BLっぽい小説 | ナノ


▽ 約束(龍馬×瞬)*現代パロ


弱みに付け込んでいる、という部分は当然ある。
分かっていてやっているから性質が悪いと思われているだろうということも。
しかし、そうでもしなければ踏み込めないのだから仕方がない。
睨まれても怒鳴られても今更引くに引けないのは、きっとお互い様だ。

「っかー!やっぱり瞬の作る飯は最高だな!次は軍鶏鍋を頼むぜ」

殊更明るくそう言って、部屋から持ち込んだ秘蔵の酒を瞬のグラスに注ぎ入れる。
締めのうどんをほぼ一人で平らげた龍馬のせめてものお詫びである。

「どの面下げてそれを俺に頼んでいるんだ…全く」

飲まなければやっていられないと言わんばかりにグラスを空けるペースは早い。
元々酒に弱くはない瞬だから心配はしていないが、それにしても今日は珍しいほどよく飲んでいる。
何か嫌なことでもあったのか―――と尋ねようとして、龍馬は質問を酒とともに飲み込んだ。
高確率で自分のことだと言われるのが目に見えている。

邪険にされるのは構わない。
それが気を許している証拠のようなものだから。
溜息を零しながらも自分に付き合って酒を口許に運ぶ瞬を、どうして放っておけるだろう。
邪魔だと言いながらも決して無理に追い出したりせず、材料もきっちり二人分買ってきて、料理を作ってくれるような男を。
突き放されても結局は受け入れてもらえているから、こうして構うのだ。
構いたくて構いたくて、愛しくて、堪らない。

「なあ、瞬。作るのがだめなら、一緒に食いに行くのはどうだ?ちっと離れた場所になるが、美味い軍鶏鍋の店があるっちゅう話を聞いたんだ」

それが口実であることくらい、瞬にだって分かっている。
唇を酒で濡らしながらそう聞けば、瞬は眉間に皺を寄せて龍馬を見た。

「どうして俺が」
「一緒に飯を食うくらいいいだろう?なあに、心配せんでも俺の奢りだ。いつも食わせてもらってるからな、たまには俺に出させてくれや」
「いつも俺に集っているという自覚はあったのか。それは驚きだな」
「…何なら食費も入れるぜ?」
「結構だ。毎日お前の飯を作るなど冗談じゃない」

タンッ、とグラスをテーブルに置き、瞬が立ち上がった。
多少足下が覚束ないのは未開封だった一升瓶の酒がもう残り僅かになっているからだろう。

「片づけなら俺がやる。いや、やらせてくれ。美味いもの食わせてもらって何もしないんじゃあ罰が当たっちまう」

そっと瞬の手から鍋を奪い、取り皿や箸をそこに乗せる。
龍馬の食器、箸、二人用の鍋。
龍馬が持ち込んだそれらが当たり前のように瞬の部屋にあることに唇が勝手に弧を描いた。

「龍馬…」

僅かに潤んだ菫の瞳から目を逸らす。

「……来月なら、少し時間が取れる」

背中に掛かる声に期待をするのはいけないことだろうか。
同じ気持ちでいて欲しいとは言わない。
でも少しだけ、特別なのだと自惚れさせて欲しい。

「じゃあ来月、絶対だぜ」

些細な口約束でも今は充分に幸せだ。

prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -