23 丸く収まるほど人生は甘くない
「許さない許さない許さない!!やっと気持ちが通じあったのに??やっと普通に幸せになれるはずだったのに?ハッピーエンドでトゥービーコンティニューのはずなのに?どーしてそーゆーことするんだ、あの人は!いや、あの人らしいと言えばらしいけど!!らしすぎるよ!
そうか。わかったよ。ええ、わかりましたとも。混沌と混乱の化身のような人だ。あの人を捕まえとくにはそれ相応の首輪が必要だって、やっとわかった。見つけた日には、首輪とリードで庭先に繋いでやる。そして、ワンって鳴かせる。絶対そうする。人吉、その時はあんたが証人ね」
咲夜はこれまで散々な目に遭わされても決してその人の事を悪く言わなかった。その彼女はその日、安心院顔剥ぎ事件の時よりも、時計塔でのたうちまわっていた時よりも、なお恐ろしい形相でキレていた。と、後に人吉は語っている。

私は怒っていた。どうしようもなく怒っていた。
事件は卒業式の後、めだかちゃんの壮行会を終えてから二週間ほどして起こった。それまで卒業しても毎日学園の周りをうろうろしていた球磨川先輩が急に姿を見せなくなったのである。
というと何を大袈裟なと思うかもしれない。始めは私もいつもの気まぐれが始まったと、そのようにしか思っていなかったのだ。それがどうだろう。三日経っても何の音沙汰もない。携帯は圏外のまま。
次第に何かに巻き込まれたのでは、という思いが私の中で渦を巻き始める。
こんな時に安心院さんがいれば、七億の端末のうちの誰かから情報を得られただろうが、あいにく私には端末はないし、安心院さんはもういない。
私は最初に不知火半袖のところを訪ねた。
「球磨川先輩ねぇ」
彼女は少し考えるそぶりを見せてから、スマートフォンを取り出して、ものすごい勢いで操作し始めた。そして、急に真顔になってこちらを見つめてくる。
「あの人、色んな名前でネトゲとかsnsとかやってるはずなんだけど、びっくりだよ。アカウント全部削除してある。いやぁ笑うしかないよねぇ」
と言ってから、とってつけたようにあひゃひゃと笑った。
「どの携帯も通じない。ネトゲもsnsのアカウントも全て消した。何かに巻き込まれたっていうよりこれじゃあ」
私の呟きに、不知火は神妙に頷く。
「あの人の意思なんじゃない?」
「そう、ありがと」
愕然と私は席を立った。その背中に声がかけられる。
「最後に球磨川先輩がつぶやいた内容は『まさかの場所で、まさかの人が!!!』で、キヲテラエのライブT姿の都城とのツーショット写真だ。会ってみればいいんじゃないかな。ま、あの人がここまでしてるんなら、無駄だろうけど☆」

そして冒頭の状況に戻る。
「咲夜さん、落ち着けって。気持ちはわからんでもないが、生徒会室で暴れるのはやめてください!」
私の肩を人吉が抑える。
「だって、だってだってだって! ……いや、ごめん。悪かった」
まだ高ぶっていた私も、そう言われてやっと平静さをとりもどした。
「俺も手伝いますから」
「ごめん。子供みたいにだだこねて。でも、大丈夫。まずは、都城さんに会ってみて、それから考える。あーもう。ほんとあの人の考えてることがこんなにもわからないの、初めてかもしれない」
カバンを手にとって出かけようとする私の横に人吉がやってくる。
「なに?」
「俺も行きます。今あんたほっといたら、どこまで探しに行くかわかりませんからね」
そう言って人吉は、ニカッと笑う。

「ああ、会った。だが、奴はライブの途中で帰ったがな」
会って早々、都城は軽く言い放った。彼は、どうやら知らないのだ。球磨川先輩が消えたことを。
「帰ったところは見たの?」
「いや、アンコール曲の途中だったからな。アンコール曲が終わって、横を見たらもう居なかった」
「どんな曲?」
都城は趣味を布教する人間の笑みで、ポケットからウォークマンを取り出した。イヤフォンを私がつけたのを見て、スイッチを入れる。
聞きながら、私は何も言葉を言うことが出来ずに口をぱくぱくとするしかない。一緒に曲を聞いている人吉には、その意味がわからないようだった。
「わかった。あの人が何を始めたか」
呆然としながら私は都城の手にウォークマンを押し付ける。
「何の話だ」
都城が私を見下ろしている。
「性懲りも無く、あの人は新しいゲームを始めたんでしょう。混乱と混沌を振りまいて、今度は私達全員と勝負する気なんでしょうね。ほんと信じらんないこと考えるなぁ」
言いながらまたふつふつと怒りが湧き上がってくる。
「待て待て。咲夜さんどういうことだ」
人吉が私をなだめようと背中を叩く。
私はできるだけ落ち着いて、話そうとする。
「都城、二つだけ聞く。須木奈佐木咲といえば水槽学園の出身じゃなかった? 彼女、アンコール曲の前に何か言わなかった?」
「ああ、そうだ。戦うのをやめてしまった友人に捧げる歌だって言ってたが」
「多分その友人が、球磨川先輩。これは先輩にあてられた歌」
都城の顔が歪む。おおかた、ずるいぞ球磨川とかそんなところだろう。この人はそういう妙なマイペースさがある。
「あの人、私達全員を相手にかくれんぼを始めたんだ。逃げ回るから探してねってことでしょう。ほんと意味もへったくれもないことを。
他にもなんか方法あるでしょうに、よりにもよって!本当に!あの人は!あの人ときたら!!後悔させてやる。私をこれほどまでに惚れさせたこと、絶対後悔させてやる。
どうして、私を連れてってくれないの。ほんとほんとにもう」
しゃがみこんだ私の隣に人吉もしゃがみ込む。私に視線を合わせて、人吉はニカッと笑った。
「それなら俺、わかる気がしますよ。彼女に負けたまんまじゃ、カッコがつかないでしょうよ。男として。まぁだからと言って、この方法は本末転倒な気もするけど」
「ほんともう、そういうところが球磨川先輩なんだよね」
わめくだけわめいたら妙にすっきりとした。
「球磨川を探しているのか。なんか耳に入ったら連絡しよう」
そう言ってくれた都城に手を振って、私と人吉は帰途につく。
「探しに行くんですか?」
そう聞かれたから、私は首を振った。
「行くけど、すぐには行かない。散々迷惑かけてきた上に高校もやめちゃったら親に申し訳ないから」
「さっきと言うことが違うじゃないですか」
「そうでもないよ。まだ怒ってるもの。すぐになんか探しに行ってやんない」
そう言って私は伸びをする。
「見つかりますかねぇ」
「安心院さんの糸はもうなくなっちゃったみたいだけど、人と人との縁はスキル効果が切れたってなくなったりはしないよ、きっと。でも、あの人がいないと、張り合いがないの」
高校にいるうちはいい。だけど、卒業してわたしはどうしようというのだろうか。探すとしてもどうやって。どこにいけばいい。
考えながら私の頭の中に阿久根の姿が浮かんだ。
彼の「私のいつも球磨川先輩の後ろにいる、そのスタンスがいつか私に牙を向く」との発言がなんとなく胸の内に引っかかっているのだった。

そうして月日は流れ流れて……………

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