曇*5






軽くシャワーを浴びて、汗を洗い流す。
パジャマに着替えてベッドに横たわるころには、酷い倦怠感と若干の筋肉痛でgiven nameの身体は悲鳴を挙げていた。

「うわー……ねっむ」

眠くて、身体が動かない。久しぶりにこんなにハードな一日送ったもんなー、そりゃだるいわ。
欠伸を連発しながら、眠りに落ちようとする。その瞬間。
何か、陶器のようなものの割れる音が響いた。

「!?」

びっくりして、一瞬で目が覚める。
何だ今の音。
ベッドを覆うカーテンを引く。
音は近かった。
ベッドを降りて、窓に近づき、そっと外を窺う。
と、すぐに気がついた。隣の部屋の窓の真下が、キラキラと月の光を反射して輝いている。ガラスの破片だ。
隣の部屋か、その下の部屋の人間が、窓を叩き割ったのだろう。

「なーんだ……」

大したことじゃなくてがっかり。全く人騒がせな。時計を見ればまだ2時。が、なんだか目が冴えてしまった。
given nameは机の上の小さなランプだけを点けてキッチンに向かい、冷蔵庫にあったミネラルウォーターを飲む。
そこまでしてしまうともう完全に眠気が飛んでしまう。ただでさえ、最近眠りが浅くて悩んでたっていうのに。
コップを流しに置いて、一応ベッドに戻ろうと思った時、机の上に置かれたノートが目に入る。
寝る直前に少しだけ目を通したものだ。
彼女はそれに手を伸ばし、床に座り込み膝の上でそれを開いた。

「これほど理解したくない話も珍しいわ」

given nameはつまらなそうにそれをぺらぺらと捲っていたが、数分で飽きて眠気がぶり返してきた。
立ち上がって机の引き出しを開け、そこにしまい込まれたダンボールの中に更にしまい込む。
ここに隠してあるのはあまり安全じゃないが、生徒に見つけられない限りは大丈夫だ。
楢鹿の運営側にバレるのは大して問題にならないだろう。

「っていうか、バレた方が話が早いかも……」

given nameはベッドに再度横になる。
やはり疲労のおかげか、すぐに体が睡眠に入った。
ああ、早く全て終えたい。
落ちる直前の意識の中、そんなことを考えた。












翌朝、カーテンをうっすらと透過する光でgiven nameは目を覚ます。
もう時計は7時半を指していて、いくら教室まで10分とかからないとはいえ、そろそろ起きなければいけない時刻だった。
確か朝食は8時半までだったから、早く着替えて行かなければ。
最悪間に合わなくてもいいけど、コンディションを保たないととか昨日アイラたちに言ったばっかだしなあ。誰への言い訳かすらわからない話だが。

寝巻き替わりのパーカーを脱いでベッドに放る。
下着姿のまま顔を洗い、歯を磨いた。
鏡の中には決して顔色が良いとは言えない女が一人。

まあ、体調が優れないのは当たり前だ。あたしは超人じゃない。
意識してないところでショックを受けている部分もあるだろうし、多少はビビってるとこもあるだろう。

髪を整えて、制服に袖を通す。
前にも思ったけど、着づらい服。普通の制服とは大分形が違う。
動きやすさから言えば一応の機能性はあるようだけど……。

「……ああ、行かなきゃ」

ふと時計を見ると、もう八時だ。
急いだ方がいい。
given nameはカードキーと筆記用具とルーズリーフくらいしか入っていないバッグをひったくるように取り、部屋を出る。
寮は昨日とは打って変わって、やたらと騒がしかった。
食堂に着くと、もう既に人がはけた後だったらしく、かなり空いていた。
でもまぁ100席以上あるようだから、どの時間に来ても関係はなさそうだが。
これから生徒数はどんどん減って行くのだろうし。既に結構減った筈だし。

「はよ」

「!」

後ろからいきなり声を掛けられて、一瞬硬直する。
振り向くと、そこに居たのは昨日会った少年、日向だった。

「ああ、日向。おはよう」

「last nameも今からメシか?遅いな」

「朝食べる習慣が無いもので」

二人並んで食事をお盆に取り、適当な席に着く。
食事の臭いが朝の体には結構きつい。気持ち悪さを振り払うように、平静を装った。

「黄葉は?」

「ちんたらしてたから置いてきた。
あと10分くらいで来んだろ」

「そういやアイラはもう来たのかな、声掛ければ良かった。
あたしの同室の人もう居なかったんだけど、アイラの部屋はどうだったんだろ」

「やっぱかなり死んでるか。今111人らしいしな」

「募集要項が200人だったわけだから、単純に考えて半減か………。
保つかしらね、最後まで」

食べながら淡々と会話を交わす。
こいつ……大分詳しい。明確な人数を把握してるなんて。
おそらくは政府関係者。味方にして損はない。
こいつを釣るのは可能だろうか?

「last nameお前、詳しいよな」

「え?ああ、友達の身内に政府関係者がいるらしくてね。
少し教えてもらった」

嘘です。そんな友達はいません。
でもここはそれで通せるはず。
と思ったのに。

「……ふーん。それにしちゃ文字のことまで詳しいな。
そいつ、卒業生?」

「さぁ……あまり詳しくは聞けなかったしね。
友達は島が見えなかったから、ここには来てないけど」

「へぇ。
まぁ、よっぽどの目的でもなけりゃこんなとこわざわざ来ねぇよな。
死に来るようなもんだ」

「その言い方だと、よっぽどの目的があるのね?」

含みのある言い方につい切り返す。
日向は口角をつり上げ、意地の悪い笑みを見せた。

「さあ?嘘吐いてる奴には教えてやんね」

一瞬、あたしは固まる。
そうそううまくは行かないか。情報量で負けてるなら情報戦なんてできるわけがない。
内心舌打ちしながらも、given nameは頬杖をついて平然と返す。

「そりゃ、まだ会って二回目で、やけに詳しい男なんて。
アンタの言うとおり、よっぽどの目的があるんだから、嘘くらい吐くわよ」

あたしはこれ以上は探らせないという予防線を張る。
日向もそれを察したのか、「まあ真理だわな」とだけ言ってそれ以上の追求はしなかった。

「ま、誰にも危害を加える気はないから気にしないで」

「それも嘘かもな」

「それって、こんな嘘を吐かせるほどあたしに恨みを買ってる自覚があるってこと?」

あたしがそう言うと、日向はまたも吹き出した。
そして、まあいいや、と言って笑う。

「危険な奴には見えないし。
とりあえず仲良くやろうか」

「異論はないわ」

出された手を躊躇いなく握る。
相互利用協定がここにまた結ばれたわけである。







prev next

戻る


topへ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -