水*2








その翌日。
『蝕』は訪れた。
太陽と島が重なり、空がまるで湖面のように波紋を映し出したのだ。

「あれ……何!?」

アイラが慄いて声を上げるが、日向が答えない。
あたしがじっと睨むと、観念したようにため息を吐いて、ぼそりと呟く。

「知らん」

「え!?」

「だからな!?オレは万能じゃねぇんだよ!
今までに出てきた奴しかわかんないの!」

黄葉のまさかといわんばかりの声に日向がキレ気味にそう返す。
ってことはつまり。

「じゃあデータ無しってこと?
うっわ日向使えなっ!」

「んだとコ、っ!!?」

あたしの叫びに日向は言い返そうとしたが、ほぼ同時に空から何かが降って来て、地面に突き刺さったために最後までは続かなかった。
甲殻類のハサミのようなその切っ先はズズズ、と地面からまた抜き出ていく。

「な、何………?」

黄葉が困惑したような様子で立ち上がろうとするも、ハサミが襲い横に転げる。
あたしはその様子に叱咤を飛ばした。

「黄葉、のろのろしないの!また来るわ!」

降り注ぐそれを避けながら、あたしは文字に手を当ててイメージを練り上げる。とりあえず、反撃しなきゃ。なんでもいいから一時身を守って、その間に盾かなにか創る必要がある。
反射神経に自信のあるタイプじゃないことは自分でわかってる。恒久的にあれを回避することはできない。

「六道くん、下がってて!」

「あと日向もねー」

「俺ら形無しじゃねーか!」

「大丈夫、六道くん!
絶対『変』われるから……!」

「……うん!!」

「オレに関するフォローはナシか比良坂!」

ぎゃーすか煩い日向は放置で、アイラは刀を振り回しハサミを一挺、吹き飛ばす。あたしも右手にマシンガンを創り、それを空に向けて撃ち続けながら左手を空へ伸ばした。
この世で最も硬いのは、やっぱりダイヤでしょう。

上空に酸素を一瞬で創造、そして静電気で発火。其処に炭素のベールをぶつけ一気に高温にし、同時に空気が膨張し圧力をかける。更に上空で赤い火花が舞い、爆音が跳ねた。
できるだろうか。ダイヤは炭素を高圧縮しただけのものなので、明確に炭素と区別してイメージできず、一発で創るのは難しいかと思い製造過程から創ったのだが。ダイヤ割ったことなんてないから明確に堅さなんか知らないし。
そう懸念すると同時に、爆発が霧散し、きらきらとしたダイヤの傘が現れた。直径5メートルぐらいで形状はドームに近く、持ち手は真っ直ぐ鉄の棒を地面に伸ばしている。文字の特質上、あたしが触れていないと数秒で創造物は消えてしまうのだ。

「すっげ……」

「でしょ?
……でも、あれ……?」

おかしい。せっかく創ったあたしの傘の上には、ハサミが降らない。どうしてだろう、壊せないものには当たらないのだろうか?
そう思ったが、数分後には降り始めたので違うらしい。ダイヤの傘はハサミを確かに防ぐが、ハサミを壊すことはできない。そこまで望むのは高望みか。
今はそれよりも、大規模なものを創ったが故の負荷が気になる。……少し息が苦しくなってきた。終わりまで持つだろうか。
傘の下なら安全と見て、日向が黄葉やアイラを呼ぶ。下から二人が傘の端を潜り抜けて入ってきて、それにノアと美濃も続いた。その後ろにも入りたがりそうな人間がちらほら見えたが、残念そろそろ定員です。

それから数十分経ち、ダイヤ傘の端ががりがりと削られ始めた頃(そしてあたしの体力が限界に限りなく近付いた頃)、空の暗い波紋はぼろぼろと崩れるように晴れはじめた。
ああ、良かった。訳はわかんないけど、とりあえず終わったみたいだ。

「ねえ日向、あれ結局なんだったの?
……ねえ?」

「ん?ああ……」

日向がもごもごと口ごもる。言い難い何かがあるらしい。
その歯切れの悪さを怪訝に思いこそすれ、無理に聞き出そうとは思わなかったのだ。その日が終わって、翌朝がやってくるまで。

「うそ、なんで今日も……!早すぎない!?」

「あぁクソッ、ここに来てからヤな予感ばっか当たるよ!
また来るぞ!昨日の敵……『水』が!!」

空には昨日と同じく波紋。
ただしそれは、明らかに大きく広がっている。昨日のものよりも遥かに。

「だってもう……昨日終わったんじゃ……!」

「文字の中にはな、特殊なのがあるんだよ。
『神』とか『国』とか『皇』とか……それに四大元素な。『火』、『風』、『土』……で、開校以来『水』は出てこなかったんだ」

日向がギリリと歯噛みする。
given nameは自分も知らない情報に俄かに恐怖を覚えたが、とりあえずはそれどころじゃない。

「あいつらは致命傷を負わせない限り毎日出現するんだ、しかも日々パワーアップしていく……!
数日中に打開できなきゃ全滅、こいつらに潰された年は何回もある!」

「致命傷、って!
空相手に、どうすれば……!」

「元素モンは反対の要素ぶつけりゃいいんだ、こいつは『水』だから、『火』、『焼』とか『燃』とか……!」

あと、『炎』とか!

その声に反応して、アイラがぱっと顔を上げる。
その文字は、知っている。

「『炎』……!!」


シエちゃん――……!!!








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