
夜は空が高い。
掴めっこない無数の存在に目が眩む。
細く唸る風は冷たかったけれど、触れ合う肩は心地良い温度で保たれていた。
「どうなるのかな」
「どうもなりはしない」
「それも寂しいな」
「そうかもしれないな」
「でも多分大丈夫」
「ああ、多分大丈夫だ」
眼下の町並みは水平に黒く広がる。
誰かのために窓際の明かりが優しく灯るけれど、それは少なくとも俺たちのためではない、分かっているつもりだ。
小さな存在、でも、ああ、だからこその生存願望。
理由は隣の温度になすりつけてしまえばいい。
俺たちは今夜、戦争から逃げ出す。
「いいんじゃないか」
ロナードが隣で静かに笑うから、俺も静かに笑った。
さよならばいばい