ゴミ箱 | ナノ


▽ 高校生で一緒に登校する龍馬と瞬。


「よっ、瞬。おはようさん!」

突然ぽん、と肩を叩かれ、眉間に皺が寄った。
振り返るまでもなく誰だか分かる快活な声は、隣の家に住む二つ年上の男のもの。
高校入学が決まったと同時に休学届けを出して留学してしまったという変わり者で、つい数ヶ月前に二年間の留学を経て復学してきたばかりだ。
何とかして関わりを断ちたいのに、この男はそんな俺を無視して絡んでくる。
話し掛けるな、と溜息をつけば、俺のそんな様子に隣の男―――坂本龍馬はカラカラと笑った。

俺と龍馬はこの様だが、家が隣同士というだけあって互いの両親の仲はすこぶるいい。
瞬か祟が娘だったら龍馬くんと結婚させたのにねえ、というのが母親の口癖で、冗談でも俺は嫌だと小さい頃から何度訴えたか数え切れないほどだ。
何かと気の合わない弟とも、この件だけでは意見が一致している。

(嫌い、ではないんだが……)

単に苦手なのだ、本当に。
考え方が根本的に合わず、振り回されるばかり。
距離を置こうとしても土足でずけずけと入り込んでくるデリカシーのなさも、そうしておいてもなお憎めないところも、全部が苦手だ。
面向かって「俺に近づくな」と言っても、翌日にはゲーム片手に俺の部屋にやってくるようなところも本当に―――嫌で。
俺がそう言ったことを気にしていることに気づいてしまう敏い部分も何もかも。
苦手で苦手で仕方がない。

「そうそう、姉ちゃんがさ、昨日クッキー焼いたから取りに来いって言ってたぜ」
「……」
「あ!今日俺数学当たるんだよな。瞬、後でノート見せてくれんか」
「………」
「瞬、頼む、この通りだっ」
「……」

足を止めて両手を合わせ頭を下げる龍馬に、俺はもうひとつ溜息を増やした。
不幸なことに、二年間の休学のせいで年上の龍馬が俺と同じクラスという悪夢に見舞われているのだ。
しばらく勉強から離れていたせいか、英語以外の出来が非常に悪い龍馬はこうしてよく俺に勉強関連の頼みごとをしてくる。
テスト前ともなれば迷惑を顧みずに俺の部屋に押しかけ、無理やり教科書を広げもした。
そして気づけばひっくり返って寝ているのだから、邪魔以外の何物でもない。
更に担任からも「家同士も隣で席も隣なのだから、面倒をみてあげなさい」と言われている挙句、親も「瞬は教えるのも上手だものね」と龍馬を俺に押し付けてくる。
どうして俺がこの年上の男のために時間を割いてあれこれとしてやらねばならないのか。
理不尽にも程がある。

「きちんと復習をしなかったお前が悪いんだろう」

言えば、龍馬は捨て犬のような目をして俺を見た。

「しようとしたんだが……教科書を見てたら眠くなっちまってなあ。気づいたら朝だったっちゅうわけだ」
「…自業自得だ」
「うっ…!しようとした心意気だけはかってくれ」
「心意気ではテストの点は上がらない。理解も深まらない」
「しゅーん……」

情けない顔。けれど憎めない顔。
だらしなく緩んだネクタイも、肩に引っ掛けただけのブレザーも、跳ね返る茶色の髪も、どれもこれも気に入らないのに、突き放しきれない。

「数学は一時間目だ。いいのか?こんなところで足を止めていて。ノートを見る時間がなくなっても俺は知らないがな」
「げっ、もうこんな時間か!?瞬、急ぐぞ、走れ!」
「っ、おい、龍馬、手を離せ!」
「お前も急がんと意味がないだろ!」

突如俺の手を引いてぐんぐんと走り出す龍馬に、慌てて足を動かした。
転びそうになりながらも必死についていけば、柔らかな癖毛をふわふわと風に揺らす龍馬の後姿が嫌でも目に入ってくる。
小さい頃は龍馬兄と呼んで追い掛けたこともある背中。
今では俺の方が背は伸びたが、根本的なところでは何一つ追い抜いたり出来ていない背中だ。

「瞬っ、やったぜ、十二分前だ!」

そうして、校門をくぐって一人喜ぶ龍馬に、

「俺はノートを見せるとは言っていない」

せめてもの報復をするのだった。


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というような診断結果がでたので、高校生で一緒に登校する龍馬と瞬。
捏造設定楽しい楽しい。

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