残りをあなたに
どうして自分のぶんを買わなかったのだろう、飲みかけのラムネを爽快に煽る彼女を見て思った。けれど暑さに一瞬で思考回路を奪われて、そういえば間接キスだとか彼女は気にしないのか、とかどうでも良くなった。
カルキの匂いがしない水。人気の無い一本道。煩いくらいの蝉の声。柔らかい土の感触。遠くに見える、森の色。錆付いた線路。
「この線路をさ、ずっと辿って、果てまで行ってみたくない?」
「果て、って、何処だろうね」
「さぁ?」
普通に途切れてそこで終わってるかもね。彼女が笑う。夢がない。でも可愛い。嗚呼、
「もうそろそろ、四時だね」
頭のなかで帰りたくないね、と、早く帰らなきゃね、が同時に響く。でも実際に口から出た俺の声は後者を意味するものだった。