刀*1





「行きたいんじゃないの?」

突然の、佐野の一言にあたしは固まった。
窓の下、走ってゆく二人の少女(ノアと、たしかエコといったか、ともかく二人)をなんとはなしに見ていただけなのに。

「な……んで、あたしが行きたいと思う?」

「何で、って……友達でしょ?」

誰と誰がよ、とあたしは口角を上げて目いっぱい皮肉気に笑うが、それに佐野はきょとんとしたまま言い放つ。

「アイラ、だっけ?血相変えて探しに来たじゃない」

「……あ」

「それに、あのトモナガ……だっけ。前にも言ったけど、君がけしかけたようなとこあるでしょ?骨くらいは拾ってやんなよ」

「別に、あたしは大して手出しはしてないったら……、ってあれ、朝長が確実に負けると思ってるんだ?」

あたしが聞くと、佐野はすっとこちらに手を伸ばす。
その手があたしの髪を梳かんとすると同時にあたしは身を引いて、反射的に自分を庇うように腕を前に出した。
それを見て、佐野はふっと表情を緩め、笑う。

「悪役ってのはね、すべからくヒーローに殺されるって決まってるんだよ」

「……ここは現実よ。正しさが救われるとは限らない」

「じゃあ君がヒーロー、いやヒロインになればいい。助けたいと、思わないわけじゃないんでしょ?」

佐野は笑って、「俺はこの部屋から出ないからさ」と言い放つ。
……そうまでしてあたしを追い払いたいか。

まあでも、彼の予想は当たらずも遠からず、であり。
あたしは奴から財布と部屋の鍵を取り上げてから、結局佐野の部屋を出たのだった。





当たらずも遠からず。
そう思ったのはそれはつまり、「止めに行きたいだけじゃない」ってこと。
あたしは朝長の部屋の前に来ていた。
さて、どうすっかな。

「鍵はなあー……入手は無理だよなあ」

かといってドア壊したりとかしたらもう、あたしが部屋を荒らしたってことはバレバレですよね。となると、できるだけ穏便に開ける必要に迫られるよねっていう、わけで。
でもなあ、これシリンダーだもんなあ。
シリンダーは構造上、精度がかなり重要だ。実物を見ない限り、あたしにもそんなものは作れない。
あーなんで部屋なんか来たかなー、どうせ開けられないの分かってたのになあ、ボケたかな。

「実物を見さえすれば……」

あたしの文字だって万能じゃない。明確にイメージさえできれば大抵のものは作れるのだけども、鍵となるとイメージではどうにもならない。
でも実物見るって言っても、朝長に鍵見せてとか意図がバレバレ……ああ、朝長の死体か気絶体がどこかに落ちてたらいいのに。
と、あたしが逡巡したそのときだった。
教室棟の、廊下の窓が見えるのだけれど、そこにアイラの姿を見たのだ。
……戦っている。黒髪の、ツインテールの少女と、アイラが戦闘しているのがわかる。
しかも……、

「朝長まで……」

戦うアイラの近くの壁に、朝長が凭れていた。
……行くか。放っておいたら、アイラ死にそうだし。それはちょっとあれだし。
それになにより、鍵が欲しいんだ今は。つまりあいつの荷物を漁るチャンスが欲しい。
あたしは靴のかかとを整えると、さっさと走り出すことにした。





「とっもなっがくーん」

なんかデジャヴ、と思いながら、given nameは廊下の向こうの朝長に声を掛けた。
丁度アイラが敵方の少女に勝利したところだったようで、アイラがカーテンを裂いて少女を庇う位置に立っている。何であんたがそいつを庇うのさ、と一瞬思ったが、負けたら死なのだ四組は。そんなことを思い出して、given nameは少々辟易とした。……日向たちが捕まえた連中も、もう死んだのかな。

「……何の用だよ。お前が口を出したところで、殺すのを辞める気はねえぞ」

「わかってるわそんなこと。そしてどうでもいいの。誰が死ぬかはもうどうだっていい、ただ君に少し……お話があるだけ」

後ろに手を組んで、彼に近づく。その途中、手の中にそっと二つのものを『創』り出す。一つはショットガン、そしてもう一つは……。

「何だよ、お願いって」

「んー、三つほどあるんだけど。許して欲しいな、って」

「は?」

「だからこれが、一つ目の『ごめん』。

――走れ!!」

ふわりとgiven nameは笑って、そして叫ぶ。
その声を聞いてか聞かずかわからないが、完全に同時に地に膝を着いていた二人の少女は走り出す。given nameはそっと、手の中の……「合図するから走って逃げて」と書かれたメモを握りつぶした。
朝長が目の前で、眼差しを険しくする。

「テメェ……」

「っとと、文字は使っちゃだめよ?そんなことしたら……あの文字の関係で、アンタも死ぬ。それは嫌でしょう?
でもねえ……それは、文字で直接与えた怪我限定だから」

given nameは右手で薙いで、銃は窓に向けられる。彼女は足を引きながら、ぐっとトリガーを握った。

「意地悪なお妃さまは、割れた鏡に心臓を貫かれて死ぬじゃない?」

「ふざっけんな……!!」

それでも、と朝長が手を前に繰り出す。相打ち覚悟かと思いきや、若干の躊躇いを感じる。そんな朝長を「臆病者め」とgiven nameは内心で笑った。
あの文字に、『互いの文字に干渉を禁ず』なんて効能はない。文字として使えば別だけれど、使わなければ何の意味も無い。だからお前が本気なら、あたしはいますぐ死ぬだろうさ。それが、二つ目の『ごめんね』。最初っから嘘吐いてて、ごめんね。
口角を上げて確かに笑いながら、given nameがトリガーを引こうとした……その瞬間であった。

「ッ!!?」

「んなッ……」

窓の外が煌々と光る。島から届くものだ。それは、蝕の始まりを意味していて。
しかも、この感覚は。

「嘘でしょ……!?」

隔離型かよ……!
朝長の舌打ちが、すぐそこで聞こえていた。






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