甘く甘く甘く
炭酸の泡を見ていると、ずいぶん勝手に時間が過ぎる。
ふう、と息をついて体を伸ばすと骨が鳴いた。
あれから、たぶんあの夏の日から、俺は相変わらず炭酸が飲めない。
割れたビー玉もとっくに俺の知らない場所へ行ってしまった。
ただ覚えているのは彼女の笑顔。暑いあの日、飲んだラムネの味はもう忘れた。
けれどいつも、夏になるとラムネを買ってしまう。これは無意識に行っているようで、一時は冷蔵庫にラムネのビンが一ダース入っていたことがあった。無意識怖い。
せっかく買ったラムネを捨てるのは勿体ないので、炭酸が抜けるのを待つ。ずっと、待っている。
彼女に返せなかった電車代は、封筒に入って静かに彼女を待っていた。たぶん、俺が生きているうちには封は開かないだろう。
匂いと色だけが変わらないそれを口に含む。喉が焼けるような感覚。
「…甘」
どっちにしろ、炭酸は苦手だ。