ゴミ箱 | ナノ


▽ おぐりん4(捏造)


短い休暇を終えて自邸に戻った僕を待ち受けていたのは、多忙を極めているはずの次期将軍だった。
どうしてこんなところへわざわざ足を運んだのか―――などと尋ねるのは多分無駄なことだろう。
散々早く帰ってくるように式神を通して言われ続けてきたのだから、僕の帰宅を待ち侘びていたに違いない。
よくもここまで僕に執着出来るものだと感心してしまうほど慶くんは僕に首っ丈だった。

「随分と長い旅であったな」

開口一番厭味を発した慶くんは、言葉の棘とは逆に笑みを浮かべている。

「あっという間でしたよ。もっと長くてもよかったくらいだ」
「まだ私に待っていろと言うのか、お前は」
「待てなんて言ってませんし。慶くんが勝手に待ってるだけだよ」
「それは否定せぬがな」

慶くんは楽しそうにくつくつと喉奥で笑い、応酬した僕の厭味を受け流すどころかあっさりと肯定して、足先を僕の部屋の方へ向けた。
どうやら今日は僕の部屋で酒を飲むつもりらしい。
やんごとない身分の人がふらふらと僕の邸までやってきて酒を飲む―――なんて、何かあってからでは遅いというのに、慶くんはそんなことお構いなしだ。
勝手知ったるどころの話ではなく、僕がいないときでも僕の部屋に上がってくつろいでいたりするのだから呆れてしまう。
僕の部屋で死なれては困るどころか僕の首まで飛ぶだろう。
まあ、一応、僕もそれなりの身分ではあるから、警備は万全だけど。

すたすたと歩き出した慶くんの後を追って、部屋に入る。
既に膳も酒も準備万端の自室に思わず眩暈がしたけれど、邸の者の手際のよさに主としては喜ぶところかもしれないと思い直した。
慶くんも満足そうにそれを見下ろし、本来ならば僕が座る場所へどっしりと腰を下ろす。
この部屋に君臨するのが当然とでも言いたげな態度は、慶くん以外がやったのなら僕はきっと陰陽術でどうにかしているだろう。
主である僕はその隣に座って、慶くんが手に取った盃に並々と酒を注いだ。

「……ああ、やはりこうでなくてはな。今宵は酒は美味く感じる」

ぐっと盃を呷り、慶くんは濡れたくちびるをぺろりと舐める。
慶くんが飲む酒だから間違いなく一番上等なものを用意しているのだろうけど、慶くんが言っているのは勿論そういうことじゃない。

「お前もどうだ、リンドウ」
「いえ、僕は旅で疲れてますし。酒はちょっと遠慮しておきます」

そんなに弱くもない僕でもさすがに疲れを残した身体では酔いが回ってしまいそうだ。
断ると、慶くんはしつこく勧めるでもなくまた酒を飲み、言葉少なに盃を重ねた。
ゆったりと過ぎていく時間は旅先での時間と同じもののはずなのに、どこか心地よく、けれど酷く落ち着かない。
慶くんの手が僕の膝に触れる。
つ、と指が動くのを合図に、僕は息を吸い込んで目を閉じた。

「リンドウ」

低く甘く名を呼ばれて吐息がくちびるに掛かる。
触れてきたそれを拒まずに受け入れると、慶くんの手が僕の肩を押した。

「……今宵は抗わぬのだな」
「抵抗しても無駄だと思ってますから」
「本当にお前はつれないことばかり言う奴だ。そこもまた愛いがな」
「…あのさ、慶くん。可愛いとか、そういうの止めてくださいよ。僕、慶くんより年上なんだから」
「では年上らしくしてはどうだ?と言っても……ここをこうするだけで、ほら」
「っ…は、ぁ」
「実に愛らしいではないか。年上とは思えぬほどに」

着物の袷から侵入した指が、くに、と僕の胸を弄る。
そのまま押し潰され捏ね回されれば見る見るうちに硬く尖り、存在を主張し始めてしまった。
男なのにそんなところが気持ちいいだなんて恥ずかしいしみっともないと思うのに、慶くんが触れていく場所から漣のように快感が起こる。
女相手なら僕の方がずっとずっと経験を重ねていても、男は慶くんが初めてだから上手くそれを逃す術すら分からなくて。
ただ、慶くんに翻弄されていく。

「あ、ぅ、…ッふ」
「つらくはないか、リンドウ」
「ん、ゥ、あ、あァ」

返事も出来ず、身の内を掻き回す指の感触に耐える。
浅い場所を広げるように動かされ、圧迫感に眉根を寄せた。
思えば最初からこうして丁寧に慣らしてくれるおかげで衆道によくありがちな悲惨な自体にはなっていない。
気遣いを有り難いと思う反面、もっと好き勝手に蹂躙してくれれば言い訳も立つのにと思う。

これは慶くんが望んだ行為で、僕はそれを我慢しているだけ。
二条の家の者として逆らえないから、それで。

そんな言い訳もさせてもらえないほど優しくされるものだから、僕自身がこれを望んでいるような気にさせられてしまうのだ。

「もっと声を聞かせぬか」
「い、やです、よ……」
「あの日は随分といい声を出していただろう。あの声を出せばいい」

あの日、と言われて過ぎったのは、式神を通じて淫事に耽ったあの宿屋でのことだった。
慶くんに促されるまま下肢に触れ、慶くんの声を聞きながら果てた。
声でしか繋がれなかったから普段は押さえていた声を上げ、何度も慶くんを呼んで、慶くんも僕を呼んで、互いに上り詰めたのを思い出す。
仕掛けたのは慶くんだったとは言え、それに乗ったのは僕だ。
羞恥に全身が熱くなる。
思わず強張った身体が慶くんの指を締め付けてしまい、慶くんが口の端を上げるのが分かって更に熱を持った。

「慶く、…さいてー……」

八つ当たりした僕から指を抜いて、袴を寛げた慶くんはぴたりと切っ先を僕に押し当てた。
恥ずかしがる僕も可愛いだとか、どうせそういう碌なことを考えていない顔をして、慶くんが口付けてくる。
舌を絡めてとびきりいやらしい口付けの後、慶くんは情欲に濡れた眼差しで僕を見詰め、ふっと口許を緩めて言った。

「出さぬなら、出させるまでだ」

物騒なその言葉が現実となるのは、それから間もなくのことだ。


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