黒*1






アイラが不安そうな顔できょろきょろと周囲を見回すので、探しに行くかと聞く。
彼女がそれに頷いて、二人で探し回ることになった。
扉を確認しながら歩き、開いたら近づいて黄葉が居ないか確かめる。

「(これで4つ……ああ、向こうも開いた)」

遠くでまたひとつ開くのを視認するが、遠目に見てもそれは黄葉ではなかった。
少し落胆の色をにじませながらgiven nameは溜め息をつく。そのとき、目の前の閉じたままの扉に異変が起きた。

「え、」

突然インクが染み出したかのように黒く染まる扉にgiven nameはたじろいだ。
何よこれ。

「これは『開かずの扉』だ」

「日向……」

「こうなった扉はもう開かない。人は出てこない」

いつの間にか隣に立っていた日向がそう告げる。
試練にはoverという終わりがあるから。

「じゃあ、もしこの中に黄葉が居るなら……」

「アウト、だな」

それはそれは、アイラが泣きそうだ。
まあ、蝕ってこういうもんだしな。仕方ない、仕方ないんだけど。

「それは夢見が悪くなりそうなオチね」

「……ああ、全くだ」

日向も苦笑いで肯定した。
アイラが遠くを走り回って、まだ黄葉を探している。見つかるといい。
そう思いながら頭上を見上げた時だった。

「……ねえ、ねえ日向、空が……」

「もう、終わりか……?」

雲がそっと島を覆い、光を遮り始めたのだ。
そして同時に、辛うじて残っていた幾つかの扉が、一瞬で、黒に。
それは蝕の終わりを意味していて……。

「given name、日向くんッ!!」

「アイラ、」

肩で息をするアイラが、目の前まで来て、黄葉が居ないと訴える。
ああ、この子泣きそう。それはちょっとめんどくさいな。できれば御免こうむりたい、が……。

なんて、あたしが軽く最低なことを考えた時だった。

ガン、と鈍い音がして、つんと鼻を突く臭いが空気に流れ込む。
反射的にそちらを見れば、音の主は一人の男。
人間らしきものを担いだそいつが扉を蹴り開けたらしかった。
そう、既に黒く染まった扉を。

「……え、日向……扉開いてますけど」

「そんなはずは……」

隣の日向も目を白黒させている。
そしてびっくりして時の止まっていたアイラが駆け出す。
六道くん、と声を上げてから。
……え。

「えええ、あれ黄葉、なの?」

「いやいやいやいや俺の同室はあんなイケメンじゃなかった」

ほんとだよ、あんなにでかくもなかったよ。
じゃああれは誰。アイラが緊張の余りボケたってことでもあるまい。
逡巡の途中、扉が色を失いながら消え、蝕の終了を知る。
そしてほぼ同時に、黒髪の青年は姿を変え……次にそこにいたのは黄葉だった。

「……どうなってんの、あれ?」

「俺に聞くな……比良坂が食堂で言ってたのはこういうことかよ……」

ぶつぶつと呟く日向を一瞥してから、given nameは黄葉たちの方へと歩き始めた。
とりあえず、黄葉は意識がないみたいだし。隣に死体まで落ちてるし。
アイラが黄葉を支えようとするのを手伝って、近くの生垣に横たえる。
何度かゆすると、彼はすぐに意識を取り戻した。

「……アイラちゃん、given nameちゃん……?」

「良かった、六道くん……!」

どういうことだろう。
蝕の根幹に干渉できる能力が黄葉にはあるっていう解釈で正しいのか。
そもそもそんな文字が存在するのかは知らないしわからないけど。

っていうか、分からないことが多すぎんのよねあたし……。

情報源といえるものが限られている以上仕方ないのだけれど、やっぱりそれは不安を煽るから。
まあ、黄葉のことはおいおい考えればいっか……何より関係ないし、とgiven nameは決めた。
そしてちらと日向を見る。そういえばこいつは政府関係者だと後で聞いた。それなら、こいつとは共闘姿勢を作るべきか。
手の内を一切明かさずにそれができるなら、勝機は十分すぎるほどあるのだけど。

蝕の終わりとほぼ同時に現れた政府職員が、顔色も変えずに黄葉の連れ帰った遺体を遺体袋に詰め込み始める。
それをぼんやり見ながら、ああ隔離型は楽そうだから政府職員には人気ありそう、なんてくだらないことを考えた。
その時。

ズボッ

「!」

「ヒィィッ!!」

遺体袋から、腕が飛び出した。
びっくりして一瞬固まる。

「だあからちゃんと生きてんじゃねえかよオレはよぉッ!」

そう叫んだ血まみれの男に、場は阿鼻叫喚に包まれた。









「……つまり、これのおかげで、だ……」

男が見せた文字を見て、given nameは目を瞠る。
『蘇』。生き返ることすらできるのか。……そうか。

「文字ってすごいんだね!」

黄葉が目を輝かせるのを見ながら、given nameは考え込んだ。
やっぱり、可能なんだ。
ぽそりとそんな声を漏らすと、日向が怪訝そうな顔で彼女を覗きこむ。
given nameはそれに気づかないフリをして、男……袴田に近づいた。

「ねえ、傷も塞がるの?」

「ああ、致命傷は……、って……」

given nameと目が合うと、袴田は目を見開いて固まった。
そして、何だろう、と思うより早く、彼は驚くべき言葉を吐いた。

「……given nameか?お前……」

「……は?」

「given nameだろお前、あいつの、黒川の女の!」

彼に名を呼ばれた瞬間こそこんな知り合い居ないぞ、と顔をしかめるが、袴田が次に吐いた言葉で合点がいった。
ああ、なるほど。知らないはずだ。あたしは誰にも興味なかったから。
なるほどなるほど。なるほどねぇー……。

「うっわお前楢鹿に居るとか……黒川血眼で探し回ってたぞ、手下が哀れなくらい」

「あら、探さないで頂戴ってメモは残してきたんだけどね。……とりあえず、空気が凍ってるから、その話はこの場でしないでくれるかしら」

あたしはにっこりと笑う。
日向もアイラもそして黄葉も、あたしを凝視したまま固まってしまっていた。

「……何勘違いしてるかは想像つくけど、それ絶対違うから。不穏なことは、何一つ無いわ」

「いや不穏だろ……黒川多分家継ぐぞ」

「あたしにそんなことは関係ない。愛人じゃないし」

「裏で本妻とか言われてたの知ってるか?お前」

「ほんと違うから。本当に。短期間間借りしてただけだから」

だんだん日向たちの目が訝しげになっていく。いやほんと違うんだって。

「……ちょっと、家に帰れなくなった時期があって。その間だけ、知り合いの家に間借りさせてもらってたの。
で、そいつが面白がってあたしをあちこち連れ回したから、それでこういう勘違いをされてるだけなの。知人以上の関係じゃないわ」

「いやそれは無茶あるだろ、」

「黙れってのよこのヤロウ」

ガスっと彼を蹴りつけ、日向たちを後ろから押しながら帰寮を提案する。
ぎこちないながらも、あまり詮索はされなかった。袴田、要注意。






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