曇*1





「出してっ!!」

「ここから出せぇっ!!!」

「ふざけんな!!」

校門では生徒がデモを起こしている。
金切り声がいい感じに入ってて全く聞き取れないが、大体こんな感じのことを言っているのだろう、とgiven nameは推測した。
無駄なのになあ。
だってほら、出られちゃったらこの学校成立しないもんねえ。こんなとこわざわざ誰も残らんよ。

「アイラ、黄葉、無事だったんだね。良かったわ」

視界の済に二人を捉え、あたしは二人に近づいた。
二人は石垣に座り込んでいて、アイラは顔を手で覆っていた。

「あ、given nameちゃん……」

「何も知らずに生き残れたなんて僥倖、僥倖。
ほら、怪我ない?あるんなら保健室にでも行った方がいいよ」

「怪我は……、ないけど……」

黄葉が妙に歯切れ悪くそう言った。
精神には堪えた、ってことだろうな。
体が無傷ならそれでいいだろ!なんて、言ってあげるほどあたしは酷くも優しくも無い。
given nameは二人の隣に腰掛け、ぐっと背筋を伸ばして筋肉をほぐす。
体が緊張状態にあったせいで、かなり凝り固まっている。それに、疲れた。今日はよく眠れそうだ。

「given nameは……知ってたの?このこと」

アイラが俯きながら聞いた。
長い睫毛を震わせて、赤い目には薄く涙の膜が張っていた。

「知ってた……っていうか。まあ確証は無かったんだけどね。
でもみんな知ってたと思うよ。入学式のあの暗さは、やっぱりそういうことだったんだろうし。
教室でも、取り乱してない人間は結構いたからね」

「なんで……、なんで、教えてくれなかったの……。
私たち、ここからもう出られないの?」

「生き残れば、出られる筈よ。1年間だから、結構厳しい条件だとは思うけど。
教えなかったのは、あたしも確証がなかったから。それに、信じてもらえないと思ったし」

そう言うと、アイラは震えるように頭を横に振り、ぐっと目を瞑った。
それに押されて、涙が頬を滑り落ちる。

「こ、こんなの……嘘じゃないの?
本当は、死んでないとか、そういうのじゃないの?」

黄葉が青い顔であたしにそう聞いた。
わかってるんだろうけど、そう認めたくないってことかな。
あたしはじっとその目を見返し、「体育館に死体が積まれてるよ」と言った。
さっきちらりとのぞき込んだんだが、首なしやら首だけやら足なしやら、よくわかんないけど沢山あったから。
のぞき込んだとき、どうやって誰だか確認するんだろーなあ、と考えたのを思い出した。ちょっと気になるから後でそのへんの人に聞いてみよう。

「そんな……!
ど、どうしてgiven nameはそんな風に、落ち着いてられるの?」

「そりゃー覚悟の分だけ二人よりは冷静だよ。
大丈夫。人は何にだって慣れる。学校にも悪夢にも不幸にも殺戮にも。すぐにこの生活にも慣れる」

笑って言い放った私から黄葉はやたら大きな目を震わせた。
そんな、慣れないよ、こんなの、慣れない……。
そう呟きながら二人は俯いてしまう。
うーん、若干マジレスしたのがいけなかったかしら。適当に済ますべきだったかなあ。
あたしは内心苦笑しながら、立ち上がる。

「ま、ま。寮行こうよ。荷物届いてるはずだし、早く荷解きしないと」

「う、うん……」

given nameはなるべく明るい調子でそう言うと、二人を立ち上がらせ、まだ暗い顔のアイラの背中を押して歩きだした。







「黄葉、まだ友達居ないのに一人で大丈夫ぅ?」

「なっ、大丈夫だよ!」


given nameが茶化したように笑うと、黄葉が笑いながら怒る。少しは元気になっただろうか。
なんだかんだ、あたしはこの子たちに若干の罪悪感を感じているらしい。教えてあげればよかったかな、とか。
男子寮へ向かう黄葉と別れ、アイラと二人で歩きながら、given nameは自分のらしくない気遣いを思い返して内心で苦笑した。
黄葉も繊細そうではあるが、なんだかんだ芯のありそうな子だ。アイラもそう。
初日を耐えきった時点で弱い人間じゃない。あの蝕は運で乗り切れるものじゃない。
とはいえ、やはりショックは大きかったようで、アイラは時々顔を青ざめさせては俯いた。
少し心配だが、あまり力にはなれそうにない。
いちいち構ってられないというのと、あたしにはこのあと用事があるからだ。

「アイラ?部屋、どこだかわかる?」

「あ、うん」

「悪いんだけどね、あたし、中学のときの友達の……その、生死を確かめたいの」

「あ……そっか、知り合いが居るんだ?そうだよね、会いに行かなきゃだよ!」

「ごめんね、アイラを一人にしたくはないんだけど……」

心配なのは本当。このまま自殺でもされてみ、どれだけ夢見が悪いか……と、given nameは心中で思う。
そしてgiven nameはアイラの顔をのぞき込み、重ねて「ごめんね」と言った。
その様子にアイラは申し訳なくなり、青い顔のまま、笑顔を作った。

「大丈夫だよ、私!ごめんね、迷惑かけちゃうね」

「本当にごめんね、夕飯は一緒に行こう?」

「うん」

ばいばい、と手を振るgiven nameを見送り、一人になると、作った笑顔が崩れる。
大丈夫なんて、嘘。
一人になるのが、すごく怖い。
今にも地面に口が開いて、あのバケモノたちが出てくるんじゃないかと考えてしまう。
震える体。何でいきなり、こんなことに。
ああ誰か、嘘だと言って……。そんな思いが、心のうちに沈んでは浮上する。
……だめだ、一人じゃいられない。立っていられる自信がない。
でも、黄葉くんは寮に行っちゃったし、given nameの用事は邪魔できないし、他には友達なんて……

「あ、そうだ」

ふと、今日助けてくれた、シエの顔がアイラの脳裏に浮かぶ。
彼女は保健室にいる筈だった。
そういえばシエちゃんは酷い火傷をしていた。大丈夫だろうか?
思い出せば心配になり、アイラは保健室へと走り出した。






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