08 恋心下心|燈治
うわあ、と情けない声で目が覚めた。
どくどくと心臓が早鐘を打っている。
カーテン越しに差し込む光はもう朝だということを告げていたが、燈治は身動きが取れないまま呆然と壁の染みを見つめていた。

夢に、千馗が出た。
そこまではいい。
今までだって何度も見てきた。
戦いの夢、学校での他愛のない会話、カレーを食べる夢。
どれも燈治の中で当たり前になってきたことばかりだ。
それだけ毎日が燈治の中で色づいていて楽しいということだろう。
千馗と出会ってからというもの、燈治は毎日が本当に楽しくて仕方がない。

しかし、今日の夢は違う。
しなやかな手足を燈治の前に投げ出して、濡れた目でじっと燈治を見ていたのだ。
一糸纏わぬ姿でしどけなくベッドに寝そべる千馗は目覚めた今でも網膜にしっかりと焼き付いている。
思い出すだけでまた心拍が早くなった。

「…マジ、かよ…」

呟いた声は掠れている。
友人の、親友の全裸を夢に見るなど異常だとしか思えない。
しかし嫌悪は一切ない。
それどころか夢から覚めなければ良かったと心のどこかで残念に思っている自分がいる。
あのまま目覚めなければ夢の中の燈治と千馗は一体何をしていたのだろうか。
とうじ、とあの唇が名を呼ぶところを想像し、燈治はごくりと生唾を飲み込んだ。

「………いやいやいや、待て俺。落ち着け俺…!」

じっとりと浮かんだ額の汗を拭い、燈治は細く長く息を吐き出した。
既に体勢は前傾姿勢だ。
明らかに勢いが違うそれを感じ、こめかみが鈍く痛む。
まさか、そんなと否定をしたところで、はっきりと兆してしまっている身体が何よりの証拠だ。

最早誤魔化しきれない感情の芽生えを自覚して、燈治は顔を真っ赤にしながら唸り声を上げた。


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bkm
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