さくさくと隣りから聴こえる音に耳を傾けつつ、読書をすることに最近慣れはじめた。3日前行われた席替えによって、私の隣りはかの有名な「キセキの世代」の一人、紫原敦君になった。2m越えの身長とは反対に、小動物のような食べ方、少し子供っぽい性格などギャップがあるらしい。そこを好きになる女の子達が多いとか。確かに今まいう棒をリスのように食べる彼は可愛い。だけど食べる度に落ちるお菓子のかけらが気になってしまうのは何故。ここでA型の血が出るのかちくしょう。本の内容が頭にあまりはいらないまま、ぺらぺらとページをめくっていると

「ねえ」

『…へっ?』

どどどどうしたんだろう紫原君今まで話したことがないのにまさか食べかすが気になる私の思考をキャッチして「何こいつひねりつぶしたい」とか思ったのかもしれないニュータイプなのか紫原君!内心汗がだらだらな私に構わず

「もしかしてお腹すいたのー?」

『…??』

「さっきからここがぎゅーってなってるからー」

ここ、と指を自分の眉間にもってきておそらく私の表情を真似ている紫原君。な、なんか可愛い。

『お、お腹はすいてないけど…ちょっと紫原君の食べかすが気になりますというかなんというか…』

はっ、言ってしまったよ名字名前!これで私の平和な高校生活がひねりつぶされ…

「じゃあとってー」

るはずだった、あれ?私の幻聴かと思ったけれど目の前には食べかすがついているところを指さす彼。

『い、嫌じゃないの…?』

「んー…嫌というよりおかーさんみたいだなーって」

と、少しへらっと表情を崩す。さっきから本当可愛いなこの子。でもあまり男子と関わらない私にこれはちょっと、というよりかなり恥ずかしくなってきた。今更あたふたしてきた私に、早く早くと言わんばかりの紫原君。その雰囲気に負けて、恐れ多くも気になっていた食べかすを取り始めた。机の上はもちろん、床もきちんと。

『…これで大丈夫かな?』

「あれー、ここはー?」

あえて触れないようにしていたけどやっぱり服の上と口周りもか…!紫原君やりおる…!恥ずかしい気持ちは山々だけどこれ以上待たせてしまうのも申し訳ない。私は腹を据えて服の上を手でぱぱっとはらった。あ、また床が汚れちゃった。

『紫原君、ちょっと目を閉じててくれるかな?』

「えー、なんで?」

『…とにかくお願いします』

改めて可愛いというかかっこいいというか、整っている顔を前にして緊張しない訳がない。目を閉じてもらっていても顔が暑くなるのは人間の性だと信じてます。…よし!

『今度こそ大丈夫だよ』

「ありがとー。えっと…」

『あ、名字名前です』

「じゃあ名前ちん。これお礼にあげるー」

と手に落としてくれたのはレモン味のあめ。というより名前呼び…。

「これからもお願いね、名前ちん」

と言って目を細めて笑う紫原君に再び顔が暑くなるのは人間の性だと信じてます。そしてレモン味のあめから何故か「初恋はレモン味」という言葉が浮かんだ。


121016






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