共*1




と、部屋を出たところで。
すぐそこにいた、変な男に捕まった。

「last nameサンどこいくの、last nameサンにも話あるからまだ帰らないでよ」

「はぁ?ちょ、待って、何よ!?離しなさいよっ……」

短く刈り上げた髪の、長身のその男は、given nameが暴れようとも強い力で握りしめ離さない。なんだっていうんだ。なんなのコイツ?
そいつは日向の部屋にgiven nameを引きずり込みながらにたにたと笑った。日向たちは驚いている。奏はもういなくなっていた。おそらく管理官に退出を命じられたのであろう。

「広末ッ……last nameを離せよ」

「ダメダメ、これ景品だから」

「はぁッ!?」

広末と呼ばれたその男は、given nameを後ろ手に捕まえたまま日向のパソコンの前まで移動する。そこには日向姉がまだ映っていた。

「宝来さん、もうダメだって。悪いけど俺我慢できない」

『……』

「日向なんて使えないにもほどがある。今回の一件だってそう、last nameさんの企みに結局気付かなかったのもそうだ」

『あんた……まさか……』

日向姉の視線は幾度も逸らされ、しかし最終的にじとりと睥睨するように広末を見つめた。まさか。その言葉が指すその先は、広末が答えた。
広末の姿が、given nameの目の前で変貌していく。given nameは無意識下で息を呑んだ。

「う、潤目……」

変わらず手を掴むそいつは、潤目。図書館のあいつだったのだ。どういうこと、そう困惑すると同時に、広末の気安さの正体を知って内心納得する気持ちもあった。そしてもう一つ。

「あんたの影の薄さはそういうことだったわけね……」

「あれ、本当に気付いてなかった?それはオドロキ」

「うっせ」

とりあえず離せよ。手を振りほどく。

「宝来さん、もう黙ってられない。ぼくならこいつよりずっと上手くやれたし、やれる。こんなやつよりぼくを……」

「おい!どういうことだよ姉キ!こいつは誰なんだ!?」

「……あたし帰っていい」

「ダメ」

関係なさそうなので帰りたいと再度申し出てみたものの、潤目が否定した。given nameに用があるというのは真実らしい。

「おまえは知識も浅く、決断力も無く、今回は暴走した。夢のときなんかまさしくそうだ、夢に対抗しても絶対に勝てない?そんなのは一般的な表層に過ぎない、実際はいくつも攻撃の通った例がある。おまえは上澄みでモノを語ってるだけなんだよ」

「……てめぇ」

「今回のことでわかったでしょう宝来さん。日向じゃダメなんだ。ぼくの方がずっと有能だよ」

『……潤目。それがあんたの本性ってわけ?随分ナメた口をきくじゃない……』

日向姉が低い声でそう呟く。うわ、とgiven nameはこっそり仰け反った。怖いわあの人。あんまり真っ向から噛み付くのはよくないな。気をつけよう。

『わかったわ。じゃあ……三十郎の権限を分割する。同等の権力を二人に渡すわ。それでどうよ』

「はぁ!?何言ってんだ姉キ!!」

「何で同等?あんたはぼくに権限を全部渡せばいいんだよ……!」

『うるっさいわね……悪い話じゃないでしょう。潤目、あんたの希望通りじゃない。半分でもね。……ていうか、私に言わせれば二人とも半人前なのよ。三十郎は確かに知識にバラつきがある。潤目は協調性に欠けるのよ』

ああ、それは確かに。
全く関係のない外野だからこそ、given nameは内心で何度も頷いた。

『わかったわね。コレ以上がたがた騒ぐのは許さないわ』

ぶつん、と音を立てて通信は切れた。さて、まぁ、いいとして……。
やっぱあたし居なくていいじゃない。given nameは苛立ち今度潤目に嫌がらせをしようと決めた。

「……ま、いいか。一応収穫はあったし。皆さんもつく側を考えた方がいいんじゃない?バカについてると後悔するよ。ね?last nameさん」

「その口ぶりがすごい嫌な予感でいっぱいなんだけど、何よ」

「日向なんて君のすることの意味もわかってないやつと組んでてもいいことないと思うけど。君は賢いからわかるでしょ」

「……んー……」

なんていうか、すごく……重大な齟齬があるような……。
潤目はおそらく日向より賢しくて、つまり利己的で合理主義者だ。given nameを慮って何かを口にすることはない。きっとgiven nameの持つカードに魅力を感じている。奏、だろうか?

「まず、あたしは別に日向と組んで何かしたことはないし、そしてコレ以上何かをしようなんて思ってない。特に学校相手には。だからあんたと組む旨味がない。文字も近いから、あんたの文字にも特に価値を感じない」

これからすることは、全部自分のためだけのこと。最初からそうだった。奏のことだって、ただ奏さえ見つかればいいと思っていたわけじゃない。
外とのパイプを手に入れる。そのためにgiven nameは必死になったのだと、誰も知らない。

「それから……あたしは、扱える人間か信用できる人間としか組まないの。朝長みたいなバカか、黄葉みたいな真面目ちゃんかどっちかね。あんたはどっちでもないでしょ。だから組まない」

「……後悔するかもよ」

「そうね。でも今じゃないし、あたしは後悔してる時ほど強いからいいのよ」

あたしは笑って、もう一度踵を返す。やっと部屋を出て、ほっと息をついた。急いで戻らなければならない。思ったより時間をくってしまった。
早歩きで、部屋に戻る。鍵を開けて、ゆっくりドアを開く。一気に開くのはあまりに危険だからだ。中に手を差し入れ電気を点けると、暴れる直前の佐野が部屋の隅で震えながら歯をガチガチ言わせていた。ああ……笑ってしまいそう。
飛びかかってくるのを予見して、すぐ近くに落ちていた佐野の学生鞄を盾にした。それが弾かれれば適当に鉄の盾を作り出して耐える。佐野は別に強いわけでもなんでもない。だから蝕に比べれば……こんなもの。
ただし今は、熱に浮かされたみたいに頭痛がする。腕がひどく熱い……もう一つの、文字の処。ぴりぴりと嫌な感覚。それでもこいつを押さえるのに必死になる。上から押さえつけて動けないようにした。

「落ち着きな、ほら……」

荒い息が肩口で絶えず騒ぎ立てる。可哀想だとふいに思った。ほんの少しだけ。同情が芽生えた?バカバカしい。死んじゃえ。

苛立ちはまだ確かにあった。後に思えば何よりも、そのことがgiven nameを安堵させていた。





prev next

戻る


topへ
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -