炎*1
「っはー……つっかれたー……」
大規模な創造を繰り返したため、given nameは既に疲労困憊だった。
特に頭痛がひどいらしく、頭を抱えて唸る彼女に黄葉が「大丈夫?」声を掛ける。
given nameは明確に返事をせずひらりと手を振ると、そのままの姿勢で黄葉を詰った。
「黄葉アンタ……使えないにも程があるわよ日向並みじゃないのよぉ……」
「おいlast nameお前それはどういう意味だコラ」
「え、僕なんかした?」
「だああ、何もしなかったんだよバカヤロウ」
一時間ほど前に現れた六道(大)は特に何もせず蝕の終了と同時に帰っていった。何しに来たんだアイツ。
あたしは深いため息を吐き出す。何でこんな、最悪な状況なのよ。生き残るために手が打てない。失敗でもなんでもなく、完全な運。そこが許せない。
ぐぐぐと唸る彼女に、アイラが会話を変えようとさっき思ったことを口にしてみる。
「ねえgiven name、今日は何してたの?昨日とはまたちょっと、違うことしてたみたいだけど」
「あー……」
アイラが言っているのは、おそらくあたしが今日もダイヤの傘を創って、その遥か上空で爆発を連続して起こしていた件だろう。
「昨日、あたしダイヤの傘創るのに爆発起こしたじゃん?その直後はハサミが襲ってこなかったのよ。
だから、元素文字ではないにしろ炎を巻き起こせばまあ、急場は凌げるかなって」
「ほえー……」
「まあまあうまいことやってたが、あれはもう明日には無理そうだったな。
あんなに爆破してもせいぜいが空に大穴開けた程度。それもすぐに戻っちまうし、あんなん多発してたらlast nameの息が持たないよな」
「そうねー……明日も同じ方法でやるなら水素爆弾かウラン創んなきゃもうむり」
「そっちのが危険だわ」
そう、つまり万策尽きた。
が、日向までもがため息をつき始めた中で、アイラが意を決したように口を開く。
「あの、私……『炎』持ってる人知ってる……。うちのクラスで、坂崎志絵ちゃんって言って――」
「マジで!?」
「そいつ、生きてんの?」
少しだけ言いづらそうなアイラに、日向が怪訝そうに尋ねる。同じ疑問をあたしも抱く。
生きてるなら、何で何もしないの?このままだったら、自分だって死ぬのに。
「う、うん、さっきそこで見かけた……」
「じゃあ、なんで解決しないんだ?」
「実は、初日に文字で大やけどしちゃって。それがトラウマになってるのかも……」
深刻な顔で視線をさ迷わせるアイラ。察するに、相当な怪我だったのだろう。
「文字を使いこなせてないってことか。でも今は、そいつに頼るしかないよな……。
これからコンタクトとってみるか」
「あ、じゃあ私行ってみるよ!私知ってる人だから」
アイラがそう言って踵を返そうとした瞬間、こちらへ向かってきた男とぶつかってしまう。
あ、ごめんなさい、と言って身を引いた彼女の後ろから男の姿を認めた瞬間、given nameは眉間に皺を寄せ居住まいを正した。
「何の用よ、佐野」
「はは、機嫌悪いね。
いやはや、今回の蝕にはお手上げでしょ?でどーしよっかなと思ってたら、君たちの会話が聞こえたもので」
「そう。で?つまりアンタには何の関係も無いじゃない」
突然given nameが凄まじく機嫌を悪くしたので、日向たちは驚いて一瞬言葉に詰まった。
彼女のこの敵意は何なのだろう、と思った瞬間、given nameの手の中からライフルがまっすぐ伸びてアイラと佐野を引き離す。二人を近づけたくない、というように。
「お願いだから、あたしの前では半径3メートル以内に人間を入れないで頂戴」
「本当に、君は……おっかないねえ。何もしないって」
「じゃあ今すぐ回れ右して」
棒の先を真っ直ぐに佐野に向けると、佐野は肩をすくめて棒をgiven nameの手の中から引き抜く。
彼女の手を離れると、棒は数秒で崩れ去った。
「サカサキシエ、だっけ?ありがとうlast nameさん」
「!!」
それを聞いた瞬間のgiven nameの表情。苦しげに顰められた彼女の顔に、日向は心配になってきていた。この男との間に、何があるのだろうか?
が、そんな心配をよそに、さっさと踵を返して去っていく後姿をじっと睨み、given nameは立ち上がる。
「アイラ、急いで行こう。あたしも行く」
「へ、あ、うん」
アイラも戸惑いがちではあったが、早歩きで女子寮へ向かった彼女に続いて歩く。
一体given nameはどうしたのだろう、と瞠目しつつ、シエのことにも思考をめぐらせながら。
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