始*1






張り付いた痛みに、心が震える。
信じていなかったわけじゃない。
でも、それでも、心のどこかで、すべて冗談なんじゃないかと。
そう思っていたのだと、思う。

「ふむ………無事『儀式』は完了したようだな」

広い教室、教団に立つ御堂は一度だけ、細く息を吐いて、生徒を見据え、言う。
その声は朗々と響き、given nameの鼓膜も平等に揺らした。

「これから諸君には 命を賭して戦ってもらう」

淡々と、心苦しさなど微塵も感じさせ無い顔で、紡がれる声。
もう慣れた、ということであろうか。……この、始まりの日にも。

「『空の島』を見、その『文字』を宿すもの。即ち『戦士』の証なり」

given nameは俯いて震える。
御堂の声が、始まり。同じスタートライン。
それはどうにも、自分に相応しい気がして。

「この地は不浄の地―――神が『蝕』を起こす場所」

これから始まる惨劇に、心を痛ませながらも。
どこかでまた、自分が『望む一瞬』までは生き残るであろうことを確信しながら。

「望み尽きぬ限りここから出る事はまかりならん」

given nameは大きな目を細めて微笑んだ。

「太陽と空の島が重なる刻!!」

これから始まる自分だけの喜劇に―――、

「是 即ち  神蝕  なり!!!」

一人、胸を弾ませながら。

是は 神蝕。
生き残らなければ、君たちに明日はない。








外から、化け物のうなり声が聞こえる。
いる。
外に、いるのだ。
そして、この教室にも、じきにアレは現れるだろう。
given nameは立ち上がる。
やっと、このときが来た。少しだけ、待っていたような気すらした。

「さぁ行け!!

諸君の強さを、存分に示せ!!!」

御堂の凛とした声に、生徒はそろりそろりと窓際により、一人の生徒が窓の外を見て悲鳴を上げた。
その声が引き金となり、ほとんどのクラスの生徒が外を見るために立ち上がり、おののき、震えあがる。

と同時に、数名の生徒は覚悟した顔で立ち上がり、ばたばたと教室の外へと走り去って行った。

「えっ?何、なんで………!?」

黄葉が状況を把握できず戸惑う。
当然のことだ、黄葉もアイラも何も知らないのだから。

「何をグズグズしている!ここに居ても生き残れはせん!!
早く行け!!!」

その声にまた、数名の生徒は弾かれたように外へと走る。
窓の近くから女生徒の悲鳴が断続的に響いていた。ああ、騒がしい。

「――お前たちもいつまでここに居る気だ、何のために文字を与えたと思っている!
早く表へ出て奴らと戦え!!」

御堂が檄を飛ばす。
椅子から立ちあがったまま無表情に周囲を見渡していたgiven nameは、間延びした声でそんな御堂に問いかけた。
前髪に隠れて見えないが、口角は確かに吊り上っている。

「ねぇ先生?この蝕って、何度も起こるんだよね?
毎回毎回、沢山死ぬんだよね?」

「……あぁ、そうだ」

何故今其れを聞くのか、という表情の御堂を見て、彼女は破顔する。
そう、真実だったんだ。
全部全部全部全部真実なら、この焼け付く胸の印は、あたしの武器なんでしょう?
ねぇ。

「……そっか……そっかぁ……」

「given name、ど、どうし………、」

落ち着いた表情のgiven nameに戸惑ったアイラは声をかけるが、given nameはそれには反応を示さなかった。

「そう……なんだ……やっぱり、正しかった。
あたしは、正しかった」

それはもう諦観に近い。
「正しいこと」を望んだ訳ではないから。
でも、それならば。
それが正しいことならば。

「アイラ、黄葉。ほら、行かないと。
ちゃんと、生き残らなきゃ。死んだら、それで終わりなんだからさ」

そう言って笑いかけながら、given nameはようやく窓から離れた。
しっかりとした足取りで、教室の入口に向かって歩きだした。
廊下には既に、窓の下に見えた化け物たちがいて。
given nameは胸元の、文字に手を当てる。

「創れ……なんだって、創り出せる……」

頭の中で、記憶を手繰り寄せる。
イメージを構築。
必要な存在を全て組立てる。
……大丈夫。このためだけに、膨大に知識は詰め込んだ。

抱き上げるように伸ばした手に落ちてくる、大きな何かの感触。
金属の冷たい温度、ふらつくほどの重量。

「ははっ……やればなんとか、なるもんだわ」

いける。
腕の中に抱え込んだ、サブマシンガン。
銃口を目の前のそれらに向け、引き金を引く。
数発ずつが打ち込まれ、身を後ろに引きながらも高く構えて連射。
あたしが持つかぎり弾は作り続けることができるから無尽蔵だ、いくらでも撃てる……!

目やらの急所に当たると化け物は痙攣し、脳天に何度か打ち込めば動かなくなった。
粗方片付け、走り出す。
早く校庭に出よう。いくらでも、的はある。
のんびり靴を履き替えるわけにもいかないので、昇降口は走り抜けて、出た先。
そこは、地獄絵図だった。

血の臭いがする。
悲鳴ばかりが響く。
なるほど笑えるくらいに……。

「ああ、これは確かに……死にたくなっちゃうかもね……」

まさに悪夢。まさに地獄。
これだけの惨劇を言い表す言葉を、あたしはそれ以上に知らなかった。
そして。
足を奪われ地面に這い蹲る、今にも捕食されかねん彼らのお仲間にならないためには……。

「とりあえず、殺りまくるしかない……かな」

ガチャン、と音を立ててリロード。
目前に迫る敵に向けて、銃を構えて、固定。連射。
血なのか臓器なのかわからない何かが飛び散って、それは倒れる。
後ろも確認しながら、走り、牽制するように敵と見るや撃った。
……数が減らない。地面からも這い出でてくる。
ちまちま撃っていては、いずれ無理がくるだろう。
こいつらは壁からも出てくるようだから、射撃系アクションの常套手段、壁撃ちもできない。
そもそもこいつらは倒しきったら終わりなのか、それとも時間経過か……。
どちらにせよ、多く倒すにこしたことはないが。
敵を減らせば減らすほど、生存率は上がる。
あたしは、人には当たらないように、角度を少し上向きにして、囲まれないように打ち続けた。
そのうちに……。

「………あれ、」

急に、敵が萎んで、地面へと消えた。
……時間経過、で終わりなわけね。
はあ、と溜め息を吐き出しながら、サブマシンガンを投げ捨てる。
地面に落ちたそれは数秒後にはばらばらと崩れ、砂のように地面に消えた。

そのとき、パチパチパチ、と誰かの拍手が響く。
そちらを見遣ると、そこに居たのは御堂であった。

「そこまで!
生き残った諸君、改めて入学おめでとう!
本日はただの『始』に過ぎん。これからこれが諸君らの日課となる。
蝕は度々起こり諸君らに試練を与えるだろう!」

そう、これは度々起こる。あたしを、脅かすだろう。
指先に力を込め、given nameは御堂を見据える。
意図があるのかないのか、御堂もしっかりこちらを見据えていた。

「諸君らが来年卒する日まで、生き残ることを心から祈る!」

その言葉に、ついにgiven nameは声を上げて笑った。

そうよ。あたしは生き残るわ。生き残らないといけない。
全てを暴くまで。
真相を、知るまで。
その日が確実に近づいたことに、彼女はただただ歓喜した。







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