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拝啓 山田花子さま
新秋の候、いかがお過ごしでしょうか。そちらは、きっと河原の銀杏並木が色づき始めたことでしょう。江戸の季節は早足で、街を歩くと冬物の着物ばかり見かけます。
長らく連絡をせず、申し訳ありません。忙しかったというのもありますが、大半の理由は、僕が臆病者だったせいです。 その話は、また追々。
先日、団子を食べました。里を出て以来、甘味はあまり食べなかったのですが、久々に食べると、いいものですね。けれど、やはり子供の頃によくあなたがくれた団子のほうが、僕には美味しく思えるのです。
里を出てから、十三年が経ちました。一度も里帰りをせず、すいません。今さら手紙を送ったところで、あなたはもう、僕のことなど、忘れているかもしれませんね。たとえそうだとしても、それは僕の臆病な自尊心が招いた結果であり、あなたを責めるつもりは毛頭ありません。筆をとったのは、どうしても伝えたいことがあるからなのです。 もし、あなたがまだ僕を友人だと思ってくれているのなら、僕に会いに来てほしいのです。
もちろん、列車の手配は僕がします。都合がつかないようなら、無理にとは言いません。ですが、僕があなたに伝えたいことは、紙上で伝えきれるものではないのです。ちゃんと目を見て、あなたに僕の声で伝えたい。 本来なら、僕があなたの元へ行くべきなのでしょうが、いまの僕は江戸を離れることができません。そして、まだ里に帰るだけの勇気がない。どうか、許してください。
思うままに筆を動かしているので、とても稚拙な、まとまりのない文になっているでしょう。その上、文字も乱れていて読みにくい。本当なら、もう少し器用に書くことができるのですが、今はその余裕がないのです。一刻も早く、あなたに伝えたいことがある。もっと早く気づいていれば、もっと早くあなたに伝えられたのに。自分を情けなく思います。これから寒くなってきますから、ちゃんと温かくしてお過ごしください。
あなたに会えることを願って
敬具 伊東鴨太郎
2011/12/11
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