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▽ 露花(桜智×帯刀)


はい、と手渡された花を、小松は訝しげな目で見詰めた。
花束にするには不向きな大振りな花である。
確かに季節の花と言われればそうなのだが、人に贈るような花ではない。
そもそもこの花の花言葉を知っていて贈ってきたのだろうか―――丸いフォルムを撫でるようにくるりと眺め、小松は花から目の前の相手へと視線を移した。

「どうしたの、これ」
「庭に咲いているのを見ていたら……持って行きなさいと、ご老人がくれたんだよ」
「……そう」
「綺麗だったから、あなたにと思って……その、気に入らなかっただろうか」

途端、しょぼんと肩を落とした桜智に、小松はやれやれと溜息をついた。
ここまで一挙手一投足を気にされては窮屈だと思う反面、これが桜智なのだと諦めている部分もある。
桜智を喜ばせるのも、落ち込ませるのも、実に簡単で。
それが出来るのは世界広しといえども小松とかつての龍神の神子くらいだろう。

この見目ばかりはどこの誰と比較しても見劣らない男を、思うままにしているという優越感は中々のものだ。
挙動不審な態度はともかくとして、ここまで懐かれると情も湧いて可愛いとさえ思ってしまうのである。
尤も、可愛いだけで終わらないところが難点ではあるのだが。

「綺麗な花をありがとう。玄関にでも飾っておこうか」
「ああ…っ、花よりも、あなたの笑顔の方が眩くて……眩暈がしそうだよ……!」
「はいはい。花瓶はそこの棚の上だから、取ってくれる?」
「ここかい…?」

持ち前の長身で下駄箱の上の天袋に手を伸ばした桜智は、軽々と大きな花瓶を下ろして水を汲みにキッチンへと歩いていった。
帰宅早々今日も桜智は桜智だということを実感し、花を手に小松も後に続く。
リビングのソファーの上に鞄と花を置き、スーツの上着を脱いだところで桜智がリビングに顔を覗かせた。

「小松さん、花を……」
「ああ、ごめん。ここにあるよ」
「活けて…飾っておくね……」

そっと花を取り上げ、花瓶に挿す。
白い陶器の花瓶に青紫の花の彩が綺麗で、小松はすっと目を細めた。
桜智の目の色よりも濃く、けれど美しい色合いだ。
綺麗だと持ち帰りたくなる気持ちもこうしてみれば少し分かる気がする。

「綺麗だね」
「うん……花も、あなたも、とても綺麗だよ」
「……そう、ありがとう」

桜智のこれは最早病気の域だ。
本心であり、何よりも純粋な気持ちの固まりのようなもの。
上手に流すにはまだ慣れが必要だと冷静に分析しながら小松はソファーに腰掛ける。
桜智はそんな小松を置いて花瓶を玄関へと運んでいってしまった。
遠ざかる足音、気配。
二人での生活はどこか気を遣うことが多い。
ネクタイを緩め、シャツのボタンを一つ外して息をつく。
一日働いた疲れが腹の奥底に溜まっているような気がして、長い睫毛を伏せた。

そのまま、ほんの一瞬眠っていたのかもしれない。
ふと漂う香りに目を開けば、桜智が微笑みながらカップを差し出していた。
揺れる琥珀の液体。
ほんのりと香るアルコールの香りは中にブランデーが入っているからだろう。

「何か軽いものを作るから……少し、休んでいて」

受け取るとその温かさにほっと心が解れた気がした。

「すまないね、……今日は長い時間会議をしていたから、疲れたのかもしれないな」
「身体を壊しては本末転倒だよ……。ご飯は食べられそうかい?うどんか、蕎麦の方がいいかな…」
「……そう、だね。麺類がいい」
「ああ、分かったよ……冷たいうどんにしよう…」

すっと顔を寄せられ、頬に口付けられる。
甘くふわふわとした視線は愛しさに溢れていて、それを受ける小松の方が気恥ずかしいくらいだった。

「ねえ、桜智」

キッチンへ行こうとする背中に呼びかける。

「君、あの花の意味を分かっていて私にくれたの?」

立ち止まった桜智はこくりと首を横に傾けた。
どうやら知らないらしいと分かり、小松はゆるゆると笑う。

「そう、なら覚えておくといい。私は紫陽花のように気を移したりはしないから」
「……?」

慣れないことは多くても、二人で過ごす時間はこんなにも温かい。
紅茶を一口含んで、ほうと満足の吐息を零す。
舌の上に広がる味はすっかり小松の好みを把握したそれだった。

「……君が好きだよ、桜智」

言葉に、桜智の顔がぱっと赤く色づいた。


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