炎*2





「あ、あそこだ」

given nameとアイラが立ち止まると、目的とした部屋の前には三名の生徒が立っていて、中に向かって話しかけていた。

「あれは……」

given nameはその三人に見覚えがあった。
この間、食堂で見かけた奴らだ。四組の連中。

「なぁ、正直言って明日はヤバい。
あんたの力が無いと俺ら全滅しちまうよ」

「だったら勝手に全員死ねばいいじゃない!!
そんなの……どうだっていい!!」

あら、確かにちょっと病んでるわね。
正常な精神状態だったら、倫理観が邪魔して言えない本音がこうもあっさりと。結構厳しいトラウマみたいだわ、とgiven nameは冷めた目で考えた。
が、四組の彼らはそうも冷めていられなかったらしい。

「……っに言ってんだお前……ふざけんな!!」

いきなり男子生徒の一人がドアを蹴り、怒号を響かせる。近隣の迷惑考えろ。
完全に追い詰められてるなあこいつらも……ある意味、坂崎よりも限界近そう。

「開けろよオイ!開けろ!出て来いよここから!」

「何してるの!」

遂に見ていられなくなったのか、隣のアイラが止めに入る。
あたしも止めようと思ってましたよ本当ですよ。ただちょっと、既に面倒になってたけど。

「何考えてるのあなたたち……!!」

「あ……」

「一旦戻りましょう」

三人のなかで一際気弱そうな男子がうろたえ、それを察した黒髪の女生徒が場をいさめるようにそう言った。
背中を向け去って行く三人から、「なんて言えば、」とか「納得してくれるわけが」とか聞こえてくる。
やっぱり、君らの懸念はそこにあるわけだ。あさましい。
わずかにイライラが募る。それは不純だから。自分のためでも他人のためでも、真っ直ぐじゃない考えは歪んでいて気分が悪いから。

「そんなにびくつかなくても怒られやしないでしょうよ。いずれ無理やりにでも解決させる気なんだろーし?」

ので、せっかくなのでいらいらに任せて考えをぶつけてみる。
given nameが三人の背中に向けて言うと、さっき扉を蹴っていた男子が振り返り、青ざめた顔でこっちを睨んでいた。

「お前、何を知ってるんだ……!!」

「さーあ?なんにも、知らないよ……?」

さっさとお帰り、とにこやかに手を振ると、彼は舌打ちをして、今度こそ去って行った。
余裕は使い切った後みたいね。だから朝長ごときに牛耳られるのだ。
ははっと笑ったあたしの後ろで、アイラが困惑の声を出す。

「given name、知り合い……なの?」

「んーん。ちょっと牽制しただけ。
むかついちゃったし、ちょっとくらい脅してやりたいじゃん?」

「う、うん?」

アイラは戸惑ったような顔をしていたが、given nameがそんなことより、と指を鳴らして促すと、おずおずとドアをノックした。

「あの………シエちゃん?
もう平気だよ、今の人たち行っちゃったから」

アイラが中に向かってそう言うと、一拍置いて中から返答があった。

「……アイラちゃん?アイラちゃんなの?」

「あ、うん、私……あんまり食堂でも見かけないけど、シエちゃん大丈夫?」

「あ、大丈夫!
同部屋の子とここで食べてるんだ」

中からは思ったより元気な声が響いた。意外と、っていうか。
そこまで深刻に病んでいるわけではない、のか?
そう一瞬考えた、のだが。

「あ……あのね、私、シエちゃんに話があって来たの……」

「え……」

「あの、明日の蝕のことなんだけど、今戦ってる敵には『火』が必要で……それでね……」

そこまで言葉を次いだ瞬間だった。
中から、小さくも凄んだ声がもれ聞こえた。

「そう……あなたも他の連中と一緒なんだ……自分が生き残りたいから……あたしを利用しようとして……ほんっとサイテー……」

「え、あ、私は……」

声は少しずつ大きくなり、アイラを詰る。次第に怒りを伴って。

「帰って!!蝕とか文字とか、そんなの知らない!!
早く帰ってよ!」

「シエちゃん!あのね、」

アイラが何とか釈明しようと口を開くも、火に油。
もう彼女には何も届かなくなっていた。

「帰れぇっ!!」

ダンッと何かが叩きつけられるような音がして、それきり音がしなくなる。
あーあ………。
それなら、あたしにもできることはなくなってしまいました。さてはて、残念。

「坂崎……いっこだけ教えといてあげるわ。立ち上がるタイミングを逃すと、絶対に後悔する」

返答はない。静まり返った廊下には、息遣いさえ聞こえない。

「逃げられないのは、自分だけじゃない。だから、自分を救えないなら誰も救えない。
いつ気がついたっていい。アンタの自由よ。でも、遅いなら遅いほど……零れ落ちるわ」

返答はない。それが答えでもあるのかもしれない。
それならもう、かまわない。

戸惑い顔のアイラに、いいわ行こう、と言って、あたしたちは女子寮を出ることにした。








「そうか……駄目だったか」

「うん……ごめんなさい」

「あれはどうやっても無理そうだったわ。追い詰められちゃってるから、何を言っても無駄そうよ」

目を細めて遠くを眺めるような仕草をするgiven nameに、日向が唸る。その顔には、どうしたものか、と書いてあった。

「いざとなったら明日、なんとかするしかないな」

「他の人も声をかけに来てたみたいだけど……」

「みんなも坂崎さんのこと知ってたんだ」

黄葉が考え込むように顔を顰め、あたしも同じく額に手を当て思案する。
あたしにできることはない、もうないけど……やっぱり少し、気が咎める。

「情報源がどこかはわからないけど……沢山死んでるからなぁー。
坂崎への風当たりは強くなる一方でしょうねぇ。四組とか」

「四組ねぇ……あそこ、良い噂は聞かねぇな」

「そうなの?」

「おかしいんだよ、あそこは」

日向が椅子をがたがたさせながら言う。その角度はこけるぞ。

「常に集団で居るし、他クラスになじまない……。
それだけならともかく、決定的におかしいのが……初日にあそこの担任担任死んでんだよ」

「!」

given nameはびくりと顔を上げる。
朝長のやらかしたことだ。初日に会ったときに言っていたことは確かに本当だったのだ。
疑っていたわけではないが、こうして違う人間から聞くと少し違う。

「なにか、おかしいことでもあるの?」

ボヤァーっとした顔で聞く黄葉に、given nameは深く溜息を吐いた。
本当にこの子は、観察するということを知らぬ。そして学ぶということも。それが素直さにも繋がっているのだろうが。

「……アンタ、蝕のとき御堂見ててなんとも思わなかったの?」

「先生?あ……!」

黄葉は名前を出されてようやく気付いたようだった。
御堂は初日、ずっと教室に居た。

「そうだよ、先公らは蝕に影響されないんだ。そもそも死ぬ訳がないんだよ!」

「それじゃあ、やっぱり他殺なわけ?」

「ああ、らしい」

あたしの一応の疑問符に、日向が頷く。
朝長の短絡さがよくわかる一件だ。あたしとは対照。立ちふさがるものそれに準じかねないものすべて壊して、強引に帝国を築くやり方。さて歪は修正できるのかしら。

「えっ……なにそれ、四組の生徒が先生を、ってこと!?」

「そういうことねえ」

「とにかく、四組は問題児クラスってことだ。
あんま度が過ぎるようならなんとかしないと……」

日向がぐっとかみ締めるように言う。……こいつ、思ったより正義漢だな。あんま深入りするとめんどくさいかも。
関わるべきじゃないのは四組が筆頭だけど……。

「さて、そんじゃあたしは図書館にでも行こうかな」

「あ、私も仕事があったんだった」

これ以上ここに居ても無駄だろう。立ち上がるあたしに日向が「他人事かオイ」と口を挟むが肩をすくめてそれはスルー。だって何もできないもの。
そう思ったあたしは、本の整理が終わってないんだ、と困り顔で笑うアイラと共に、日向たちの部屋を出たのだった。






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