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海の見える喫茶店。客も疎らな店内には、ゆっくりとした曲調の洋楽がかかっている。
いつだったかゲンさんに、コーヒーが美味しいと教えてもらったお店だ。このお店のコーヒーは確かに美味しい。甘党で、味覚が子供だといわれるわたしでもノンシュガーで飲めるほどだ。香り高く、味深く。少し前までコーヒーは苦いだけの飲み物だと思っていたわたしだったが、ここのコーヒーを味わってから認識を改めた。コーヒーという飲み物は、苦さの奥に甘酸っぱさを隠しているのだ。

ああ、美味しい。
至福のひと時である。



「ところでカナエちゃんって、ダイゴとどこまで進んでるの?」


……目の前で大量の砂糖をカプチーノに投入しながら話し掛けてくる、この人さえいなければ。


「…あの、シロナさん。こんなところで油売ってていいんですか」
「いいのよ。どうせリーグには滅多にトレーナー来ないし、来てもだいたい四天王止まりだもの」


そう。なんとわたしはシンオウリーグチャンピオンの超グラマス美女と膝を組んでいる。何故?わたしがひとりで美味しくコーヒーを飲んでいたところに、「あら、偶然ね」と何処からともなく現れ、わたしが何か言う前にサッと向かいの席に座り込んでしまったのだ。この人は。
世の男性トレーナー諸君からすればとてつもなく喜ばしい事であろうが、今のわたしの心境はとても複雑だ。別に、この人が嫌いなわけじゃない。ただ彼女は、何か大きな勘違いをしていて、それで会話が成り立たないというか。認識の誤差があるというか。


「で、ダイゴとはどうなの?まさかベッドまではいってないわよね…?」
「ベッ…。…ええと、前々から思ってたんですけど、シロナさんの勘違いですよ。わたしとダ…、ホウエンリーグチャンピオンのツワブキダイゴはシロナさんが考えているような関係ではありませんし今後そのような関係になるつもりもありません」
「本当に?」


そうやって首を傾げる仕種も美人だからすごく色っぽい。おそらく地毛だろう金髪はサラサラと彼女の黒いコートの上を滑る。白雪を思わせる肌はとてもきめ細やかで、店内の光を乱反射して輝いているように見えた。
これがわたしと同じ生き物だなんて、嘘だ。


「本当です。ツワブキダイゴとは、本当にただの腐れ縁ですよ」


答えながら内心溜息をつく。


ダイゴの知り合いとして、彼とどういう関係か、という質問を受けることは多い。特に女子。まぁ、確かに顔良し頭良し性格は…表向き良し、しかもホウエンリーグチャンピオンで国内トップクラスを争う大企業の御曹司ときたら、そりゃあ女の子達に人気がでるのもわかりますとも。
だから、『あなたは彼とどんな関係なんですか』と問われた時には『ただの昔の知り合いです』と答えるようにしている。実際そうだしね。


しかし、極々稀に、それでも引き下がらない方もいらっしゃる。例えば、目の前の御仁のような方である。


「ええー、じゃあ…。ミクリとはどうなの?彼とも知り合いだって聞いたけれど」
「知り合いって聞いたなら知り合いでしょう。実際知り合いですしね」
「じゃあゴヨウ?」
「ないです」
「じゃあクロツグのおじ様」
「………」


……この人、途中から適当になってきたな…!
ちなみにクロツグさんは妻子持ちですよ。


「とにかく、わたしの事なんてシロナさんには関係ないでしょう?じゃ、そろそろ失礼しますね」


そう言ってわたしは、自分のコーヒー代を机に置いて立ち上がった。あーあ、全然寛げなかった。


「待って、カナエちゃん」


くい、と袖を引っ張られて振り返る。
シロナさんは笑っていなかった。真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになる。
ああ、ダイゴとおんなじ目だと思った。



「あたしと、バトルしない?」
「…なんで」
「強いって聞いてるわ。貴女を知っている人はみんな、そう言うの。ダイゴも、ミクリもゴヨウもクロツグも…」


どうやら、今日わたしに話しかけた理由はこれらしい。それならそうと言ってくれればいいのに。無駄に長ったらしい前置きなんていらなかった。
結局、わたしもこの人もポケモントレーナーってことなのか。




「確かめてみますか?」

わたしの噂が、本当かどうか。


シロナさんは、世間話をしている時よりも瞳を煌めかせて微笑んだ。その瞳の奥で、青い火花がパチッと弾けたのをわたしは見た。


ベルトのボールが、かたりと揺れる。






ニード・アイ・セイ


(目と目が逢えば言葉なんていらない)




*

シロナさんとおしゃべり。
バトルはまたの機会にでも^^;

百合ではないが。

シロナさんってやっぱり近づき難いイメージありそうですね。特に女性から。だから周りに普通の女の子としての話題をもてる人がいなかさそう。本人は結構お茶目で可愛い人なんだけど。やっぱり色眼鏡越しだと、どうしてもそうなっちゃう。

カナエちゃんはシロナさんにとってかなり貴重な存在です。同世代で年相応な世間話も楽しめるし(一方的に)。

でも結局彼女もトレーナーなので、やることは一つでしょう。

カナエちゃんは…ううん…シロナさんが嫌いな訳ではないが、話題が苦手。
2013/06/01


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