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▽ ぶらり電車旅(りょましゅん)


ごとんと電車が揺れるだけで楽しそうにする男の横顔を、瞬は視界の端に収めていた。
流れていく窓の外の景色を張り付くようにして眺めたかと思うと、その感動を共有しようと瞬に話を振ってくる。
何気ないことでも龍馬にとっては新鮮なのだろうが、こうも続くとやはり煩わしい。

「少しは大人しく出来ないのか」

苦言を呈せば「すまんすまん、興奮してついな」と謝りながらもきらきらとした目で辺りを見回す。どうやら瞬の意見を聞き入れるつもりはなさそうだった。

「おっ、橋だな!こんなもんが通っても落ちんっちゅうのは凄いぜ!」

落ちる方が一大事だ。
ため息をついて窓の縁に肘を乗せ、瞬は周囲を遮断するかのように目を閉じた。
どこかへ旅行へ行こうと誘われて了承したのは瞬だったし、それは間違った判断ではないと思っている。
しかし年甲斐もなくはしゃぐ龍馬に向けられる視線は好奇ばかりで、当然それは隣に座る瞬にも向けられていた。
年も雰囲気もまるで違う二人組がどういう関係なのかと詮索するような気配さえ感じられる。
探られて痛くない腹か、と言われれば同性同士の恋人ゆえに知られたのなら奇異の視線は避けられない。
龍馬は気にしないだろうが、だからこそ瞬が気にしてやらねばと思うのだ。

「次が目的地だ。降りるから準備をしろ」

視線を断ち切るように龍馬の方に身体を向け、飲み終えたお茶の空き缶や菓子の袋をコンビニの袋に片付ける。
それに釣られるように龍馬は携帯電話をジーンズのポケットに仕舞い、ごみを入れた袋を瞬の手から取り上げた。

「行こうぜ、瞬」
「ああ」

揃って立ち上がり、忘れ物がないか座席を確認する。
さりげなく触れた指先に目線を上げると龍馬がにっと笑って瞬の手を握り込んだ。
手を引っ込めるタイミングを逃したまま柔らかく持ち上げられ、引かれ、繋がれる。
ざわりと周囲が色めき立ったが、龍馬は気にも留めずにそのまま通路に立った。

「旅行っちゅうのはいいもんだろ?」

瞬を振り返り、にっと笑う。
男同士手を繋ぐ行為ですら躊躇わない龍馬に、瞬は言葉を詰まらせた後にようやく「ああ」と音を絞り出した。
世間的にどんなにおかしなことでも、龍馬が正しいと信じたならばそれを恥じることはない。
笑われようと蔑まれようと、きっと龍馬は己の信ずるものを真っ直ぐ見据えて前を向いて顔を上げ続ける。
それが瞬を惹き付けて止まない龍馬の龍馬らしい在り方だ。
手を握り返してデッキに立つと、程なくしてがたんと大きく電車が揺れた。

見知らぬ土地に足を踏み出す二人の手は、未だ固く繋がれている。


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