任*1







「ああ、それならうちの蘭堂さんかなあ」

調査のために職員室に来た日向たち一行は、丁度入ったところで三組の担任を捕まえる。
そして例の白骨化死体……はオブラートに包んでその辺に放り投げておくことにして、行方不明者について尋ねてみたところ、ドンピシャで個人名にぶち当たった。

「一月くらい前だっけ、突然来なくなっちゃって。同室の子も、寮に戻ってないって言うし。
まあでも、よくあることなんだけど。の割りに蘭堂さんしか今行方不明者は……ってあれ?」

「どうかしましたか?」

「いや……一週間、もっと前かな。女の子が、蘭堂さんについて聞きに来たんだよ。生きてますか、って」

「……え」

うんうん唸りながら、三組の担任は視線を巡らせ考える仕草をする。たしかあの女の子はー、と舌で言葉を転がす彼女に、美濃が突然その言葉を継いだ。

「一組の……last namegiven name……」

「あ、そうそうその子!可愛らしい感じの。なんかすごく暗い顔してたけど、よくあることだよって言ったらすぐに帰ってったよ。
友達、ってわけじゃないみたいだったけど」

蘭堂さんに何かあったって、知ってるみたいな様子だったなあ。
その言葉に、日向は無意識に顔をしかめた。いやなところで彼女に繋がってしまった。
それにしても、なぜ美濃はそれを察したのか。そう思って日向が彼に目をやるも、彼はふいと目を逸らした。
ナニ隠してやがるてめえ、と凄むも、奴は一向にこちらを見ない。美濃はこうと決めたら動かない性質なのでさっさと諦めた。無意味なら無駄な労力は使わない方がいいし、自力でたどり着く分にはこいつも邪魔はするまい。たぶん。

「ったく……じゃあ、三組に聞き込みにでも行くか。
先生、その同室の奴も、三組っすか?」

「ああ、うん、三組……だったんだけどね。『夢』で亡くなったから、もう話は聞けないよ」

「うわ、まじすかタイミング悪い……となると、ただの生徒に聞くしかないか」

日向はため息を吐くと、校舎のほうへ向き直った。



そして三組にて。
当然ながら美濃のクラスなので、取次ぎは全て美濃に任せることにする。

「あ、ねえ美保ちゃん」

「んー?美濃くん?」

入り口付近で女子数名と世間話に興じていたポニーテールの女子に、美濃が話しかける。
彼女はそれに応えて廊下に出てくると、こちらが思いがけず大人数だったので驚いたようだった。

「うお、美濃くんのお友達だ。どしたの?なんかあった?」

「あーっと……聞きたいことが、あってー……」

「蘭堂藍子のことだ」

言葉に困ってちらちらとこちらを見やる美濃に内心ため息を吐きながら、本題を切り出す。
と、彼女の名前を耳にした瞬間、その美保という女生徒の顔が凍りついた。

「蘭堂さん……、えっと、ずっと来てなくて……」

「ああ、知ってる。だから、まだ学校に来てた頃の様子、仲の良かった生徒……彼女について、何でもいいから知ってることを教えて欲しいんだ」

「あー……、うん、そう……だよね。おかしいもんね……」

彼女はそれでもまだ何か躊躇っているような表情だったが、数秒の後に覚悟を決めた様子で、教室から少し距離をとった。
まるでこれから話すことをクラスメイトに聞かれたくないかのように。

「あのね、蘭堂さんはね、普通の女の子だったよ」

それはなんだか、妙な語り口だった。普通の女の子のことを話すならきっとそんな前置きも、そして神妙な顔をする必要もないのだから。
けれど、蘭堂藍子に関しては、それが妙に脳内で合致してしまうから困る。そうだ、蘭堂はきっと変わった奴ではなかったのだろう。それなのに、『普通ではない』事件に遭遇してしまった。その結果が白骨化。そして、きっとこの話も、どこかで彼女に繋がってしまうのだろうという嫌な予感が、日向の脳内ではぐるぐると回っている。

「学校に入学してすぐにね、蘭堂さんには彼氏ができたんだ。同じ三組の人なんだけど、佐野くんっていう……かっこよくて優しい、素敵な彼氏だった。
だけど付き合い始めて……三週間くらい経ったころかな、蘭堂さんは突然学校に来なくなったんだ。
佐野君に聞いても知らないっていうし。そのうち、蘭堂さんの話を出しても変な反応をするようになって。そうなったらもう、そういう話題を振るのもなんかだめかなって。
それで気を使ってたんだけど、でも……最近、二週間前くらいから、今度は佐野君も学校に来なくなっちゃって……食堂とかランドリーとかには居るから、無事なのはわかってたんだけど、だけど」

「……だけど?」

「いつも、あの子が……一組の、あの子が一緒に居るから。変な噂が、立っちゃったんだよ」

「変な噂、って……given nameにも関係あるの?」

ほぅら、やっぱり繋がってしまった。
無意識のうちに唇を噛んでいた。……彼女も当然のように、蘭堂の死に関係があるのだ。彼女は何を企んでいる。
歯噛みする彼の前に、すっと美濃が入り込んだ。

「み、美保ちゃん、もういいよ、ごめんね」

「ばかやろうなにがもういいんだ。頼む、教えてくれ」

会話を打ち切ろうとする美濃に後ろからチョップを入れて、話を続けさせる。
彼女はゆっくりと頷いて、噂について話し出した。

「あのね、佐野くんってね、けっこう人気あったんだ。蘭堂さんも、大人しいけど良い子だったから、それなりに仲良い子も多かった。
でもその、一組の子についてはわたしたちよく知らないから。だから、もしかしたらその一組の子が、蘭堂さんを……それで、佐野くんを奪ったんじゃないかって噂がね、立ってるの」

「……つまり…………、」

「死体を作ったのはgiven nameで、理由は佐野くんを略奪するためだっての!?」

ノアがワケ分かんないという様子で話を総括する。
日向はそれを聞きながら、じっと考え込んだ。
確かに筋は通る。というか、それ以外に通りそうな理由が見当たらない。一旦整理して考えてみることにした。

三組の担任によれば、今行方不明なのは蘭堂のみ。新しい死体ということは確実に今年度の生徒のものなのだろうから、死体は蘭堂だということになる。
そして事件のその後の経過を見ると、蘭堂が消えた後last nameはそこに入れ替わるように佐野の部屋に上がりこむようになっている。
そこに男女の何がしかを感じない者はたぶん居ない。それは仕方が無い。……なぜかそれについては考えたくなかったけれど。
一応仕事なんだから私情を挟まないようにしないと、と反射的に自分を律す。が、last nameの蘭堂の死への関与をなんとなく事実として認識できないのには、俺的感情論だけじゃない、理由もあるのだ。

「なあ、その噂って三組だけで回ってんのか?」

「へ?ああ、うんたぶん……」

「ふぅん……。でもそれ。間違いだと思うぜ」

え、と、目の前の彼女が聞き返す。
日向はそれにはもう応えずに、窓の外を見上げた。そろそろ六道のモノマネ練習も煮詰まっているころだろう。もう戻ったほうがいい。

「ありがとな、助かった。おら、部屋戻るぞー」

「ちょ、おい三十!」

もう話の概略は掴めた。なんとなくではあるが。
あとはもう少し情報を集め、精査する必要がある。理由……いや、気になる点も、あるのだし。
そう例えば。
例えば、恋人という一言で片付けるにはあまりに不自然な関係。
例えば、蘭堂が消えてからlast nameが佐野と過ごすようになるまでの二週間強のタイムラグ。
例えば、last nameの佐野への過ぎるほどの厳しい態度。
例えば、比良坂が居ないとわかったときに走り出したlast nameの青ざめた顔。

が、これは、せいぜいが『違和感』だ。まだ一つも確証には至らない。
それでもそういう違和感ばかりが自分の中に少しずつ降り積もるのは、やっぱり彼女をどこか好意的に捉えているからだ。

「それよりミノ。てめえクラスの噂のこと黙ってたな」

「あー……キカレナカッタンダモン」

「まだなんか隠してるだろお前、last nameのことで」

「ぎくっ」

「……口で言うんかよ、ソレ」

ノアの呆れ顔を受けながら、美濃は視線を逸らす。
『夢』で一緒だったというから、おそらくそれ関連だろう。
無理にでも聞き出したい気持ちがないでもないが、美濃も馬鹿ではない。話す必要を感じれば、話すだろう。

寮への帰り道。保健室から出てくるlast nameを遠くに見かけた。last nameの首に巻きつけられた包帯に目線は引き付けられた。
なぜ、首なんて怪我しているのだろう。そうは思ったが、わざわざ聞きに行く気にはなれなかった。それが、隣に居た佐野一政に関係あるのかどうかは、わからなかったが。







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